初めての仲間

 ただひとつだけ確かなことがある。


 彼女がいればドラゴンを突破できるかもしれないということだ。どれだけ不器用だろうがドジっ子だろうがステータスで押し切ればどんな相手でも敵じゃあない。


 女の子の後ろに隠れて戦うなんて情けないが、装備が整うまではちょっと頼らせてもらおう。一回殺されてるんだからそれくらい許されていいはずだ。


 ちなみに、ダンジョン内のアイテムはボス部屋の物を含めてすべて消し飛んでいる。(ポゥ調べ)


 当初の目的を達成することはできなかったが、ユウラと出会えたので良しとしよう。きっと、彼女は魔王討伐に当たって大きな戦力になってくれるはずだ。仲間になってくれたらだけど。


 俺はポゥとの会話を切り上げ立ち上がり、ユウラへと振り返った。彼女は律儀に、言われた通り待ってくれている。


「お待たせ。ユウラさんは、これからどこかへ行く予定はあるの?」

「えっと、わたしはこのまま各地のダンジョンを回ってアイテムを集めるつもりです。探している物があるので」

「それなら、俺と一緒に行かないか?」


 そう前置きして、俺は自分の立場を語った。

 異世界から魔王を倒すために召喚された人間であることを。それを踏まえて、仲間として一緒に来てくれないかと提案する。一応、俺の無限残機という能力だけは伏せておいた。


 話を聞いて、ユウラは戸惑いを見せる。


 そりゃ、いきなり異世界とか言われても困るよな。でも、断られたらドラゴンで詰む。もう一押し、なにか言っておいた方がいいだろうか。逡巡している間に、ユウラはおずおずと口を開いた。


「そんな凄い人ががわたしと一緒にいると、きっとたくさん迷惑をかけてしまうと思います。頼るなら、他の人に頼んだ方が……」


 どうやら異世界がどうというよりはユウラ自身が迷惑をかけることを気にしているようだった。きっとダンジョン内での出来事を気にしているんだろう。俺と再会した時の反応を見るに、これまで色々あったのかもしれない。


 まあ、実際ダンジョンを消し飛ばすくらいの威力があって、それも満足にコントロールできていない魔法をぶっ放すような人間となんて、普通は誰もお近づきになりたいとは思わないだろう。彼女が一人でダンジョンに潜っていたのも、きっとそれが理由だ。


 だけど俺は違う。無限残機という能力があれば、高火力のフレンドリーファイアを食らおうが問題ない。それに俺ならユウラの力を十二分に引き出すことだってできるかもしれない。


「迷惑なんてとんでもない。あれだけ凄い魔法が使える君だからこそ、一緒に来てほしいんだ」


 それでもユウラは首を縦には振らなかった。どこか怯えるように、目を伏せ胸の前でぎゅっと手を握っている。

 嫌がっている様子はない。迷っているんだ。一緒に行くかどうか。


 だからもう一押し――俺は握手を求めて右手を差し出した。同時にダメ押しで腰を九十度曲げて頭を下げる。


「どうしても君の力が必要なんだ。お願いします。一緒に来てください」


 どうしてここまで必死なのかって? 本音を言えば、もういまいち頼りにならないサポート精霊と森を彷徨うのは限界なんです。癒し要員としてでもいいから一緒にいてほしい。

 もしこれで駄目なら次は土下座して頼み込む所存である。


 そんな思惑は胸中にしまい込んで、さっきよりも強めの勧誘をする。ユウラはかなり迷っているのか、返事はない。


 この格好、なんか告白しているみたいでちょっと恥ずかしい。そろそろ土下座を決めるべきだろうか。


「わかりました。こんなわたしでいいのなら、よろしくお願いします」


 そう言ってユウラは俺の手を握ることはなかったものの、そっと触れた。返事を聞いて、俺は顔を上げて、こっちから彼女の手を握る。


「ありがとう! こちらこそ、よろしく。ユウラさん!」


 俺たちは改めてお互いに挨拶を交わし合った。正式に仲間になったということで、俺は一つ提案をしてみることにする。


「これから一緒に旅をするんだし、敬語はやめよう。歳も同じくらいだろうし、俺もその方が気が楽だからさ」

「え、あ、そう、だね。ショウタくん」


 うん、やっぱり敬語よりため口の方がいいな。それと女の子に下の名前で呼ばれるのは初めてでこそばゆくて嬉しい。


 顔のニヤつきを隠すべく、先頭を歩きながらクレーターから這い上がる。その間に次の方針を決めるべく、俺はユウラへ問いかけた。

「とりあえず、これから街へ行こうと思うんだけど、ここから一番近い町ってどこか知ってる?」

「ノーモレスって町かな。それでも三、四日くらいはかかるけど」


 やっぱりそれくらいかかるのか。ポゥがわざと遠くの町を指定しているのでは、と思ったが違ったようだ。ホント、とんでもない場所に召喚してくれやがったな。


「でも、町に行くんなら、やっぱりわたしは一緒じゃない方がいいと思う」


 また蒸し返す。どんだけ俺に迷惑をかけたくないんだ、キミは。もう一回消し飛ばされてるし、大抵の事は許せるよ?


 ふと、後ろにユウラの気配を感じないことに気づいて振り返る。すると彼女は立ち止まり、俯き加減に手をもじもじさせていた。


 なに、そんなに町に行きたくないの? もしかして、凄い人見知りなのか? だから町に行きたくないとか。これまで話した感じだとどっちかと言えば陽の人間っぽいと思っていたが、人は見かけによらないんだろう。


 わかるわー、俺も人の多い所は苦手だし。今はそんなこと言ってらんないから仕方なく行くけど。


「大丈夫だって、なんかあったら俺がなんとかしてやるよ。だって俺たち、仲間だろ?」

 渾身のスマイルを作って言ってやる。お、結構カッコいいんじゃないか。今の俺。惚れられるかもな、これは。


 ユウラは俺の言葉に感銘を受けたのか、不安な表情から一変して柔らかな笑みを浮かべた。うん、やっぱり君は笑顔の方が可愛いぜ。流石に恥ずかしいからこれは口に出して言えないけど。


「そうだったね。うん、わかった。行くよ。もしものときは、頼りにするね」


 加えてそんなことを言ってくるもんだから俺は内心、はしゃぎ回っていた。これは冗談抜きで脈があるかもしれない。旅を経て恋愛に発展する可能性が……。


 俄然、燃えて来た。今ならドラゴンだろうが魔王だろうが勝てそうだ。


 そんな浮かれた心境のまま、俺は新しい仲間のユウラと共に深い森の中へと再び足を踏み入れるのだった。

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