第2話 カトレア

いつもの様に、浦島中学2年生の2人が、

放課後。コンビニのベンチに、座っていた。


1人は山田 太郎。

もう1人は、山田 華子だ。


「……色々あった1年だけど、過ぎて行くのは、早いわね」


セーラー服の華子が、何だか、感慨深かんがいぶかげだ。


「まぁな。あっという間に、新年だろうよ」


さらっと言ってのける、学ランの太郎。


「でさ、カトレアの花だけど……」


ズバッと本題に入る華子。やや前のめりだ。


「ラン科カトレア多年草で、赤、ピンク、黄色、オレンジ等と、色が豊富だな。花言葉は、あなたは美しい、優美な貴婦人、魔力、だったか」


ふむと、やけに花に詳しい、太郎がまくし立てた。太郎は冷静だ。


「告白といじめって、紙一重かしら」


「?」


華子の独特の解釈に、太郎が、頭をひねっている。


「どうだろ。少なくともオレは、好きな人はいじめないよ」


「普通は、いじめは悪でしょ。絶賛したら、いかんじゃん。けどさ。1年生の鳴沢なりさわ れんは、同じクラスの有栖川ありすがわ せい、に、嫌がらせをした訳で。そんで、カトレアの花を、贈ったと。何でそうしたのか。カトレアの花は、星の好きな花だから」


有栖川 星と華子は、友達だ。花好きの仲間でもある。星の母親が、花屋を経営しているのだ。そして華子は、そこの常連客だ。


「当然、星は、煉を振ったけど、今は和解して、友達なんだよね」


華子は大層、不満そうだ。

長い黒髪を、何度か左右に振った。


「あー、分からない。訳もなくいじめてきた、相手と、告られたからって、友好関係築ける? 私は無理」


華子がいつの間にか、鉢の赤いカトレアの花を、太股に乗せて、力説している。


「……主観だけど、好きと言われたら、多少、意識するだろ? 煉はイケメンだしな」


成沢 煉、浦島中学1年、サッカー部で、レギャラー、期待のホープ。狐色の短髪に、切れ長の目に、すらっとした長身。男女共に、モテる。性格は多少、わがままだが、基本、良い奴だ。


星をいじめたうんぬんも、軽い無視とか、言葉のあやで、根暗可愛いと、言ったぐらいだろ。……星は、至って普通の外見だが、中肉中背で、狸顔、何だか愛嬌たっぷりの雰囲気がある。星は長い飴色の髪を、軽く巻いていた。星の性格も、おっとりしている。星は、漫研部所属だ。


「納得できない」


満更でも無い、星に、華子はご立腹だ。

女同士の特有の何かが、あるらしい。


そう言えばと、太郎が、思い出した。


「煉は、子供の頃から、狸が大好きらしい。この間、サッカー部の連中と、そんな話をしてたな。なる程」


華子とは別に、太郎は、に落ちている。


「そもそも、好きな嫌いかなんて、紙一重だろ。ドラマが無くても、恋に落ちるのなんか、秒もかからないんじゃないか? 煉は硬派で口下手。いじめたつもりは、無いかもしれん」


「バカね。告白されるまで、星は、悩んでいたのよ! 何かにつけて、難癖を付けてくるって。……そうね。好きと言われて、安堵の気持ちはあったかも。今回の場合、悪意じゃなくて、好意だったから。それなら、まぁ」


ペラペラと喋り通した後で、華子が結論付けた。


「花に罪は無いか」


「華子に同意するよ」


知らないところで始まり、誰かのところで、誰かの話をする。

こんな日常が今日も、日本のあちこちで、繰り広げられている。


なぜ人の話をするか。

答えは簡単。


自分に関係無いからだ。


人は他人の話を、ああでもない、こうでもないと、議論する生き物だ。

そう言う風に、できている。


単に言えば、気になるからだ。


人の噂話は、蜜の味がする。

だじゃれでは無く。


「私達も考えて見れば、友達か。いっつも、花の話ばっかよね」


「夕方5時以降、コンビニ前のベンチにて。ま、オレも、花壇部だし、嫌いじゃ無いよ。花の魔力に吸い寄せられた口だ」


あー、なるほどねと、華子が、カトレアの花を撫でた。


カトレアの花言葉の1つに、魔力とある。

クスリと笑いながら、華子が、太郎に、缶コーヒーを渡した。


太郎は華子と、ここのベンチで、話す内に、缶コーヒーを、好ましく思う様になった。


あなたは、美しい。


カトレアを抱く華子が、優美な貴婦人の様に、笑った。



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華子と太郎と山田 あんころもっちん @sumiki41

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