私殺し

みにぱぷる

私殺し

 私が人を殺している。目の前で私が私を殺している。


 私はいつもと同じように作業机で執筆に励んでいる。私は今、作業部屋の隅からそれを見ている。いつからこのような現象が起こるようになったのかはわからない。だが、疲れた時や、寝ている時に、不意にこのようなことが起こるのだ。意識と視点だけの状態になって、私を見るのだ。

 私は時折、頭を掻き回しながら、執筆している。私は今、部屋の隅からそれを見ている。

 窓が開いた。窓から人が入ってくる。窓から入ってきたのは他ならぬ私だった。私が入ってきたので、執筆をしていた私は困惑している。

 そんな困惑する私に、窓から入ってきた私は刃を向けた。細く鋭いナイフだ。そして、それを一思いに、私の胸に刺す。夥しい鮮血と共に、力を失った私の体がぐにゃりと崩れようとしたが、侵入者の私は、それを受け止めて、心臓を刺されもう命のない私を起き上がらせた。私は今、部屋の隅からそれを見ている。

 侵入者の私はペンチを取り出した。そして、命の灯火の消えた私の目を抉る。右目、そして、左目。視神経が千切れ、二つの目玉が取り出された。それでも、私は部屋の隅からそれを見ている。

 侵入者の私は二つの取り立ての目玉を見て、何だか悩んでいる様子だった。そして、何を思ったのか、部屋の隅で一連の様子を見ていた意識と視点だけの私に近づいてきた。そして、意識と視点だけの私の目を手探りで抉った。意識と視点だけなので、目という物体は存在していない。だが、侵入者の私、もあくまで私である。どこに意識と視点だけの私がいたのか、わかったのだろう。私の視点は暗転し、意識だけが残った

 その瞬間、私の意識と暗転した視点が物凄いスピードで動き始めた。私は、殺された私の体に戻るのだろうと本能的に思った。だが、違った。

 私の意識と視点は、侵入者の私の中に入った。成程、状況がわかってきた。この私の意識、視点は、執筆をしていた私のものではなく、侵入者の私のものだったのだ。少しスッキリした。

 視点を抉られた私が体内に戻ったので、侵入者の私も視力を失った。

 この作業部屋には、目も命もない私と、目はないが命はある私が残された。

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私殺し みにぱぷる @mistery-ramune

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