第18話 無理な話だ

「アル、何がやっぱりなの?」

「フィー、ジンさんが言っていることは本当だってことだよ」

「え? アル、自分が何を言っているか分かっているの?」

「うん。分かっているよ」

「ダメよ! ジンさんが言っていることが本当だと認めたら、あの国エンディリア国にある世界樹ユグドラシルがニセモノだと認めることになるのよ!」

「認めるも何もニセモノじゃないの」


 アルの呟きに反応したオフィーリアがアルを問い詰めるように言えば、それを聞いたアリーが横から「ニセモノじゃない」と茶々を入れたのに対し、オフィーリアはアリーをキッと睨み付ける。


「あら、私を睨んでも事実は曲げられないわよ。そこの坊やも分かっているようだから、ハッキリと言うけど、ここにある世界樹ユグドラシルが本物で、あなたの国エンディリア国にあるのがニセモノ……そうね、まがい物と言った方がいいかしら」

「ウソよ!」

「フィー……」

「ま、認めたくないわよね。今まで散々利用してきて本物だと思っていたのが実はでしたって言われてもね」


 オフィーリアはそんなアリーの言葉に「私は信じない!」と言い切ると口をキュッと結ぶと、堰を切ったようにアリーに対して畳みかけるようにしゃべり出す。

「だって、本物の世界樹ユグドラシルなら、エンディリアにある世界樹ユグドラシルの様に誰もが見上げるくらいの大樹になっているハズだもの! そんなのここにはないじゃない! エンディリアの世界樹ユグドラシルは国境からも分かる様に立派な大樹なのよ! どう? 私が言いたいことは分かるかしら?」

「ふぅ~あのね……」


 ふぅふぅと肩で息をしているオフィーリアをアルは左手で顔を抑えながら「なんてことを……」と呟き、ジン達はこれからのことが予測出来るのか、アリーの方を見ながらニヤニヤしている。そしてアリーはそんなオフィーリアの態度に嘆息してから、一気にしゃべり出す。


「いい? ここにある本物の世界樹ユグドラシルは無駄に大きくならないようにしているの! いいこと? 下手に世界樹ユグドラシルの魔力をただ単に木々の生長にだけ向けてしまうと、イタズラにその木の寿命を縮めることになるのよ」

「え?」

「確かに大きく山と間違える位に高くなれば、自慢したくなるのも分かるけど、それは寿命と引き換えだということを分かってね」

「「……あ!」」

「ふふふ、私が言っていることが分かったみたいね」


 アリーが話した内容に思うところがあったのかオフィーリアとアルは互いに顔を見合わせて合点がいった様な顔になる。


「フィー、やっぱりエンディリアの世界樹ユグドラシルはニセモノで、その寿命は……」

「アル、そうなの? エンディリアの世界樹ユグドラシルはもうダメなの?」

「フィー……」

「それもお前の家出の原因の一つなのか?」

「……」

「ジンさん、話を聞いてもらえますか」

「ったく、面倒くせぇなぁ~」

「やっぱり、ダメですか」

「ふふふ、アル君。ジンさんの気が変わらない内に話しちゃいなさい」

「え? いいんですか?」

「いいの。ジンさんはああ言っているけど、『面倒くせぇ』と言いながらも結局はお願いを聞いてくれるんだから。まあ、その内慣れるわよ。そんなことより、ほら、早く!」

「あ、はい。ジンさん……」


 オフィーリアとアルの様子から家出の原因が単なる婚約騒動だけでなくアリーがと言い放ったエンディリア国の世界樹ユグドラシルも原因だと言うことは予測が付いた。そして、アルは改まってジンに対し、自分達がどうして国を出たのかを説明し始める。


「……と、言う訳なんです」

「で?」

「はい?」

「だから、お前達はどうしたいんだ?」

「「え?」」

「だから、お前達の国エンディリア国にある今にも枯れて倒れそうな世界樹ユグドラシルをお前達はどうしたいんだと聞いている」

「そんなの元通りにしたいに決まっているじゃない!」

「フィー!」

「……だって」

「フィー、君も分かっているんでしょ。それは出来ない相談だってことを」

「でも……でも、このまま放っておくことも出来ない!」

「だからって、寿命を迎えそうな世界樹ユグドラシルにこれ以上無理をさせることも出来ないよ」

「じゃあ、どうすればいいのよ!」

「フィー……」


 ジンの質問に対しオフィーリアは予想通りの『元通りに』と答えるが、アルはそれを出来ないと答えるが、オフィーリアは涙を流しながらアルに対して、ならどうすればと訴える。

 アルはそんな嗚咽しながら肩を振るわせているオフィーリアをそっと抱き寄せる。


「で、纏まったのか?」

「あ……」


 ジンは二人の様子をジッと見ていたが『無理だ』という以外の言葉が二人からは出て来なかったので、結局どうしたいのかとアルに問い掛ければ、アルもその言葉の意味が分かったのか、言葉に詰まる。


「要はお前達もまがい物の世界樹ユグドラシルをどうにかしたいと思って国を出て来たのはいいが、それがダメだと分かったところで代替案も何も用意してなかったことに気が付いたってところか」

「……はい」

「だってよ、アリー。どうするよ?」

「私に振られてもどうしようも出来ないよ」

「そんな……」

「フィー」

「あのね、さっきもそこの坊やが言ったでしょ。もう、ただ死を迎えるだけの樹木にこれ以上の無理をさせてもそれは崩壊を進めるだけだって」

「……」

「だとよ。まあ、お前達のご先祖がバカやらかしたことだ。それが元で国が崩壊することになったとしてもだ。お前達が責を負う必要はないってことだな」

「……でよ!」

「ん?」

「巫山戯ないでよ!」

「はぁ?」

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