第4話 いつか会えるはいつ会えるか分からない
「―—ってことがありました」
「うっわ、ベタ過ぎなボーイミーツガール。全っ然、面白くなかった。脚本やり直して」
「さすがは数多の脚本を見て来たアリサ様。すみませんでした。どこを直せばいいですか?」
「全部。特にキス。なにアレ。頬にキスなんてベロチューと一緒でしょ」
「そ、そうですか。でも
アリサは「私との出会いの方がもっと運命的だった」と呟いたが、朔太は聞かなかったことにした。
「嘘言ってないのは分かるけど、それでどうして私は、朔太が年下の女とよろしくしている話を聞かされたの?」
「……そこですか。話を聞く前は面白そうだって言ってたのに」
アリサは、食べ終えた弁当箱を包んで鞄にしまう。
「それはそれ。これはこれ。私が朔太以外の男の話をしたら面白い? しかもキスなんてしたらどう思う?」
「実は僕、ねと——なんでもないです。とっても悲しい気分になります」
「恋人っていうのは、お互いの嫌なところをみせないようにするものだよ」
「へー。世間の恋人たちは大変そうですね」
「…………」
「…………」
もの凄く怖い視線を朔太は感じたので、顔を正面に向けたまま口を開いた。
「あの、つい否定しませんでしたけど、僕たち、恋人として付き合っていないですよね?」
「そうだったかな? だったら、付き合っていることにしましょう。そうしましょう」
「随分強引ですね。ま、その話は別の機会にしましょう」
「…………」
アリサは頬をリスのようにぷくっと膨らませてから、ムスっと空を見上げた。
「じゃあ別の話をすることにしましょうか。マネージャーが朔太を——」
「戻りません」
最後まで言わなくても、何の話をされるのか朔太は分かっていた。
「何度誘われても答えは同じですから」
何十回も同じことを言われた。それでも答えは変わらない。——いまはまだ、変えられない。
「……そう。でも、天下の大女優様から逃げきれるわけないのは分かっているでしょ?」
「かけっこは得意なんで、地獄の果てでも逃げてみせますよ」
「つまんない解答」
朔太の言葉にアリサはため息を吐くと、おもむろに立ち上がった。
「あ、ちょっと、どこに行くんです?」
「このあと撮影なの」
振り返らずにそれだけ言うと、アリサは屋上の扉が開けた。一瞬だけ朔太のことを見て何かを言った気がしたのだが、確かめる術もなく扉は無慈悲にも閉じた。
「……あーぁ、怒らせちゃったか。どうやってご機嫌とろうかなぁ~」
朔太は、どんよりした灰色の空に愚痴を溢した。
————それから何度も太陽が顔を出しては隠れを繰り返し、朔太とアリサは仲睦まじく、時には喧嘩をしつつも逢瀬を繰り返す。
だがその間、この学校にいるはずの松田寧々という少女に再び出会うことは無く、季節は春を迎えた。
朔太くんはネコの言いなり 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123
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