教育虐待
文郷製菓
第1話 現在
どうしてこうなってしまったのだろう。
小林優菜(ゆな)は、貸切の大浴場の湯船に足だけ浸けて、磨りガラスをぼんやりと見つめて独りごちた。
精神病院に入院をしてはや4ヶ月。もう秋だ。
ゆらゆらと揺れる水面が視界にちらつく。
ペンを握りすぎて固くなった、右手の親指の関節を触る癖が抜けない。
「弱音を吐く暇があったら努力しなさい。」
母親の口癖は、まだ、呪いのように優菜の心を締めつける。
優菜は大きいため息を吐いてから、湯船に身体を浸けた。水圧で肺が潰されて、息ができなかった。
独りでじっとできない子供のように、足の指の間を手で擦って、垢を削ぎ落とした。
初めてこの病院に来たのは、7月の初めだったと思う。
今よりももっと暑い炎天下の中、こんな辺鄙なところまでバスに乗ってやってきたはずなのだが、うまく思い出せない。
6月の末、夜中まで続く両親からの罵倒に耐えかねて、声が出なくなった。朝起きたら、声の出し方がわからなくなっていた。
成人したので、保護者なしで病院にかかれるようになった。だから、ここで助からなかったら死のう。
ただそう思ってふらふらと、声の代わりに涙を流しながら、家の鍵とスマホとイヤホンと財布と、希死念慮を綴った日記を持って、ここまでたどり着いた。
心理的虐待の複雑性PTSDと、過労での鬱病だと診断された18歳の少女一少女と言うには大人びた、だが心は幼児のような柔い命が、中核都市の外れの精神病院「愛ひかり病院」に存在している。
教育虐待 文郷製菓 @MontBlancQ29
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。教育虐待の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ほおずきの唄/金村宗
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 6話
20代前半はツライよ/野志浪
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 17話
思い出のディストピア/十三番目
★33 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
書きたいときに書くだけのメモ的エッセイ/ようひ
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 67話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます