性癖の誘導って、お前そんなん、完全にディストピアやんけ
白川津 中々
■
情報化社会の昨今、個々人の性癖はAIによって把握され、その人に向けたクリティカルなスケベ作品のフィードバックが行われているのは周知の事実である。
諸兄らにも覚えがあるだろう。「おいおい……こんな、こんなのお前、許されていいのか……」といったイラストや動画が利用サービスのオススメ欄に出てきたサプライズ。
それらは無論、閲覧、購入履歴によって機械的に選ばれているに過ぎない。巨大サーバに蓄積された情報を基にコンピュータが演算。「お前こんなん好きやろ」という統計的な推測によって表示されるだけである。そこに意図はなく作為もない。純然たる己が性癖を紹介する名刺なだけである。
だがしかし、もし何者かが我々の趣味に介入しだしたとしたら、どうだろうか。
第三者が性癖に介入し、土足でストライクゾーンを変更されたら、諸兄らはどう思う。
先日、俺は街を歩いている時に巨乳の眼鏡女を目撃した。
それまではスレンダーが体形が好みであり、おっぱいなど醜い脂肪の塊であると唾棄していたのだが、その女の胸部が揺れるのを見て脳が絞られるような倒錯に陥った。そうとも、性的興奮を覚えたのだ。巨乳の女に。
「最近のオタク共はマザコンを拗らせて奇乳のキャラクターを愛でるようになった。実に嘆かわしい」
生ビール一杯350円の店で行われた宴の席にて壮大なディスをかましていた自分がフラッシュバックし恥じ入る。しかし衝動は止められず、急ぎ足で帰宅して御用達の紳士用サイトにアクセスしたのだった。そして、そこで愕然とした。
あなたにおススメ。
メロン女子大生ふーかちゃん(仮名)が大胆姿で(以下自粛)。
パッケージに写る女は、俺が街で見た女と同じようなバストサイズで眼鏡をかけていて、なんなら同一人物ではないかと疑うほどに似ていた。巨乳と眼鏡というアイコンが一致していただけかもしれないが、俺はそのおススメ作品にあの女を重ね、ダウンロードボタンをタップしたのだった。
しばし間が空き、俺の心は恐ろしさに満ちていた。どうして公言もしておらず検索すらしていない性癖の芽生えに対して、いち早くサイトが対応できたのか神妙不可思議だったからである。
もしAIが俺の異常を察知してあの作品を勧めてきたのだとしたら、どのような科学技術によってそれをなし得るのかまったく想像できない。俺の脳はスタンドアローン。介入などできるはずがないのだ。
これはSF(少し不思議)案件か。
うぅむと唸り、改めてスマートフォンの検索履歴やソシャゲのキャラクターを見た。そして気が付いた。ウ〇娘のゼ〇ンロブロイ育成にあたり攻略wikiを眺めていた事を。
まさか……いやしかし……
動揺し天を仰ぐと、低い天井が俺を睨む。身震い。
仮に俺のスマートフォンのデータが利用されていただけならまだいい。情報保護の観点からいえば完全アウトだがまだ納得がいく。問題は、俺が知らず知らずのうちに洗脳され、眼鏡巨乳好きに誘導されていた可能性があるということだ。
俺は胸がない方が好きだ。ウ〇娘ではサ〇レンススズカやラ〇スシャワーを好んで育成していた。それがどうしてゼ◯ンロブロイの育成に手を出したのか、記憶を辿ってみても明確な動機がまるで分らないのだ。もしかしたら、ネットの深淵を彷徨うにあたって思考矯正が行われ、性癖を歪められたのではないか。
これは思考ジャックかも知れないという推理。しかし、いったい誰がどんな目的で。
……政府だ。少子高齢化に歯止めが利かぬ現代日本において、どうにか出生率を上げんと豊満な胸を持つ女、成熟した女に欲情するよう政府が動き、秘密裏に思考ジャックを行ったのだ! そう考えれば昨今におけるオタクの巨乳信仰も頷ける!
あぁなんという事だ! 性癖は自由なはずだ! それを強制されるなどとんだディストピアではないか! 我々オタクの自由意思は阻害され、一般人的な価値観を持たされているのかもしれないのだ! なんという暴力! なんという尊厳破壊! 国力維持のために、オタクのアイデンティティが奪われたのだ! 国家という巨人によって!
ならば我々はリバイアサンとなって戦わなければならない。それが、民主主義というものなのだから!
俺はいても立ってもいられず掲示板やSNSで同氏を募った。しかし返ってくるのは「アルミホイル撒いてる?」といった馬鹿げたレスポンスのみ。孤独である。しかし、俺は絶対にオタクの権利を取り戻してやるのだ。
性癖は自由でなくてはならない。
その言葉を信じ、俺は今日も戦う。巨大な敵と、ただ、一人で……
性癖の誘導って、お前そんなん、完全にディストピアやんけ 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます