天然チート
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
どうしてさっきまでダンジョンの最奥にいた自分がここにいるのか。
魔法による転送? いいや、違う。ここはリスポーン地点だ。俺にキスを迫ってきた魚人の死体が転がっている。
なら、ユウラの魔法で死んだってことか? いくら至近距離にいたからって、防御/999のステータスが一撃でって凄まじい威力だぞ。
ダンジョンの最奥――つまりは地下でそんな威力の魔法をぶっ放したってことは……。
「マズい! あの子、きっと生き埋めになってる。早く助けに行かないと! ポゥ! もう一度さっきの場所まで案内してくれ!」
言いながら俺は駆け出した。いった所でどうやって助け出せばいいのか、それはもう掘るしかないだろう。幸いにもマッピングはポゥがしてくれているからだいたいの位置はわかる。
それにユウラも、ワームの腹の中にいた時も平気そうだったし、窒息無効みたいなスキルを持っているのだろう。かなり都合のいい考えだが、今はそうあってくれることを願うしかなかった。
全力疾走で森の中を進んでいると、不意に視界が開けた。驚いて立ち止まる。周りの木々が、軒並み転倒していた。
「なんだ、これ……」
見通しの良くなった森の奥は完全に禿げ上がっており、その中心部であろう場所にはクレーターのような巨大な窪みが出来ていた。まるで隕石でも落ちて来たかのような状況だ。
恐る恐る、クレーターへ近づき覗き込むと、一つの人影がちょこんと座っているのが見えた。
ユウラだ。こちらに背を向けて呆然と空を見上げている。ひとまず無事っぽいが、どうしてあんな所に座り込んでいるんだ。
とにかく生き埋めになっていないことに安堵しつつ、俺はクレーターを滑り降りて行きながらユウラへ声をかけた。
「おーい! ユウラさん!」
俺の声にユウラはびくりと身体を飛び上がらせて振り返ると、驚きに目を見開く。まるで幽霊を見たような表情で立ち上がり、こちらへ駆け寄ってくる。しかも全力で。
「え、ちょちょっ、待っ!」
ブレーキが間に合わずユウラに激突する。そのまま一緒に転がり落ちる、かと思いきや受け止められた。それなりの衝撃だったはずなのに彼女はびくともしていない。
その体幹というか、力強さに少し驚きながらも、人生で初めての女子との密着にドキドキする。なんとか平静を装いつつ、別に抱き着かれているわけではないのだが、なぜか離れようとしないユウラに対して困惑を強める。
「えっと、ユウラさん? どうし――」
「無事で、よかった……!」
絞り出したようなユウラの声に、俺は口を紡ぐ。と、とにかくこのままだと俺の理性がヤバイのでそっと、肩を押して離れてもらう。
そうして、ユウラの瞳に涙が溜まっているのに気が付いた。服は所々が焼け焦げているが、怪我はなさそうだ。泣くほど怖かったんだな、食われる寸前だったし。たぶん俺も独りだったら泣き喚いて漏らしてたわ。
「わたしの魔法で、吹き飛ばしてしまったのかと……また、加減に失敗してしまったのかと思いました」
怖くて泣いていたのかと思いきや、どうやらユウラは自分の魔法で俺を殺してしまったのだと思っていたようだ。だからあんな悲しそうに、やるせないような感じになっていたんだ。
うん、まあ状況的にその認識は正しいんだろうね。ワームスライムに放った魔法はダンジョンごと俺を消し飛ばした。信じられないが、そういうことなのだろう。半端ないね、マジで。
「お怪我はありませんか? どこか、痛むところとかは?」
そんなことを考えている間にもユウラは俺のことを心配してくれる。
「ああ! 大丈夫、全然平気さ!」
安心させるためにも元気いっぱいに応えて見せる。というか、本当に元気だし。もう生まれ変わったみたいに元気だよ。俺がなんともないとわかってユウラはホッと息を吐き出した。そうしてようやく、笑みを浮かべる。うんうん、やっぱり可愛い女の子には笑顔が似合うね。
「けど、どうやってあの状態から脱出したんですか? もしかして、転移魔法?」
「ま、そんなところかな。ははは」
真実は告げなくてもいい。こうして俺たちは無事にダンジョンを攻略できたわけだし。ただ、一つだけどうしても気になることがあった。俺はくるりとユウラに背を向けて、小声でポゥに呼びかける。
「なぁ、ポゥ。ユウラさんのステータスって表示できるか?」
『できますよ。少々お待ちください――うわ、これは凄いですね』
ポゥにしては珍しい驚きの声。そこから一拍の間をおいて目の前にステータス画面が浮かび上がる。
ユウラ・ラックス
体力/20000
魔力/10000
力/8000
防御/9000
器用/0
俊敏/5000
スキル:能力解放、全属性魔法習得、即死魔法無効、加護付与(環境の影響を受けない、水中などで呼吸が可能)、能力引継ぎ、強運
とんでもない化け物じゃねぇか。え、待って? ドラゴンの倍以上強くない? ダンジョンを吹き飛ばしたからある程度の強さは予想していたが、俺の予想を百倍くらい上回ってるよ。
「ショウタさん、なんですか、それ?」
肩越しにユウラがステータス画面を覗き込んでくる。なんとなく、見せてはいけない気がして咄嗟に消した。
「ははは、気にしないでよ。それよりまたちょーっとだけ、待ってて?」
そう告げてから俺はユウラから離れてしゃがみ込み、ポゥへと話しかける。
「おい、おいおい、なんであんなチート能力を持ってる子がいるんだよ。あの子がいたら、俺が召喚された意味なくなるじゃんか」
『こちらとしても、まさかあんな逸材がいたとは思っていませんでした。確かに、彼女がいればあなたは不要かもしれませんね』
「え、そこは理由を付けて俺を持ち上げてくれる流れでは?」
『ですが、あれだけの能力を持っていてどうしてここまで……あぁ、なるほど』
「どうした? やっぱり何か深刻な理由が?」
『彼女は自分の能力をコントロールすることができないようです。ですので、あまり活動的ではなかったのでしょうね』
コントロールできないって……あ! とユウラのステータスに器用/0と表示されていたことを思い出す。
「もしかして、とんでもなく不器用って、ことか?」
『強いて言うならそうですね。もっとわかりやすく言うなら、凄いドジっ子、ということです』
どうやら俺は彼女のドジで一度消し飛ばされたらしい。はっは、こいつはとんでもない人物と知り合ってしまったらしい。
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