リベンジ
三日後、以前に俺が焼き尽くされた場所に辿り着く。
「これは、ドラゴンのブレス跡? どうしてこんな所にドラゴンが……」
それを見てユウラが首を傾げる。
「森にドラゴンがいるのは珍しいのか?」
「うん、本来ならもっと山奥とかにいるはずの魔物だから。縄張り意識も高いし、こんな森の、それも町から近い場所に現れることなんてまずないはずなのに」
じゃあ、あの遭遇はレアだったってことか? ならあの後、もう一回町へ向かっても問題なかったかもしれないな。まあ、回り道したおかげでユウラと出会えたからいいけどさ。
「なんだか、嫌な予感がする。ショウタくん、急ごう!」
呑気なことを考える俺とは裏腹に、ユウラは血相を変えて駆け出した。
なになに? まさかドラゴンに町が襲われてるとか、そんなイベントが発生してる感じ?
いやいや、そんな慌てなくても、町までまだ二日くらいかかる距離は離れてるんだから大丈夫でしょ。え、大丈夫だよね?
もし町が襲われてたら、たぶんもう無事じゃ済んでないと思うんだけど。だって、チート能力を持ってる俺でさえ歯が立たなかったんだぜ。一般人がどのレベルかは知らないけど、相手にならないって……。
今からでも違う町へ進路を変更した方がいいんじゃないかな。ドラゴンはユウラがいればどうにかできるにしても、壊滅した町とか見たくないぞ……。
「ショウタくん! なにやってるの? 早く行こう!」
最悪の事態を想像してしり込みする俺をユウラが急かす。
世界を救うためにこっちの世界に来た。とドヤ顔で言ってしまった手前、窮地に陥っているかもしれない町を見捨てるわけにもいかず、俺は大人しく従った。
心なしか、俺の初デス地点を通り過ぎた辺りから、森の中が独特な空気感に包まれているような気がした。これまでとは違う、言い知れぬ不安。その理由が、森が静かすぎるからであることに思い当たる。
鳥や動物の類はおろか、ゴブリンなんかの魔物の気配すらまるで感じない。これまでは何かしらの生物の気配がしていたのに、あそこを通過してからそれらがぱったりと失われた。
ゴクリ、と無意識に生唾を飲み込んだ。嫌な緊張が、俺の身体を包み込む。
どうか、どうか頼むから気のせいであってくれ。このまま何事もなく、町に着いてくれ。
そんな願い虚しく、頭上から覚えのある気配を感じて空を仰いだ。
豪快に翼を動かし、まるで空の支配者であるかのように君臨するのは一週間前に俺を焼いた真紅のドラゴンだった。
初遭遇時の記憶が脳裏を過り、恐怖で体が震えた。逃げ出したくなる衝動をぐっと堪えて、俺は叫ぶ。
「やっちゃってください! ユウラ先輩!」
「せんぱ……!? え、うん!」
戸惑いながらもユウラはドラゴンと向かい合う。
初っ端から女の子に頼るのは自分でもどうかと思うが、俺じゃ勝てないのは割り切っているし、ここはやってもらうしかない。
まだ俺の出る幕じゃない。そう言い訳しながらユウラの戦いを見守る。
「ショウタくん! 援護、お願いね!」
「もちろん! 後ろは任せろ!」
ジャンプしようとユウラが足に力を込めたのがわかった。ドラゴンの方は火炎を吐こうと喉の奥で炎を溜めている。
俺は双方の様子を、まさに息を呑んで見守っていた。先に動いたのは、ユウラだ。
それを認識した次の瞬間に――彼女は姿を消した。
……?
てっきりジャンプして空を飛んでいるドラゴンを叩き落とすのかと思いきや、待てども待てどもアクションは起こらなかった。
首を傾げる俺を、ドラゴンから放たれた火炎放射が襲い掛かる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
一瞬、逃げ遅れたせいで危うく丸焼きにされるところだった!
ケツに着いた火を叩き消しながら、俺は再び叫ぶ。
「ユウラさん!? え、あの子どこ行ったの!?」
『どうやら五キロ先に移動したみたいですね』
「なんで!? もしかして逃げ……いや、違う」
俺はユウラのステータスを思い出す。敏捷/5000、こいつが関わっているのだろう。
ドラゴンの敏捷が1500だから、およそ三倍の速さで移動できるということだ。そんな機動力を、器用/0の彼女が扱えるわけがない。
「チクショウ! 結局、俺がやらなくちゃならないのかよ!」
世の中、うまくいかないものだ。例え力がコントロールできなくても、一発、攻撃が当たればどうにかなるかもと思ったのにそれすらも叶わなかった。
幸い、今回はちゃんと休み休み行動したから俺の体力はほぼ満タンだ。ドラゴンの攻撃を二発は耐えられる、はず。
ドラゴンは自分が焼いて平らになった地面へ着地した。反撃のチャンスだが、俺の拳じゃ奴の防御力を突破できない。というか素手で戦えば一戦目の二の舞だ。
ドラゴンが次の行動に移る前に、俺は手頃な木を殴り倒す。そうしてすかさず枝葉の生い茂っている上方を手刀で分離させて丸太を作り出した。
この辺りの木々は五メートル以上の高さと人間と同じくらいの太さがある。力/999があれば難なく振り回すことも可能だ。攻撃力の底上げは期待できないが、素手で戦うより断然マシだろう。
俺は丸太を抱え上げ、悠然と地面を四つ足で歩くドラゴンへ挑んだ。
三日三晩に渡る激戦を繰り広げることもなく、丸太は瞬く間に嚙み砕かれ、俺は殴り飛ばされた。
うん、そりゃ無理だよね。だって棒切れでワニと戦うようなもんだもん。勝ち目無いよ。
それなら、と作戦を変えることにした。実はと言うと俺はすでに魔法が使えるようになっている。
ここまで来る三日間、ポゥからコツを聞いてこっそりと練習していたのだ。おかげで魔力を溜めて、放つくらいはできるようになっていた。
なら、最初からそれで戦えって? 魔法攻撃には欠点があって、魔力の回復に時間がかかるのだ。
魔力を1回復させるのにだいたい5分。適当に使っていたらあっという間に枯渇してしまう。それに練習時間が足りなかったから、ただ魔力を溜めて撃つ、という動作しか習得していない。
魔力を溜めれば溜めるほど、攻撃の威力は増していく。ポゥに聞いたところ、魔力を100溜めれば防御力1000くらいなら貫通できるそうだ。
一応、魔力を10程度溜めれば魔法弾を放つことはできるのだが、ドラゴンの防御力は4000。最低でも400は溜めなければまともなダメージは入らないだろう。となれば、戦闘中に使える魔法攻撃は二発が限度となる。
これをどれだけ有効活用できるかが、この勝負の鍵になる。ということでさっきからドラゴンの攻撃を躱しつつ隙を窺っているのだが、一向に攻撃できそうな隙が見当たらない。
器用/999のおかげか、俊敏で負けていても攻撃は避けられている。それに回避しながら魔法を溜めることも可能だ。だけど、反撃するほどの余裕がない!
ドラゴンは明らかに本気で戦ってはいない。それでも避けるので精いっぱいなのが悲しい所だ。だが、これはチャンスでもある。舐めているのならいつか絶対に隙ができるはずだ。重要なのはその隙を見逃さないこと。問題なのは攻撃手段がないということである。
そこでふと、目や口の中などの、いわゆる弱点部分も防御力が適用されているのか気になった。
「ポゥ! ステータスの防御力ってのは全身に適用されるのか!?」
『人間に対するステータスは全身ですが、魔物のステータスはその限りではありません。魔物の防御力は全体の平均値となっています』
「え、っと、もっとわかりやすく!」
『鱗などで覆われている部分は強固ですが、目や皮膚の柔らかな部分などは軟弱です』
「つまりは急所なら俺の攻撃でも通るってことだな!」
『その通りです』
なら充分に勝機はある! 俺はさっそく魔力を溜めた。
俺だけ残機無限の異世界で 猫柳渚 @nekonagi05
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