依頼2 ツチノコ捕獲

モンゴリアン・デスワームをどうにかして!

 冒険者ギルドに帰ったタダロウ一行を迎えたのは、蛇の群れだった。


「鑑定士、これだろツチノコ!」

「それはアンフェスバエナじゃな。双頭の蛇だろ、全然違う」

 などと、蛇系の魔精を虫籠のような小さな檻に入れて持ち寄った冒険者たちが満ちているのだ。

 見せられているのは、カウンターに立つ片眼鏡を掛けた探偵じみた格好の老人。探索収集系の依頼で回収されたものを見極める、ギルドの鑑定士である。


「こっちこそツチノコだ」

 別の冒険者も魔精を突き出す。

「そりゃコカトリスじゃ、ニワトリの身体におまけ程度に蛇の尻尾がついてるだけ。どこに目をつけとる」

 鑑定士は否定する。


「ならこいつで決まりだな!」

「アオダイショウ、ただの蛇じゃ。おまえら依頼書見とらんじゃろ、未知の魔精だからってわしを誤魔化す気満々だな」

 また別の冒険者とのやり取りだった。


「これだろ、間違いなく新種だ! 仲間が毒液掛けられて危なかったよ、解毒草が効いてよかったが」

「むう、これは確かに見知らぬ魔精。じゃが死んどるし、わしもツチノコ知らんからな。依頼書とは似てなさそうだが」

「あんたも知らなきゃ意味ねーだろ!」


「そいつはモンゴリアン・デスワームだ」

 割り込んだのは、ギルドに入るやこの混沌で茫然となった仲間を置き、一人近づいてきたタダロウだった。

「元世界のゴビ砂漠に伝わる未確認生物UMAだが、ツチノコじゃないよ。こっちの依頼じゃないか?」

 と、掲示板からついでに剥がしてきたそいつを披露する。


『モンゴリアン・デスワーム退治 報酬:解毒草1年分』


 挿し絵として添えてあるものともそっくりだった。

 ミミズのような身体で先端は胴とほぼ同じ幅に開いた円形の口、周に沿って内側に向けた鋭い牙がずらりと並んでおり、目も鼻も耳もない。体調1メートルほどの気味悪い生物の死骸だ。


「おお、確かにこっちの方が近そうじゃ」

 と、虫眼鏡もプラスして鑑定士は両者を見比べた。

「解毒草一年分が報酬?」モンゴリアン・デスワームを仕留めて持ってきた冒険者は不満げだ。「聞いたことない換算だな。解毒魔法も使えるし、そんなにいらねーが。売れば目当てほどじゃなくとも金にはなるか」


「ところで」タダロウは尋ねた。「これら都市伝説的な依頼の達成報酬はどうやって支払われるんだ?」


 すると重なるように、ファンファーレ的な音がギルド内に響き渡った。

「達成してギルドに戻ると」

 震え声を投げてきたのは、カウンターの奥に引っ込み丸まっている。エルフの受付嬢だった。

「〝空間収納〟に自動で振り込まれるのよ、今のおめでたい音色と一緒にね」


 空間収納は、冒険者ギルドが開発して特許を取っている魔法だ。ギルドに登録している間は無料で貸し出される、生物以外の物品をしまっておける亜空間である。

 持ち主の意思に呼応して、いつでもアイテムを出し入れできる。口裂け女戦でタダロウがべっこう飴やポマードを取り出したのもそこからだ。


「自動で判別されんなら鑑定士いらねーじゃん!」

 空間に開けた穴に顔を入れ、報酬を確認して冒険者がツッコんだ。


「そう言うな」鑑定士が繕う。「嬢ちゃんは蛇が苦手だそうでな、わしは半分受付代理みたいなもんじゃ」

「エルフって森で暮らしてるだろうに。んな奴もいるんだな」

 呆れる冒険者だった。


 続いて、未知の依頼が出てきた時と同じ魔法陣に呑み込まれ消える。モンゴリアン・デスワームは魔精同様に蒸発、霊的な煙は天井をすり抜けて消えた。

「ふーん」

 タダロウは何かを悟ったように言及した。

「効果音に自動振り込み、もとから多少ゲームっぽいこの世界アルテイルでも特にゲームっぽい新要素だな」

 ついでに尋ねる。

「で、この騒ぎはいったい何なんだ?」


「あれよ!」

 受付嬢は掲示板を指差す。

 そこには拡大コピー魔法で大きく印刷されたある依頼書が、他を隅に追いやってでかでかと掲げてあるのだった。


「そういえば目立つな」

 さっきそこからモンゴリアン・デスワームの依頼書を持ってきたくせに、今さら気にするタダロウである。

 ともかく、もはや掲示板のほとんどを占有しているそこにはこうあるのだ。


『ツチノコの生け捕り 報酬:2億G』

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