道中小話
ユウラと出会ったその日の夜。俺は初めてキャンプをしていた。
ポゥから知識を貰えば、材料さえあれば器用/999というチート能力でなんでもできる。葉っぱと木でいい感じの簡易テントを作ることだって造作もないことだった。
別に飲まず食わずで眠らなくても体力を消費すれば平気なのだが、流石に女の子であるユウラにそれを強要するのはマズイだろう。という判断でのキャンプだった。
まあこの女の子、俺の20倍くらい体力あるんだけどね。気持ちの問題さ、気持ちの。
ユウラは疲れていたのか、今は俺の作った簡易テントでぐっすりだ。
無防備極まりない、よくこんな森の中で熟睡できるなと感心して、あれだけのステータスがあれば寝込みを襲われても一瞬で相手を消し飛ばせるのだから問題ないと思い当たる。下手すると寝返りで粉砕されるんじゃないだろうか。
「そういえば、俺のステータスってカンストしてるわけじゃないんだよな? これって成長したりするの?」
ユウラが眠っていることをいいことに、俺はポゥへ問いかける。
『アイテムなどでの増強は可能ですが、これ以上の成長はできません』
「なんで? ユウラはあんな能力高いのに。器用以外、俺の十倍はあるじゃん」
『ユウラの場合はスキル”能力解放”によりステータスが大幅に増加され、あの数値になっているのであって、本来の人間の限界値はあなたの現在値なのです』
つまりは人間としてのステータスはカンスト済み、ということか。これから能力が上がらないとわかって、ちょっとガッカリだが初期が高いのだから贅沢は言っていられない。
「というか、このステータスってのも謎だよな。体力とか、0にならない限りは飲まず食わずでも生きていけるんだろ? どういう仕組みなんだ?」
『このステータスというのは、この世界の守り神であるアーリア様からの加護、と考えてください。体力は生命力を、魔力は神秘を与えます。力、器用、敏捷も本来人間が出せる以上の身体能力を発揮できるのも、アーリア様より授かりし物。スキルも同様ですね。器用だけはある程度、個人の裁量で決まりますが』
「神様からの加護なら、この世界の人たちに直接加護を与えればいいじゃん。どうして異世界召喚なんて回りくどいことをするんだよ」
『上位存在である我らとこの世界の人間は干渉ができないのです。与えられるのはあくまでもスキルのみ。そこから生じる力がステータスの能力となって人の身に宿るのです。例外として違う世界から召喚された人間には干渉が可能で、あらかじめ能力を割り振ることができます。ワタシと会話ができるのもその影響ですね』
「結構ややこしいんだな」
『ざっくりと説明しているだけなので分かりにくいのは仕方ありません。それにあまり詳しく説明しても理解できないでしょう』
決めつけは良くないと思うな。まあ、今の説明でも理解できるギリギリだったけど。
「ちなみに一般人のステータスってどのくらいなんだ?」
『成人男性がだいたい50程度です。器用は300ほどまで上がるのは珍しくないですが』
「へぇ、結構低いんだな。あれ、一般人がそのレベルだと、力/999もあったら人里で生活できなくないか?」
『心配ご無用です。ステータスの数値は器用の能力で制御可能です。あなたも松明を作成するときは素材を潰さずに作業が出来たのも、器用が高いおかげなんですよ』
「なるほど、器用って結構便利な能力なんだなぁ……って、器用で制御……?」
どぉぉぉぉん! っと背後から凄まじい音がして振り返る。森が、地面ごとパックリと割れていた。
「なんだ!?」と驚いて振り返る。
異変の発生源であろう箇所には、気持ちよさそうに眠るユウラの拳があった。寝返りで地面が割れたみたいだ。
怖いね。朝にはこの辺一帯が更地になっているかも。俺含めて。
その後は、ユウラの寝相で壊れたテントの修復や騒ぎを聞きつけて集まって来たゴブリンやらと戦って結局眠れず、気づけば朝陽が顔を出していた。
「ま、またやっちゃった……」
目が覚めたユウラは自分のやらかしを見て顔を真っ赤にする。羞恥に俯く彼女の仕草は愛らしいが、更地一歩手前の風景を目にしてしまうと素直に愛でられない。
「気にするなって、誰も死んでないからさ」
たぶん。ゴブリンとかは何匹か地割れに巻き込まれてるかもしれないけど。俺もテントを直そうと近づいて二回くらい殺されかけた。
「いつもはここまで熟睡はしないんだけど……今日は、ショウタくんがいたから」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるユウラ。
え、これ俺のせいなの? 申し訳ないけど責任転嫁だけはやめてほしいかな。
とりあえず、これ以上被害者の仲間(ゴブリン)が来ないうちに出発しよう。
焚き火を消し、俺たちは町へ向けて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます