オーガをどうにかして!
マンハット近郊、境界の森。
「なんだって、オーガがこんなとこに出やがる!?」
西洋甲冑を着込んだ戦士職で筋肉質のイケメン男性ブランカが、身の丈ほどの戦斧を振るい巨人を両断する。
体毛がなく三メートルから五メートルの身長がある、青肌で筋骨隆々とした巨人の魔精だ。
「こいつら、魔精国限定のダイモンのはずよね?」
三角帽子にローブの魔女職な小柄美少女マリーベルは、宝玉をはめた樫の杖から火球を放つ魔法でオーガを火だるまにする。
「国境を越えてきたってことでしょうか」
シスター服に身を包むグラマーな尼僧職の美女ニアは、戦士と魔女が戦いで負った傷を、握りしめたロザリオから放つ回復魔法の光で癒しながら言及した。
「魔精皇に派遣されたのかもな」
勇者を称したタダロウ・ミノセは、二体のオーガを長剣で同時に切り伏せて言及する。
「魔精国内では最下級ダイモンでも外では上位。何より人に似た姿だから人間にできることは一通りこなせる。四人一組だし、ドラクエ3辺りから定番になったこっちと同じ基本的なパーティーだ」
わけのわからない単語が混じるも、倒れたオーガたちを勇者以外の一行が観察する。
確かに連中は彼らと似た装備で、戦士二人と魔法使いと僧侶のようだった。
そんな遺体も、死んだ魔精特有の作用で黒煙となって蒸発。魔精皇国の方に飛んでいく。
彼らは輪廻転生を繰り返し、いずれ別の魔精となって復活する不死身の存在なのだ。
「タダロウ、おまえは妙なことばかり言うが結局何者だ?」
戦斧の血を振って払い、背負った鞘に納めながら戦士ブランカは問う。
「髪や目肌の色からしてワズマの出身みたいだが、どうしてこの事態に詳しい?」
件の正体不明の依頼書について概要が判明するや、タダロウは即席のパーティーを組んで調査に乗り出すと申し出た。
警戒する冒険者達の中でも、僅かに同行を志願した数人。そこから勇者が見繕ったのがこの三人だった。
今は、中でも距離的に近い魔精国との国境に跨がる境界の森に出没するという〝口裂け女〟討伐を、とりあえず受けた形だ。
「君らよりは詳しいだろうけどこっちも調査中だし、おれの知るところまで言ったところでわからないと思う。だからむしろ、簡潔に事実をありのまま伝えておくよ」
一行の先頭を歩きながら、勇者タダロウは説明した。
「おれはこことは異なる世界、地球から来た。そこで科学では解明できない超常現象を研究してたんだ。当然、異世界転生転移もその対象だった。
ただ、伝え聞く異世界っていうのはどうも中世ファンタジー風ばかりでね。つまり中世の超常現象に偏ってたんだ。
だから疑問を持ってたのさ。なぜ、そこには現近代の都市伝説的なオカルトが存在しないのかってね。その過程でこの事態に遭遇した」
後続の三人は顔を見合せ、まもなく戦士は結論付ける。
「うむ、全くわからん」
「事態も、理解を待ってくれなさそうだな」
ふと、タダロウは立ち止まってさっき納めたばかりの剣を再び抜いた。
ブランカとマリーベルとニアも、察して前方を覗き込む。
そこには、鬱蒼と繁る森にぽっかりと空いた地があった。
奥に真っ赤なワンピースを纏い長髪を振り乱し、背丈ほどの巨大なハサミを手にし顔下半分を覆うマスクをした身長二メートルの幸薄そうな美女がいるのだった。
「あれが口裂け女だよ」
勇者タダロウは、厳かに紹介した。
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