第9話
見知らぬ風景が広がっている。
ぼんやりと現実ではないように思われたが、これは僕の記憶なのだろうか。
今にも崩れそうな紙や本の束がぐらぐらとしな垂れかかってくる横をすり抜けて、足が自然と部屋を進んでいく。ホワイトボードに色々な図が描いてあるようだ。
自分の意思とは関係なく足はゆったりと机に向かって行き、手元の紙とホワイトボードを見比べ何かを書き込みながら机上の機械に手を伸ばす──────
突如強い衝撃に意識が引き戻される。鳩尾のあたりから空気が搾り出され、ごはっと何かを吐き出した。途端に空気が勢いよく入り込み激しく咽せるような咳が出る。
「────んで───な?」
「───は────たので。そも─────」
「あー、─────。もう一発───」
わずかに聞こえた言葉と同時にまた強い衝撃が加わる。再び胸を締め付けられたようだ。
空気を吸えたからか視界が少しずつ晴れてきた。どうやら後ろから手を回して圧迫していたらしい。助けてくれたことには感謝しかないが、言葉を発するにはあまりに苦しかった。
「お、意識が戻ったみたいだな。」
そう言われ、荷物を降ろすようにドサッと地面にたたきつけられる。
未だ咳の止まらない僕に随分な仕打ちだった。そもそもの原因も彼女である点も踏まえて。
「大丈夫ですか?さらに記憶を喪ったりしていませんか?」
「な、なんとか大丈夫です・・・。」
「ほとんど吐き出してしまったようなので少し残してありますが、食べますか?」
見ただけで先ほどの苦しい記憶が湧き上がってくる。食欲が返ってくる様子はない。
「そうですか。取っておくのでもし食べられそうなら教えてください。餓死させるわけにはいきませんから。」
「『上』に報告するためですか?」
つい聞いてしまう。やはりどうしても気になる。
「それについては検討中です。あなたの記憶が戻るのを待った方がいいかもしれませんし。」
「もし報告されたら僕はどうなってしまうんでしょうか?」
「殺されることはないと思います。生存者を連れてくるように言われていますので。」
その言葉に少し安堵したが、実験動物としての価値を見出しているだけにも思えてしまい、かえって気が重くなった。弄ばれるくらいならいっそ一思いに始末してほしい。
「おい。」
先ほどから姿が見えなかったアイが小型の機械を持って地下室似降りてきた。
「定時連絡の時間だ。『上』が通信待ちしてるみたいだ。」
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