【短編】攻撃力・防御力1の俺でも、もしかしたら世界を救えるかもしれない

みかみかのみかん

ありがたきこのクソみたいな転生



 1度目の人生は割と良い人生だったかもしれない。

 中学高校と友達は…まあそこまでいないと言うか大人になっても友達であるかも知れない人は1人しかいない程度の周りから見たらどうしようもなく、くだらない人生かも知れないが、それなりの生活、それなりの幸せはあったと思う。

 俺はそれで満足だった。


 それでも、、不慮の事故で俺は死に親友と別れの挨拶もできず俺は別世界へと飛ばされた。

 

 2度目の人生が始まった。


 しかし新たな人生は散々なもんだった。

 学校に通ったはいいものの、いじめでボコボコにされただけで死んだ。


 そこから俺はあらゆる世界に飛んだ。

 海外にも行ったし、前述したように別世界にだって行った。それでも最初の人生以外はクソみたいな人生だった。


 俺は体が弱かった。

 7度の人生で4度は魔法がある世界で俺は流れ弾の擦り傷でも死ぬくらいで逆に相手に前科をつけて迷惑な奴だった。

 1度だけ15歳まで生きた事があった。

 その時に俺には魔術の才能だけはあると言う事に気づいた。それと成長が遅いだけで体は成長すると言う事も。

 が、それでも攻撃力が上がるわけでは無い、相手には弱い風が吹いた程度にしか感じていなかった。



 8度目の人生もどうせロクでも無い人生なんだろともう諦めていた。


 目を覚ますと言葉が聞き取れない。

 また新しい世界に来てしまった。せっかく異世界の魔術を習得したり、言語も覚えて来たって所なのにどうしてこう言う時に限って神さまは悪戯をするんだ。



 そのまま俺はすくすくと成長、、した訳では無い。

 今回の転生ではまさかのエリートハンターの両親の元に生まれた子供だった。

 1歳になる頃には魔術の練習をさせられ、2歳を過ぎてからは父と朝からトレーニング、5歳になったら筋トレも始める。

 こんな英才教育をしてたら普通、それなりの強さになってハンターとして活動ができると言われている12歳からはすぐに頭角を現し注目されもしかしたらチヤホヤハーレム、異世界転生のご都合主義展開待ったなし!!



 だっただろうな。

 まあ、そこは残念ながら俺。

 勿論いくら鍛えても、身体能力、魔術操作、使用魔術が増えても結局、与えられる攻撃は1だし防御もムキムキになっても変わらず1だ。

 それでも今までに比べりゃ体の成長は早いか、

 しかし俺の転生は見事にハズレのようだった。

 

 学校も不登校になり、7歳になった頃には遂に母親に見放された…その夫婦喧嘩を俺は運悪く聞いてしまっていた。



「どうして…私の息子がこんなに才能が無いの…」

「まあまあ、ウィルも腐らずに頑張ってるじゃ無いか見守ってやるのも親としては…」


 父は母には強く出れないようだ。まあどの世界でも大黒柱は父だが、実際的権力を有しているのは大体の家、母だろう。

 例に漏れずうちもその大勢の中の1人。


「ウィルの動きは年齢にしては優れている方、でもこの年齢で最初のモンスターすら倒せないようじゃこの先いくら頑張っても無駄よ!」

「でもさ、ハンターだけが全てじゃ無い、ウィルがこの先必ずしもハンターになる訳ではないし、俺は最初からウィルがハンターになる事自体嫌だったんだ」


「どうして!私達の子供よ!

 こんなに小さい頃から仲間との時間を使って、私の仕事も休んでまで育てて来たのに

 もういい!!」



 母が遂に怒鳴り上げてしまった。


 


「うわっ」


 母が勢いよくドアを開ける。

 そのドアから耳をすませて聞いていた俺はそのドアにぶつかり倒れる。

 それだけでも額が腫れている、命に別状はないがこんな事でも一大事になり得る俺の体質にがっかりしてしまうのも仕方ないと思ってしまった。


「あ……すいませ…お母さ」


 今の話を聞いてしまって少し声が震えた。上手に言葉が出ない。

 俺はぺたりと手をついて倒れている状態のまま。

 母を何とも言えない…哀れみなのか、悲しそうなのか、失望なのか、複雑な表情で俺を見る。

 俺はトータルでは母よりも長い人生生きている人間だが、親になった事はなかった。だからこの気持ちは分からない。それでも分かってくれると願って、、、



 しかし俺は母の目を見ると涙が見えたが何も言わず、家を出て行ってしまった。



 少し放心状態の父、そしてそのままの俺、父が落ち着いた所で、俺の方は見ずに話しかけてくる。

 

「ウィル、全部聞いてたのかな…」

「うん…途中から、ずっと」

「……そう、か」


 俺は何を言ったらいいか分からなくなった。

 今の俺は7歳、まだ普通なら家族で遊んでいてもおかしくない年齢。

 両親の複雑な話を理解できる年齢では到底無い。

 それでも俺は理解できてしまった───






 今、俺のせいで家族が崩壊した。







 父の声は震えている。

 その背中はなんとも悲しそうで、でも子供には父親でなくちゃみたいに強がっているようにも見える。

 俺の方が生きてる年数は長いのにこんな経験は初めてだ。

 

「これから…お母さんとも」

「ウィル、少しお父さんと話をしようか」


 そう言うと父はこっちに向かってくる。

 俺が立ち上がれないのを分かっていてだろうか…

 手を差し出してきた。

 その手を俺は取り立ち上がって椅子に座る。

 面と向かって見た父の目には涙は無かった。

 顔は赤い。


「ごめんなお父さんのせいでこんな事になって…

 でもウィルは何も気にしなくていいぞ、2人で寂しくなるかもだけど…お母さんがいなくなって悲しいかもだけど、

 お父さん、面倒見てやるから好きな事をやるんだ。

 無理してハンターなんてしなくても良いからこの先ウィルには色んな事がある。今じゃなくて、ゆっくり考えて欲しい。

 お父さんは何をしても絶対、ウィルを応援するからな。」


 気にしなくていいそんなのは無理だ。俺のせいでみんなを不幸にした。父は愛する母を……

 それでも俺の事を心配させまいと優しい言葉を俺にかけた。

 俺には長い人生経験がある、そんなの違うに決まってる。

 分かっているのに…

 恐らく、初めての経験だった。


 「自由」そんなもの2度目の人生からもう捨てたもんだと思ってた。

 俺は何をするにも時間がかかる。人一倍手のかかる子どもだ。だから俺の自由を尊重してくれる人はどの世界にもいなかった俺ですら諦めていたんだから。


 父は俺に任せてくれた。親に縛られなくてもいいと、

 でも、俺の選択は決まっていた。

 

「俺、ハンターになりたい」

「…本当にそれがウィルの決めた事でいい?」


 父はまだ決めて欲しくなかっただと思う。

 父から見える俺の人生は、狭いものだ。

 しかし俺の人生はそんなものではない、俺は覚悟を持って言う。


「はい、なりたいです。」

「ゆっくり考えて良いって…」


 俺は首を横に振り、父に願うように。


「生きる力、生きる勇気を…

 お父さん、俺に教えて下さい。」


 

 そう言ったら、父は何も言わずに俺の頭をポンと優しく叩いて撫でた。

 フローリングに自分ではない涙の跡が落ちていた。

 


 ここから俺の物語が始まる。


 俺の実力は俺が1番よく分かってる。

 この先俺が最強チートスキル無双をする事はないだろう。でも俺には沢山の人生経験と膨大な魔力量に魔術知識、そして父と言う圧倒的存在。

 これ以上揃った人生もし、転生したとしても絶対に来ないだろう。

 チャンスだ。

 必ず掴まなくては。



「魔術は前の世界ほど複雑じゃ無いし、詠唱なんて概念すら無い世界みたいだ。割と見た目良い魔術師に見えてきたんじゃ?」


 俺はカッコよく(厨二)ポーズを取ると自分の最初の人生の顔を思い出して、恥ずかしくなった。

 良い年齢の男がこんなポーズしていると思うと、やってられない。

 慢心だ。

 俺に派手さはいらない。

 確実に、そして俺に合った戦い方を探す。時間ならまだ沢山ある。



 父親は魔術師では無く前衛にいる剣士、アタッカーって訳だ。

 そしてかなりの実力者で合ったらしい。

 その話はあまりしてくれない。

 なにか、理由があるのかもしれない。


「ウィル、今日もやってるのか偉いぞ」

「お父さん、魔術師教えて下さい」

「ごめんなウィル…

 もうこれ以上お父さんに教えられる魔術は無いよ

 だから来週、ちょっと外に行かないか?

 ずっと家で練習ばっかじゃつまらないだろう」

「でも俺、弱いし」

「お父さんがいる!安心だろ?

 これでも元々は優秀なハンターだったんだよ

 今ではずっと家にいる怠け者だけどね」



 父は自分の事を凄いとしか言わず、それ以上は何も言わなかった。

 聞こうとした事もあったが、父は「いつか話すよ」でずっと避け続けている。

 言いたく無いのでは無く、言わない方が良いのかもしれない。


(となるとチームメイトは母か…)


 ある程度は察してしまった。

 それにしても流石に年齢差はある。


 父は36歳でまだ鍛えてはいるし、最近は俺との練習でより一層張り切って運動している。

 母は、確か27とかだったような、法律ギリギリだ。

 父は押しに弱い性格と言う事もありアタックされて結婚をしたと言うのも聞いた。

 その通りだ。

 でもそんな押しに弱く、気も弱い父が俺は大好きだった。



 来週(外に出る日)はあいにく雨だった。

 仕方なく今日も家で練習。


 母は魔術師で前にうちにもかなりの数、魔導書もあったのだが先日、母の雇人のような人が母の物を取りに来ていたせいで家には本が消えてしまった。



「うーん、魔法は合成しても別に攻撃力は1だからな

 どうしたものか、ハッタリで逃げる…うわっ」


 そう言って俺は地面に爆撃魔法を撃ち爆風を陰に姿を消す。

 何とも意味のない事をしようとして怪我をしてしまった。

 これを父が拙いような回復魔法で治す。

 

 これは不採用。

 自分に危険があるのは実際の戦いでは使えない。

 父がいるおかげで何とかなるけど1人の時は、、

 

 これで俺はより実感してしまった。

 攻撃力1よりも防御力が1の方がまずいと言う事に。

 


「今日こそ外に出るぞ!」

「分かりました」


 最初の予定からは1ヶ月も経ってしまったが、遂にモンスターと戦う事が出来る。

 俺はワクワクよりは死んでしまうのでは無いかと言う不安に悩まされて乗り気にならない。

 自分が選んだ選択なのに何してんだ、、しかも今回は母もいた時、戦ったモンスターとそう大差ないモンスターと言ってたから今の実力を試すのにはもってこいだ。

 前から俺はどのくらい動けるようになったのか、流石に雑魚モンスターくらいは軽く倒したい。死ぬ心配は無いから。



「このモンスターを1人で倒すんだ」

「1人…お父さんは?」

「お父さんはここで見てるから1人でやるんだぞ」


 えー、、死ぬ可能性が出てきた。

 いくら何でも最初の所謂な雑魚モンスターだけど、攻撃がどのくらい通用するかもわからないし、相手の攻撃を俺がどれくらい受けれるかによっても変わってくる。

 

 それでも俺は転生者、こんなあっさり死ぬ事はないと少し余裕ぶっている。

 まあ、もちろんピンチになるのだが、



「ウィル大丈夫?もう限界かー?」


 こんな調子で父は俺を煽ってくる。

 そう言われてしまうと俺も変なプライドが邪魔して、「限界」とか「助けて」とかが言えない。


「大…丈夫!」


 それにしても全く攻撃を喰らっているようには見えない。

 俺の攻撃力の原理は物体に触れると1になると言うのは分かっている。

 

(それなら触れずに倒せば)

 

 嬉しい事にモンスターは何故か攻撃する意志が無いみたいで、一方的に攻撃が出来る。

 と言うわけで俺は恐る恐る近づいて、火をモンスターに当てない程度に近づいて攻撃を与えようとする。

 これなら干渉することなく燃やせるか。


 すると、モンスターが遂に俺に向かって攻撃(はねる)をして来た。

 俺にとってはまずい、何とかして避けなければ、しかし、しゃがんでいたせいで、すぐに動くことが出来ない。

 もしかしたら、耐えられるかもしれないが、もしかしたら死ぬかもしれない。


(助けて……お父さん)

「今日はよく頑張ったぞ、上出来!」


 そう言って、父は剣を抜き、素早い構えからの閃光のような一閃。

 モンスターは一撃だった。

 と言うかある程度強ければ、これくらい一撃なのだろうが。

 手慣れた手つきで剣を一振り、そして剣を収める。


「あと少しだったな、次はもっと工夫して何体でも倒せるようになれたら良いな」

「ごめんなさい、結局助けてもらって」

「大丈夫だ、自分の子どもに何かあったら絶対に助けるのはお父さんとして当たり前の事だからな!

 ウィルもそうだぞ、もしウィルに子どもが出来たら弱くても守る姿を見せてやるんだ。

 子どもが安心するから」



 最後まで全部言ってしまうのは正直なところで良い所でもある。

 俺もいつか大人になる時が来るとしたらこうなれたら良いなと思った。


 

 外に出た日俺は失敗した。

 この世界でもやはり俺は落ちこぼれ、何度生まれ変わっても力の無い人間。

 俺はもうこんな人生なら早く終わらせてしまいたいとまで思ってしまっていた。

 最初に未練なんて残したからだ。


 



 俺も内定を貰い、一安心した所、友人とドライブで旅行していた。

 もちろん男2人旅なんだが、

 親に「行ってくる」と言ったが俺ともう1人の友人が、帰ることが無かった。

 交通事故だ。


 完全に対向車のトラック過失、しかし事故に巻き込まれた3名全員、亡くなっている。

 あちらの居眠り運転による信号無視なのは間違いない。

 俺はその時、後悔した。

 まだやりたい事は沢山あった。

 苦しい大学生活が終わり、俺も晴れて社会人。

 皆は大人になるのが嫌と言うが、俺は少し楽しみだった。

 自分で金を稼いで、育ててくれた人に恩返しをして、、、

 いつかは俺を愛してくれる人ができて、、俺も守らなきゃいけない存在が出来て、俺の人生は確かに幸せな道を辿っていた。

 が、その道が、急に塞がった。

 そこで俺は願った。願ってしまった。

 

「俺はまだ人生にやり残した事がある…だからお願いします俺を、幸せにして下さい」と。


 それがこのザマ、今の俺が育っても、子ども1人も守れるどころか6歳になる頃には俺が守られてしまうだろう。

 この実力のせいで友達とのコミュニティを作れる訳でも無い。本当に無駄な事をした。

 

 俺には多幸で死ぬ事は許されないのかとも思ってしまう。



「攻撃は触れずに当てる、そんなのが本当に可能なのか?

 もし、俺の想定を超える敵が出た時、1人でどうにかなるのかな、」


 不安だ。

 いつも、ずっとそうだ。多分これからもそうだ。

 俺は成長する事は無い。


「成長する事が無い体、、なら動きを変える必要はない!

 どうせ攻撃は何しても1だし、いっそ好きに自由にやってみるか」


 なんか考えるのもバカらしくなって来た。

 


 俺は日本で見た、小説ラノベのファンタジーで主人公が使ってるような、ド派手で高威力、広範囲のイケてる技で自分がこの世界で、魔術を1番楽しんでやろうと思った。


 練習する場所?必要ない、どうせ攻撃は干渉したら1になるんだから、壊れる心配すらない。

 そう考えると俺は無性に元気が出て来た。

 魔術の才能はあるのだから。



「やっぱり主人公なら、、火かな?

 それとも氷?

 いや、雷も捨てがたい……

 むしろ、ダーク主人公で闇にでもしてみるか?

 逆に地味な風とかでも悪くない」



 そう言いながら、全ての魔術を一通り試してみる。

 全部ド派手な何でもありの厨二心をくすぐる、

 魔法陣とか自分を軸に円周の軌道をする攻撃、地面から氷が岩のように出て来たり自分の望んだ箇所に雷撃を落としたりとやりたい放題。

 少しは攻撃力が上がっていればと思ったが、それは無理な願い。

 実際には、闇だけは干渉せずに攻撃を実現できるし、ダークヒーローは意外にカッコいい、けど1番不安定。

 流石にメインをこれにするのは不安が残る。



「どうした、今日はやけに派手にやってるな」

「何か見つかるかなって、お父さん、ちょっとで良いから俺の攻撃受けてみてよ」

「もしかして、今のをか?」

「勿論!」


 そう言うと父は少しだけビビっていた。

 無理も無い、あんなド派手な攻撃、いくら攻撃力が1だからって喰らうのには抵抗がある。

 恐らく「もし成長してて、攻撃力が1じゃなかったら」とか考えているのだろう。


 しかし、その問題は俺にはアホに見える。

 もし高火力なら、まずは芝生とか自分の家にも甚大な被害が出ているはずだからだ。

 俺はそれをあえて言わず、「大丈夫だから」と何とも信頼性の無い言葉で返す。


 父としてか、最初だけは躊躇ったが、すぐに覚悟を決めて俺の前に立った。


「よし、来い!ウィル」

「行くよお父さん」


 俺の選択した技は氷だった。

 理由は、1番相手を妨害出来るかもと思ったから。

 その選択は良かった?

 父が俺の出した氷の中で凍ってしまった。


「よし、これなら戦える」


 俺は攻撃力が無くても、相手を無力化する事が出来ると言う事が分かった。

 後は魔術を繰り出す速度を上げないと、


 それにしても父は出てこない、俺は慌てて


「大丈夫?ちょっと待って」


 俺は少し焦っていた、俺は攻撃力が上がったのかと思ったのと同時に、父を殺してしまったのでは無いかと。

 が、その不安は一瞬にして去る事になる。


「全然!問題無いよ

 まあ一瞬びっくりはしたけど、中からも余裕で氷は壊せるし、冷えるけど即死する程の寒さでは無いかな

 強い相手にはあんま効果的じゃ無いかもしれない」

「うん、分かってたよ」



 俺は一瞬の喜びから少し落胆してしまった。

 父が生きていたのは嬉しかった。何よりも嬉しかった。

 しかし、俺が強くなったと勘違いして喜んだ事、やはり俺は弱いんだ、力が無いんだと悔しさで泣きそうになってしまった。

 

「どう足掻いても俺は敵を、、モンスターを倒す事が出来ないの、、

 ねえ!

 どうして!

 俺だけには何も与えないんだ……神さまなんて」




 俺は叫ぶだけ叫んで、父を気にせず家に帰ろうとした。


 その時父に肩を掴まれ静止された。

「これは怒っている」と感じ俺は振り向かなかったが、肩を掴んでいた父の手はやがて俺を抱え抱きしめる。

 そして父は俺に話した。



「ごめんな、お父さんがこんな、、こんな体に産んでしまって……」

「これ以上は何も言わないで、」


 俺がそう言うと、父は諦めたかのように、抱えていた手を緩める。


 俺は父の手から離れ、振り返る。

 父は下を向いてはおらず、前をずっと向いていた。

 俺が立ち止まってくれるとは思っていなかったのだろう。

 ゆっくりと俺の顔に視線を向ける。

 それを感じ取った俺は……

 

「こちらこそごめんなさい、いきなり叫んでしまって、

 力はこれからどうとでもなると思います。変えて見せます

 でも、父親は変えられません。」


 父は何を言われているか分からない様子。


「俺は…俺は、お父さんの子どもで本当に良かった

 だからそんな事は言わないで、また一緒に俺の夢に付き合って欲しい。また一緒に外に行って欲しい。」


 俺が全て話し終えると、父はもう一度、俺を抱き締める、さっきよりも強く。


「そうだな、、頑張ろう、」


 父はそれだけを言って、立ち上がった。

 不器用で正直で優しい父だからこそ出来る、最大限の優しさだった。

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