プロローグ

むせかえるような炎の臭い。

魔獣の肉と人間の肉が灰になるまで燃え上がり熱波が生きる者たちの恐怖を逆撫でする。

流れ出る血が土と混ざり合い沼のように足を引きずる。


「grraaaa!」


「いやだ!助けて!」


恐怖という感情が欠落した魔獣の猛攻が収まることはなく兵士たちはただ蹂躙されるだけだった。

刃を突き立てようと堅牢なその皮膚に砕かれる。鋭いカギ爪が鎖帷子で覆われた兵士たちをいともたやすく切り裂いていく。そのさまざまな動物を掛け合わせたようなおぞましい見た目が恐怖心を煽る。

そんな地獄のような戦場でただ一人剣を握ることをせず積み上げられた仲間たちの死体に隠れる兵士が一人いた。


「——フー、フー」


息を殺し体に垂れる血泥被り悲鳴が鳴りやむまでただ身を丸くして隠れていた。

仲間をただ見捨てることしかできず、戦うことを恐れるその兵士。

——仕方ない。人間が魔獣を相手取るなんてできるはずがない。

と自分に言い聞かせながらただ自分が生き残ることだけが頭の中を駆け巡る。



隠れ続けてから何時間経っただろうか。悲鳴の声はなくなり、足音が遠くへ離れていく。上に積まれた死体はすっかり冷たくなり、ハエがどこからともなく現れる。

死体と死体の間から日光がさし、朝の訪れを知らせた。剣を杖のように突き立て、立ち上がる。目の前に広がるのはすこしの魔獣の死体と、大勢の兵士の死体。ハゲタカが死体を啄み、ハエが傷口に群がる地獄の園にマルス・シーバはひとり立ち尽くした。

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まだ未定 榑樹那津 @NatukiSeiiti

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