エピローグ

 私は再婚して伊居いい香織かおりとなった。

 そして子宝にも恵まれ、現在は産休を取っている。


 元夫の草井くさいすぐるからはしっかりと慰謝料を取ることができた。

 不倫の慰謝料の相場は100万円から300万円といったところだが、卓の場合は不倫に加え、ずっとセックスレスだったことと、何より子供ができない体であることを隠して結婚したことが考慮され、500万円以上の高額な慰謝料が認められた。


 もちろん、不倫相手である桃背ももせ恵奈えなにも慰謝料を請求した。



   ***



 お土産の一件であずま先輩と仲良くなった同期の美希みきから、東先輩がよく愚痴をこぼしてくると話を聞かされた。

 その愚痴とは、東先輩自身と卓についてのことである。


 卓は私の同僚であり泥棒ママでもあるあずま仁実ひとみと再婚した。

 予想どおり、彼は再婚しても働かなかった。


 ピンクの写真立ての罠によって作り上げたこの状況に、私は十分に満足していた。


 だがそこから化学反応が起こり、予想外の結果が生まれた。


 卓はいまだに桃背恵奈との浮気を続けており、それに気づいた東先輩が桃背恵奈の家に突撃した。

 その際、東先輩はどさくさに紛れていろいろと盗んだ。おそらく復讐の意味もあったのだろう。


 しかし、それが大変な事態を招く。


 桃背恵奈の周りには、反社会的勢力、いわゆる反社の人間がひそんでいた。

 東先輩が盗んだもののなかに反社の人からの預かり物があった。それで東先輩が反社に目を付けられた。


 東先輩が反社と関わったことで、政治家である彼女の父親が失脚した。

 それでパイプとしての役割を失った東先輩は、これまでの蛮行が見逃されなくなり会社をクビになった。


 東先輩の夫である卓も反社に目を付けられた。

 卓は反社の人に正論をぶつけて説き伏せようとして反感を買ったらしい。卓は詐欺の受け子を強要され、警察に捕まった。


 夫婦そろって自分の性質がアダとなったのだ。


「それでさあ、東先輩、いまは風俗で働かされているらしいよ」


 美希は東先輩の愚痴に辟易へきえきすると言いながらも、そのわりに喜々として語っていた。

 東先輩が会社を離れてもなお愚痴に付き合っていることからしても、美希は相当なゴシップ好きだと思う。


 まあ、私も嫌いではないが。


「じゃあ、けっこう稼いでいるんじゃないの? 東先輩は美人だし……」


「それがね、収入のほとんどが反社の人に吸い上げられているんだって」


 こうして美希が家に来て話し相手になってくれるのは嬉しかった。


 私は友達に恵まれた。

 同期の美希だけではない。高校時代からの同級生の春子はるこも妊娠中の私に会いに来てくれる。


 そして、家族にも恵まれた。


 新しい夫の貴三たかみつさんは、技術者としてだけでなく夫としても理想の存在だった。

 外見も内面も王子様のようにかっこいい。卓とはぜんぜん違う。貴三さんからは確かな愛を感じるし、出産前の私を過保護なまでに気遣ってくれる。


「はぁ……」


 思わずため息が出た。

 これは悪いため息ではない。うっとりするような、いいため息だ。


 最高の友達に、最高の夫。

 おなかには念願の子供。



 ――いま、最高に幸せです。



   おわり

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仮想タイムリープ! ~サレ妻の私は不倫の証拠を集めて狡猾なシタ夫に離婚を突きつけます~ 日和崎よしな @ReiwaNoBonpu

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