まいってや

藍田レプン

まいってや

 私の祖母の話である。

 祖母は信心深い人だったが、特に霊が視えたり、スピリチュアルな方面に傾倒していたわけでもない。孫の私には甘く、よく一緒に買い物に連れて行ってくれる、どこにでもいる普通の人だった。

 ただ一度だけ、こんな不思議なことがあった、と生前私に話してくれたことがある。

「夢枕にAさんが出てきた」

 Aさんとは祖母の友人で、祖母と同じく高齢のため、今は足を悪くしてほとんど外出しないため、時々祖母が遊びに行っている女性である。

「Aさんがな、夢の中で『参ってや、参ってや』って言うんよ」

 Aさんには長年連れ添った夫がいたが、数年前に亡くなっている。

 祖母はAさんが夫の墓参りに行けないので、自分の代わりに夫の墓参りに行ってほしいのだろう、と夢の中で考えた。

「わかったわかった、そんなら私が代わりに行っとくさかい、安心して」

 そうAさんに告げたところで目が覚めた。

 祖母は起きてすぐに身だしなみを整え、Aさんの家族墓がある霊園に行く準備をしていた

 その時、家の黒電話が大きな音を立てて鳴った。


「Aさん、その夢見た夜に死んだんよ」

 『参ってや』というのは夫のことではなく、自分の墓に参ってほしかったのだな、と祖母は納得したという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まいってや 藍田レプン @aida_repun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説