リクニス

 瑠璃雛菊の後に咲いたのは仙翁だった。

 足の甲に生えたそれはぐんぐんと伸び、花をつけるころにはフロースの腰ほどまで成長した。

 花の咲いた晩、フロースは誰かが自分に呼び掛ける声に目を覚ました。だが辺りを見渡しても人影はなく、ただ月明かりに照らされる己の身があるだけだ。

 それでもなお聞こえる呼び声。

「あなたの願いはなに?」

 それはフロースの声だった。

「私は、もう花なんて咲かせたくない。もう、誰の願いも叶えたくない」

 ほとんど錯乱状態でフロースが自身の問いに答える。もうどれが幻聴で、どれが自分の声か分からなくなっていた。

 心を曝け出すというのが、こんなにも感覚を乱すものだとフロースは知らなかった。もうどちらが上でどちらが下だか分からない。

 ただ、花を喰らいたいという欲求だけがフロースを突き動かす。

 先が細裂している深紅色の花弁にフロースがかぶりつけば、その根は甲から剥がれ落ち、フロースの願いは果たされた。

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花を喰らう 彩葉 @irohamikan

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