魔法の使い方

 深い森の中、若い男女が二人きり(+精霊)……何も起きないはずが、ないこともなく、俺たちはただ歩みを進めていた。


 気の利いた話題を振ることもできず黙々と……。

 

 これは、ダメなんじゃないか? 恋愛関係うんぬんというより良好な人間関係を育むうえでも、無言で歩き続けるのはダメなんじゃないか??


 俺はこっちの世界に来てまだ一週間くらいで、知識に関しては赤ちゃん未満だ。世間話を吹っ掛ける雑学もない。


 だが、ユウラは案内で意識を集中させていて俺はただその後ろを着いて歩いてるだけの状態だし、会話くらいは俺が先導しなくちゃならないんじゃないか。


 会話、会話……オンライン上で文字のやり取りをするのには慣れているが、面と向かって話をするのは経験が不足している。特にほぼ初対面で共通の話題すらわからない相手と楽しくおしゃべりする術なんて俺は知らない。


 こんなことになるなら学校、行っとけばよかったぜ……。あ、でも学校に行ってたらここに来られてないのか。あれ、これ詰んでね?


「ユウラは……どうして旅をしてるんだ?」

 散々悩んだ挙句に出て来た言葉は当たり障りもない質問だった。だって若い女の子が楽しめる会話なんてわかんないんだもん。


「わたし? わたしはね」

 と、苦肉の策で質問したにも関わらず、彼女は明るい声音で答えてくれた。


「みんなよりも力が強くて、魔法も使えたから町に留まっているより色んな場所を回って魔物を倒した方がいいって、言ってくれたから」

「あぁ、まあ、そうだね。うん」

「私は最初、否定したんだよ。そんなことないって」

 え、マジで? そんな厳ついステータスしてて?


 昨日の夜、ポゥに聞いた限りだとこの世界の人たちは自分のステータスを見ることはできないらしいけど、それにしたってダンジョンを吹き飛ばす威力の魔法をぶっ放せるのは魔物を倒さずしてどうするんだって話だろ。


「でも、ある日、町が魔物に襲われて……そのときにわたしが倒したの」

「あぁ、それがきっかけで魔物を倒す旅に出る決意を」

「ううん、わたしはたまたまだって言ったんだ。町を守る戦いで、町を半壊させちゃったし、わたしじゃ世界を救うなんて無理だって」

 ん、今この子なんて言った? 町を半壊……? それは、魔物によって、だよね?


「そしたら町の人たちが、絶対いける! やる前に諦めるな! わたしの力を必要としている人たちが必ずいるから! って、背中を押してくれて」

 あ……これ、たぶんだけど、ユウラが町を壊したから追い出されたな。


「そしたらショウタくんに出会えたし、町の人たちが言っていたことは間違いじゃなかったね」

「そ、そうだねー」

 完全にやべぇ奴を拾ってしまった気がする。ま、まあ大丈夫だろ。あの激やばステータスが発揮されるのは戦闘と寝てる時だけだろうし、一緒にいるだけなら問題はないはず。じゃなきゃ私生活大変だしね。


「ショウタくんはどうしてこっちの世界へ?」

 そして当然のことながら俺の話にもなる。向こうからしたら興味深い話題なんだろうけど、実際は向こうの世界じゃ役立たずだから連れてこられただけなんだよなぁ。


 いくらなんでもそれを正直に言うのは嫌だ。俺のプライドが許さない、というか純粋に恥ずかしい。


「それはもちろん、この世界を救うためだ」

 ので、ちょっと格好をつけることにした。


『引き籠りが何を言ってるんですか』

(うるせえバカ、黙ってろ)

 言わなきゃ誰にもバレないんだから。まあポゥの声は俺以外に聞こえないから何言っても問題ないんだけど。


 俺の返答に、ユウラは立ち止まって目を輝かせる。

「わたしと年齢もそう変わらないのに、違う世界を救うために戦うなんて……すごいね!」

 そう言いながら尊敬の眼差しを向けられると流石に心が痛む。まさかそこまで真に受けて信じてくれると思わなかった。どんだけ純粋なの、この子?


 いや、まあ、世界を救えばウソにはならないわけだし、頑張ろう。


 罪悪感から芽生えた決意を固めながら、俺は話の流れを変えるため会話の最中で気になったことを聞いてみることにした。


「そういえば、魔法ってどうやって使うんだ? 俺、まだ魔法の使い方がわからなくてさ。教えてくれないかな」

「ま、魔法の使い方? えっと、わたしもあんまりよくわかってないんだけど……まず、体内にある魔力を集中させて」

 言いながらユウラは俺に見えるよう右掌を上にする。すると掌から光体が出現し、浮かび上がる。

「おぉー、すげぇ。これが魔法か」


 いったいなんの魔法なのかは全然わからないが、日本では絶対に見ることのできない現象を前にして俺は感心しながら顔を近づける。

 ほんのり暖かい。とても神秘的な力が肌に当たるのを感じる。マイナスイオンだろうか。

「これはまだ魔力を固めただけ。これでも投げれば攻撃にはなるけど、ここから火とか水とか、色々な属性に変えて――」

 説明の最中、カッと光体が眩い光を放つと、凄まじい衝撃が全身を直撃し、俺は思いっきり吹き飛ばされる。ドラゴンに殴り飛ばされた時みたいに木々をなぎ倒しながら、数百メートルくらいの地点で停止した。


「ご、ご、ごめんなさい! ショウタくん! 魔法が暴発しちゃって……」

 すぐさま駆けつけて来てくれたユウラの声に起き上がる。

「うん、大丈夫だよ。びっくりしたけど」

 ははは、と笑いながら無事であることを示す。体力バーは半分くらい減ったが、死んでないから問題ない。


 それに今回は完全に俺の不注意だ。さっきのはいわば危険な実験を無防備に覗き込んだ結果であり、理科とかで先生に怒られる案件である。ユウラは何も悪くない。


「け、怪我とか……痛い所とかない……?」

 今にも泣き出しそうなほどに心配してくれている。そりゃ、やっちゃった方は気が気じゃないよな。


「平気平気、俺、体は丈夫だからさ。このくらいへっちゃらだって。ダンジョンでこれより強力な魔法を食らった時も大丈夫だったろ?」


 立ち上がりながら元気なことを示すために腕を回してフォローの言葉をかけてやれば、ようやくユウラは安堵したようだった。


「うん、じゃあもう一回説明を」

「それはまた今度、落ち着いた時にしようか! 今は町へ急ごう!」

 俺は有無を言わさずにさっさと歩き出す。流石にもう一回食らったら死ぬわ。

 というか、軽くユウラの説明を聞いた感じだと、割と簡単にできそうなんだよな。隠れて練習しとこう。魔法についてとかならポゥに聞けば教えてくれそうだし。


 そんな悶着を起こしながらも、俺たちは町へ向けて歩き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る