第37話 白い閃光
カメラは一般兵たちがヘリに向かって走る様子を捉えていた。
男性兵士の周辺にも目立たない様に数機の子機が飛んでいる。
特務部隊のリーダーは冷ややかな目で男性兵士を見て言った。
「随分仲間思いなんだな。命がけで手に入れた大金だ、ひとり占めしないのか? それとも誰か……、逃がしたいと思うような特別な人間でもいるのか?」
男性兵士は女性兵士の肩に腕を回しながら笑った。
「俺の特別はこの女だけだ! 一般兵を逃がしたのは、単なる嫌がらせだよ」
特務部隊のリーダーは眉をひそめて言った。
「ならば、さっさとIEDを寄越せ。遠隔スイッチまで渡せとは言わん。貴様らの安全は保障してやる」
男性兵士は鼻で笑った。
「そんなことは当然だ! 当たり前のことを偉そうに言うなよ、クソ野郎。
それとな俺様は強欲なんだ。こんなちっこいトランクケースだけじゃ満足できないねっ」
特務部隊のリーダーは怒りに顔を赤くして言った。
「貴様っ、つけあがるのも……」
男性兵士が話を引き延ばしている間に、女性兵士は個人間の秘匿回線で話す。
「ロケットランチャーを持ってる様子はないよ。他の地対空ミサイルの類も見える範囲には確認できないね……」
男性兵士は通信マイクに向かって答えた。
「で、どうだ? 奴らを出し抜いて逃げ切ることが出来ると思うか?」
女性兵士はゴーグルとフェイスマスクで表情を隠しながら言った。
「あんたにしては随分慎重じゃないかい。まぁ、あたしの見立てでも、ちょっとばかし厳しそうだね。あいつらの配置や目線、態度からしても、本当に爆発を防ぐようなユニークスキルが使えるのかもね」
男性兵士は深く息を吐く。
「そうか……覚悟を決める必用がありそうだな。……最後までつき合わせることになって悪かったな」
工兵が仲間内のオープン回線で報告する。
「少年と他三名、ヘリに搭乗しました……。ただいまより…………離陸します」
少年の声が聞こえた。
「ち、ちょっと待ってくださいっ! まだ二人がっ……?」
男性兵士は面倒くさそうに言った。
「衛生兵の嬢ちゃん、そのうるせぇガキを黙らせろ!」
女性兵士は少年に優しく言った。
「坊や、悪いけど今議論している余裕はないの。あたしらの目の前にいるのは特務部隊と冒険者たち、一瞬だって目が離せない……。そんな奴らに生命線のIEDを預けてトンズラなんて通用しないのさ」
ヘリコプターが離陸したのを見て特務部隊のリーダーが唸った。
「まさか貴様らっ……?」
男性兵士はニヤリと笑って言った。
「言っただろ、俺様は強欲だと……、本命を要求する前に少し覚悟を示しておこうかと思ってね。自ら退路を断って見せたのさ。出来れば一時的なものであって欲しいがな」
副指令は冷静に言った。
「ほう、そこまでして君は何を求めるのかね?」
男性兵士は真剣な表情で言った。
「本当に欲しかったのは、特務部隊の命さ!」
特務部隊のリーダーは驚愕して言った。
「なにっ!」
男性兵士は続けて言った。
「お前ら特務部隊は仲間である一般兵を裏切った。俺はそれを絶対に許せねぇ。
副指令さんよ、今すぐ冒険者どもに特務部隊を殺させろ! そうすればIEDを渡してやる」
「貴様ぁーー、ふざけたことをっ」
特務部隊のリーダーが動き出そうとするが。
男性兵士は左手の手榴弾を足元の地面に落とした。男はそれを足先で軽く踏みつける。
通常、ピンを抜かれた手榴弾は3~5秒で爆発する。
副指令は手を上げて特務部隊を止めた。
それを見た男性兵士はつま先で手榴弾を蹴とばす。
手榴弾は空高く舞い上がり10メートル先の瓦礫の裏で爆発した。
男性兵士は叫んだ。
「さぁ、どうする副指令! 特務部隊を殺すか? 俺たちと心中するか? 選びなっ」
女性兵士が秘匿回線で通信する。
「工兵さん、距離はどのくらい稼げた?」
「まだ……2キロ程しか離れていません」
女性兵士は苦笑いしながら言った。
「まだまだ射程圏内だね。でも、あまり離れすぎるのも不自然……。
そろそろ奴らも、こちらの意図に気付く頃よ」
男性兵士は少し残念そうに眉をしかめ、しかし次の瞬間には晴れ晴れとした顔で言った。
「ああ、そろそろお別れの時間だ……。クソガキ、そして他の奴らも……。
いいか、必ず生き延びろっ!!」
女性兵士は男性兵士を引き寄せる。
「お前は最高の相棒だったぜ」
「まったく、あんたは最後までヘタレだったね……」
女性兵士は悪態をつきながらも嬉しそうに笑った。
カメラは彼らの最期の瞬間を捉えていた。
男性兵士が右手を握り込み、IEDは爆発する。
白い閃光に包まれ、カメラの映像は途切れた。
期待外れのユニークスキルでいずれ最強~このクソみたいな世界はボクが必ずぶっ壊す~ 水埜小波 @11og3
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