異世界エレベーターをどうにかして!
極東の島国ワズマ。
木造和風建築が建ち並ぶ町を見下ろす峠の茶屋に、勇者一行はいた。まるで時代劇のような店の表に出された長椅子に掛け、湯呑みの茶を飲みながら串刺しの団子を食べている。
口裂け女討伐のパーティーと同じ、タダロウとブランカとマリーベルとニアだった。
「タダロウ、おまえと組んで正解だな」
ブランカは団子を頬張りつつ、満足げに語る。
「ここに目当てのツチノコとやらがいるかは知らんが、ワズマになど生涯訪れられんと踏んでいた」
「ええ、驚いたわ」
茶を飲みながら同意するのはマリーベルだ。
「東西の間に魔精国がある以上、たどり着くのも困難だもの」
異世界アルテイルは半球上の大地と海が宇宙に浮いている世界だ。その端から先は宇宙に落ちるので、地球のように一周して反対側にまわるなんてことはできない。
魔精国はこの半球世界のちょうど真ん中に存在し、人の領域を縦に分断。東西を分けていた。
瞬間移動魔法は自力で一度訪れた場所にしか行けないので、縦の領域を魔精国が支配しきる50年以上前に移動したことのある者しか基本的に東西の横断はできなくなっていたのだ。
「ですけど不思議ですね」
興味深げにワズマの山岳風景を鑑賞しながら、ニアが疑問を挟む。
「タダロウさんはとても50歳以上には見えませんし、魔精皇国を渡って移動するなんてもっと難しいでしょうに」
「ひょっとしてギルド関係者か?」 ブランカは推測する。「空間収納を改造したもので、あいつらだけは東西を超えたやり取りをいくらか可能にする魔法も開発してる。お蔭で未だ世界中で運営できてるわけだしな」
問題のタダロウは店舗の外壁に寄り掛かって空を見上げ、首を振ると答える。
「いや。おれ自身も事態を把握しかねてるからな、また言ってもわからんと思うが」
と前置きし
「〝十階建て以上の建物のエレベーターを使って特定の順番でボタンを押すと異世界に行ける〟って都市伝説のネタを試したんだよ。着いたところがここで、どういうわけかその途端に今の実力も装備も知識も得てた。マンハットのあそこが、初めて訪れた冒険者ギルドだ」
「「「エレベーターって何?」」」
まず他三人が疑問を持ったのはそこだった。
「はあ」タダロウは溜め息をつく。「疑問はそんなところなのか」
「他にもありすぎるが」
戦士に続いて、マリーベルが言う。
「〝どういうわけか〟っていうからには、あなたもよくわかってないんでしょ? 前もそんなこと匂わせてたし」
「だとすると」ニアが畳み掛ける。「どうしてツチノコ捕獲の依頼を受けてここに来たのかが気掛かりなところですね」
「それか」
自分の分の茶を啜ってから、勇者は語り始める。
「理由はいくつかあるね。まず、あれが出現した途端世界中で人気が殺到して他の調査ができそうにないくらいギルドが混乱してるみたいだ」
「2億Gっていったら一生遊んで暮らせるもんな」
と同意する戦士。
「その
タダロウは続ける。
「あちこちの店とか覗いた感じ、だいたい現実での1円=1Gみたいな価値だ。すると、兵庫県千種町がツチノコ生け捕りに出した最高額の懸賞金2億円を思い出させるからな。ツチノコ自体日本のUMAだし、ブランカがおれの容姿に洩らした感想を元に、この国が日本に近いと踏んできてみた。推測が一致してれば、謎の解明にも近づけるんじゃないかってね」
他の一行も驚くなか、マリーベルは口に出す。
「え! じゃあなたもこの国初めてなの!?」
「まあな」
「で、でも。もし推理が当たってたら、逆に変なところも出てくるじゃないですかね」ニアは冷静に疑問を挟んだ。「あの〝口裂け女〟もあなたのいた、ニホンの伝説だったわけですよね?」
「だからさ」
日本人は、答える。
「ここの結果によって、現象の正体もかわってくるだろう。いちおう、すでにいくつか手掛かりも得たけどね」
仲間たちが釈然としなさそうに耳を傾けていたた、そのときだった。
俄に、眼下の町が騒がしくなったのだ。
表に出て来てこちらを見上げて戦慄しる町人。卒倒する人や逃げだす人もいる。
ガシャン!
和服にエプロンをした茶屋の娘も、近くでおぼんをひっくり返して茶碗を割った。勇者一行の注目が彼女に移るも、相手はあらぬ方向を仰いで震えていた。
タダロウたちがその視線を追う。
茶屋の背後に聳える鬱蒼と森林の茂る山。そこから――
「な、なんだこいつは。ツチノコってやつか!?」
驚愕する一行のうち、戦士が見当違いを発する。
八本の首を持つ巨大な蛇が、山の上に聳えるもう一つの山のように出現していたからだった。
「貴様らもか」そいつがおどろおどろしい声で吼えた。「我が眷属を脅かしうる、冒険者とかぬかす不届き者共めが!!」
「オ、オロチ様だ!」
町からの悲鳴で、タダロウは悟った。
「まさか、ヤマタノオロチか!?」
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