第4話
「だが、タンクの俺がいなかったら、あなたは魔王の攻撃をもろに食らっていた」
「はっ?」
顔を顰めて振り向いたユウキに、リュグラは指をさしながら、ユウキが行った所業の一端を謁見の間にいる者達に訴えた。
「そもそもあなたは、魔族に出会う度に『雑魚はお前らに任せた』と俺たちに押し付けて、自分は何もしなかったじゃないか!」
(出立の儀の時、あなたは国王陛下に向かって『魔族や魔王は全て勇者である俺が倒す』と言っていたのに、ほとんど俺やマリーやベラエッタに押し付けていたじゃないか!)
激昂するリュグラに、ユウキは鼻で笑った。
「そんなの勇者である俺が手を下すほどの敵じゃなかったから、俺より弱いお前らに任せたんだよ」
「なっ!」
「それになぁ」
深く溜息をついたユウキが、面倒くさそうにリュグラに向き直った。
「雑魚敵もそうだが、魔王の攻撃なんざ、チート持ち勇者である俺にとってはノーダメだから」
「……つまり、女神の加護を授かったあなたには、魔族や魔王の攻撃は全く効かないということですか?」
「そういうことだ」
「っ!」
(そんな、魔族はおろか魔王の攻撃すらも全く効いていなかったなんて)
唖然とするリュグラに、ユウキは嘲笑うような笑みを浮かべた。
「でもまぁ、雑魚敵の排除する程度には役に立ったぞ。良かったな、勇者の役に立てて」
「くっ!」
(俺は、こんな勇者の壁になっていたということか)
悔しさを滲ませるリュグラの隣で、今度はマリーが口を開いた。
「では、私の補助魔法や治癒魔法がなければ、あなた様は今頃、大きな怪我を負っていました!」
(現に、魔王直属の配下である魔将軍達と戦った際、私の筋力増強や俊敏性向上などの補助魔法が無ければ、あんなにも簡単に倒すことが出来なかった)
胸を押さえながら必死に訴えるマリーに、ユウキは呆れたような溜息をつく。
「そんなの、いざとなれば自分で治癒出来るし、バフやデバフぐらいだってかけられる」
「ですが、魔法の修練度は遥かに私の方が上だから……」
「そんなの、チート能力でどうにかなるに決まっているだろ」
「っ!?」
(それってつまり、女神アドベルが授けた加護でどうにかしたってこと?)
言葉を失うマリーに対し、面倒くさそうな顔をしたユウキが頭を掻いた。
「そもそも、お前らと会う前に、俺はこの世界のありとあらゆる剣技や魔法を全て覚えて身につけているから」
「「「えっ!?」」」
(そう、俺は女神から授けられたチート能力と勇者の権限をフル活用し、王族しか入ることが許されない書庫で魔法の勉強をしたり、騎士に交じって魔法や剣の鍛錬をしたりして身につけていた)
「そっ、それでは、私は必要無かったと言うのですか?」
「だから、最初からそう言っているじゃねぇかよ」
「っ!?」
「マリー!」
(そんな。私は女神アドベル様のために勇者に尽くしたというのに)
ショックで倒れこんだマリーをリュグラが咄嗟に抱きかかえる。
(そう言えばこいつら、俺に隠れて付き合っていたんだよな。まぁ、どうでもいいけど)
こちらを睨みつけてくるリュグラに、ユウキが小さく溜息をついた。
すると、女性らしい肉感的な体をしたベラエッタが、鍛え上げられたユウキの体に抱き着く。
「でっ、でも! 私の攻撃魔法は役に立ったでしょ? だって、この世界で一番を誇る魔法使いだから……」
「だ~か~ら~さぁ~!!」
思い切り顔を歪めたユウキが、鬱陶しそうにベラエッタを突き放した。
「チート能力で全ての魔法を覚えているから、お前が苦手とする水魔法や氷魔法も全部使えるって言っているだろうが!!」
「そっ、それじゃあ、私もそこにいるマリーと同じ……」
「あぁ、お前も最初から必要無かったって言っているだろうが」
「そっ、そんなぁ……」
(噓でしょ? 戦闘が終わる度に『ありがとう』って私にだけ優しく微笑んでくれたのに)
静かに膝から崩れ落ちたベラエッタは、涙で濡れた顔を両手で覆う。
(まぁでも、ちょっと優しくしただけで目の前の美女と熱い夜を毎日過ごせたのは最高だったな)
泣き崩れるベラエッタに、ユウキがニヤリと口角を上げると視線を国王に戻した。
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