第5話(最終話)
「さて、魔王を倒して世界も平和になったことだし、気を取り直して祝賀パーティーでもしようぜ! そして……俺をこの国の王にしろよ!」
魔王討伐出立の儀が行われた際、国王から『魔王を倒した暁には、何でも願いを叶えてやる』と言われたユウキは、嬉々とした表情で『それじゃあ、魔王を倒したら国王の座を渡せ!』と口にしたのだ。
「そういえば、そうだったな」
疲れたような顔で溜息をついた国王に、ユウキは期待で口角を緩ませる。
(ついに、ついに来たぞ! 日本では冴えなかった俺が、異世界で国王になれる! そうすれば、夢のハーレムライフの始まりだ!)
魔王討伐に行く道中で出会った美女達の顔が思い浮び、ユウキの頭は『さて、最初は誰を妃にしようかな?』と既に自分が国王になった気分でいた。
そんな彼を見て目を細めた国王は、小さく溜息をつくと玉座から降り、そのままユウキの前に立った。
「大神官」
「はい」
「えっ?」
(どうして、ここで大神官が?)
不思議そうに首を傾げるユウキをよそに、国王に呼ばれた大神官は、国王の斜め前で立ち止まると深々と頭を下げた。
「手筈の方は?」
「全て整っております」
「そうか、それなら始めてくれ」
「はっ?」
(一体、何が始まるって言うんだ?)
ユウキが眉を顰めたその時、大神官の合図で神官達が突然ユウキを取り囲んだ。
「おっ、おい! いきなりどうしたんだよ!?」
(俺は、魔王を倒して世界を平和にしてやった勇者なんだぞ。ちゃんと約束を守ってくれるだろ!? なぁ、国王陛下よ!)
困惑するユウキが国王に目を向けた瞬間、大神官と神官達が両手を伸ばして詠唱を始める。
すると、ユウキの足元に白く光る魔法陣が現れた。
「っ!? おい! もしかしてこれって転移の魔法陣か!?」
(確か、異世界召喚される時、足元に白い魔法陣が現れたから!)
「いかにも、この魔法陣は転移の魔法陣。勇者召喚の時にしか使えないものだ」
「っ!?」
(ちょっと待て。魔王が倒されたこのタイミングで、転移の魔法陣を出したということは……!?)
足元に浮かぶ魔法陣を一瞥し、ユウキの表情がみるみる青くなる。
そして、国王は目の前にいる勇者に判決を下す。
「勇者ユウキ・スズハラよ。貴様は、勇者でありながら仲間を蔑ろにし、無抵抗な魔族や人間達を全員殺した。よって……」
国王が手を上げると、魔法陣から無数の白い触手が這い出て、ユウキの体を雁字搦めにした。
「貴様には、元の世界に帰ってもらう」
「はっ!?」
国王が判決を言い渡した瞬間、白い触手達がユウキを魔法陣の中へと引きずりこみ始める。
「いっ、嫌だ!! せっかく、せっかく俺の居場所が出来たんだ!!」
(灰色だった俺の日常が、この異世界に来て一気に変わった! 誰からも敬われ、誰も俺のことを邪険にしなかった! それに……)
「それに俺には、この世界で『ハーレムを作る』という夢がある! それが叶わないまま、冴えない日常を送っていたあの世界に帰りたくない!」
(そうだ! やっと、やっと俺が俺らしくいられる場所が出来て、美女達に囲まれる夢のハーレム生活が始まるというのに!)
「そうか。それは残念だったな」
冷たく突き放す国王に、悔しさで顔を歪ませたユウキが吠えた。
「っ! 俺は! 女神アドベルとお前に言われて、勇者として魔王を倒してこの世界を平和にしてやった!!」
(俺はただ、勇者として魔王を倒した! それなのに、どうして俺が元の世界に返されないといけないんだ!)
「おい、貴様! 陛下に対して何と……!」
「構わない」
宰相に向かって小さく首を振った国王は、冷たい目で顔を歪ませるユウキを見た。
「そうだな。確かに、貴様は勇者として魔王を倒してくれた」
「だよな! だったら……」
「だが、これ以上貴様にいられたら、今度は貴様が人類の敵になりかねない」
「えっ?」
(魔王を倒してくれたことには感謝している。だが、これ以上貴様の身勝手を許すことは出来ない)
啞然とするユウキに、国王は威厳溢れる態度で賛辞を贈る。
「勇者ユウキ・スズハラよ。此度の魔王討伐、大変大義であった」
「まっ、待てよ! 魔王を倒したら俺を国王にする約束は……」
「そして、さよならだ」
いつの間にか涙で顔がぐちゃぐちゃになっているユウキに、国王は最後の別れを告げる。
「安心しろ。元の世界に帰れば、女神アドベルから授かった力や聖剣は失われ、貴様が今着ている無駄に装飾が施された鎧も何もかも没収される」
「いっ、嫌だ――――!!!!」
謁見の間に悲痛な声が響き渡ると、勇者ユウキ・スズハラは元の世界へと返された。
「これにて、勇者の裁判を終わりとする」
被告人、勇者。~魔王を倒して世界を救ったチート持ち勇者は裁判にかけられた~ 温故知新 @wenold-wisdomnew
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