第10話

 少女二人に軽々と担がれた僕は、椅子ごと上階へと連れ去られた。

 途中至る所にゴツゴツぶつかりながらようやく辿り着いた場所は、この建物の最上階に当たる丸い部屋であった。

 ・・・思えば外から見た時屋根の一部が丸く出っ張っていた気がする。

 暗闇に目を凝らすと、何やら天井へ向けて大きな筒が伸びている。数メートルはあるだろうか。その正体は一目見てわかった。

 「天体望遠鏡だ・・・。」

 僕の呟きをよそに、二人は望遠鏡を通り過ぎて部屋の奥へと向かっていく。

 「トイ、灯りを。」

 その声に頷くと、少女は手に持っていた小さな機械を操作した。

 ぽぅ、と優しい灯りが灯ると、アイは足元に積まれた本の山をどけていった。

 本の塔の先にあったのは、机いっぱいに広がる通信機器のような機械だった。

 遠くからでは見えなかったが、近づくと何やら電球のようなものがチカチカと点滅している。これが彼女の言うところの通信待ちの状態なのだろうか。

 ぼんやりとした僕をよそに、いそいそと少女たちは準備を進める。何やらダイヤルを回したり、地下で見た小さな機械を確認したりと慌ただしく動いていた。

 そして不意に僕に向き直ると、

 「今から『上』への報告を始めます。あなたのことについてですが、とりあえず今は伏せておきます。なので絶対に声は出さないでください。」

 「いいのか?報告漏れとかどんな罰喰らうかわかんないぞ?」

 「この人には・・・助けられた恩があります。それに記憶もないのに私の銃を使って見せた、これがただの生存者だとは思えません。それと・・・」

 「あーわかったわかった。とりあえず一旦トイの方針に合わせる。ただしこいつの処分はあくまで保留。ちょっとでも変なそぶり見せたら縛り上げて『上』に報告するからな。」

 「・・・今はとりあえず報告に集中しましょう。今後の話はそのあとで。」

 神妙な面持ちで二人は機械をにらみ、機械のボタンを押した。


ザーザザーサーザー


 激しいノイズ音が静まり返ったドーム内に響く。そこからかすかに人の声が姿を現し始めた。

 「───はよう、第八区画の諸君。報告────する。」

 「「おはようございます。管理者様。」」

 二人の緊張感が伝わってきて、空気がピリッとする。声を出さずに聞いているだけでいいのになぜか鼓動がうるさい。

 「定時報告を────らお──か。」

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投稿① 名もなき村 @arcana2012

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