転生聖女、魔法少女にスカウトされる?!
桐原まどか
転生聖女、魔法少女にスカウトされる?!
衝撃。目を開けると、見慣れたワンルームの部屋が広がっていた。
―戻って来れた…。
コーヒーを飲もうと、キッチンに立つ。
今回は骨が折れたわ…。
響野月。彼女は実は希少な〈聖女〉の魂を持つ者である。
永きに渡る輪廻転生の間に、何度〈世界〉を救うべく、召喚されたやら…。
今回は日本に産まれて、のんびり出来そうだと喜んでいたのに。
今回の人生で召喚されたのは三回。
一回目が八歳の時、幼い身体で、頑張って〈世界〉を浄化した。
二回目は十五歳の時、〈魔王退治〉した。
そうして、二十三歳、三回目。
大国の戦争、癒しの
結果、勝利。
なので。
無事に帰って来れた。
―全く難儀な人生だわ…。
温かいコーヒーにミルクだけ、いれる。
リビングのローテーブルにカップを置き、クッションに座る。
テレビも観ず、スマホも触らず、ぼうっとする。
永きに渡る〈聖女〉人生で召喚を拒む事は出来ないけれど、〈元の世界〉へ戻る術だけは見つけられた。
一口、コーヒーを飲む。苦味とまろやかさのマリアージュ。美味しい。
しみじみと味わっていると、急に目の前に、奇妙な〈モノ〉が現れた。
「やぁ!!ボクはリク。ねぇ、ボクと契約して魔法少女にならない?」
ひとつ、瞬きをした。そいつは紫色でもじゃもじゃしていて、一つ目で、悪魔のような羽と尻尾があった。
ほぼ反射で、クッションで殴り飛ばしていた。
コロコロ、転がる。
「何するのー」と抗議の声をあげるそいつを、ルナはそっと、つついてみた。ぬいぐるみみたいな質感だった。
「何、これ…」呟く。
そいつは床の上にすくっと立った。よく見ると短い、猛禽類を思わせる足があった。
「だから、リクだよ。ねぇ、ルナ、ボクと契約して魔法少女になってよ」
さっきは、ならない?だったのが、なってよ、に変化している。というか。
「何で、わたしの名前…」
リクはケラケラ笑った。
「そりゃあ、ボク、スカウター、あっ、魔法少女をスカウトする係ね、だもん。対象者の事は把握してるよ」
リクは続けた。
「ねぇ、ルナ、お願いだよ。そうしてくれたら、ボク、とっても助かるんだ」
その身体をむんずと、鷲掴みにした。
えっえっ、と言っているリクを玄関を開け、放り投げる。
あー!などと言う間抜けな声が、夜に響いた。
三日月の綺麗な夜だった。
次の日の仕事帰り。
久しぶりに目にした会社の面子や様子に懐かしさを覚えつつ、淡々と仕事をこなした。
不思議なのだが、ルナが異世界に召喚されている間も、こちらの世界は大して時間は経たないのだ。だから、やれ失踪しただの、行方不明だの、騒ぎにならない。極端に言えば、こちらの五分が向こうでの二十年だったりする。まちまちなのでいまいち掴みきれずにいる。
―昨夜のあれは何だったのか…。
ルナは自身が〈聖女〉の魂を持ち、前世はおろか、それ以前の記憶がある為、いわゆる〈魔法少女物〉に興味がなかった。幼い頃にせいぜい周囲に合わせる為に観たプリキュアくらいか。それでも、確かつい最近流行ったダークな〈魔法少女物〉があったな、確か〈願い事〉を叶えるとかどうとか…。
ぼうっと考え事をしていて、前を歩いていたはずの人にぶつかってしまった。
「ごめんなさい」と咄嗟に声をあげた、と。「ん?」
―何、あれ?
その視線の先には、おそらく踏み潰さたのであろう、コンビニが一軒と、そこの店員らしき人物が逃げ惑っている姿、そして…。
巨大な―何故か、身体が半透明な怪物?
「あれは〈侵略者〉だよ」
耳元で囁かれ、うわっ!となった。
紫色のもじゃもじゃ。リクだ。
「あれは〈魔法少女〉じゃないと倒せないんだ…ルナ…」
周囲の人々は逃げ惑っている。
溢れる悲鳴と怒号。
紫色のもじゃもじゃをむんずと鷲掴みにした。
「早くして」
「えっ?」
「面倒な手続きいらないから〈魔法少女〉とやらにして!」
跳躍し、一気に肉薄する。怪物もどうやら、ルナに気付いたらしい。
攻撃してこようとするが無駄だ。
渡されたステッキが邪魔くさいので、放り投げる。
左手で防御魔法を展開。
右手で空中に呪文を描く。〈聖女〉にしか扱えない上級魔法。
「還れ、神のみもとへ」
半透明の怪物の上に、巨大な光の束が現れ…それを浴びた怪物は、蒸発するように消えた。
―よし。
そのまま、地上に降り、踏み潰されたコンビニの、店員の元へ駆け寄る。
さっと癒しの力を使う。足を怪我していた店員は「えっ!なんすか、お姉さん、なんすか?」と混乱していたが、無視して走り去った。
大分離れた物陰で、リクが変身を解いてくれた。
リクは震えていた。
「ルナ、いや、ルナさん、あなたは何者ですか…?」
…対象者の事は把握してるんじゃなかったの?
「私は〈聖女〉よ」
端的に事実を述べた。
なおも震えているリクを連れて、部屋に帰った。
自分用にコーヒーをいれる。
面倒に思いつつ、リクに自分の事を語った。
「そんな人がいるなんて…」
ポカンとした瞳でルナを見てくる。
「ちなみにこの姿じゃ、魔法使えないから」と説明を付け加える。
リクはガバッと頭をさげた。
「お願いします!自分たちを助けて頂けませんか!」
「はぁ?」
リクの説明はこうだった。
自分たちはこことは、別の世界で平和に暮らしていた。
ある日突然、空から(とリクは言った)飛行物体が現れ、そこから出てきた人々(?)に「この世界を寄越せ」と迫られた。
勿論、拒否した。戦争。
異世界に逃げ込もう、そこでチカラを貸して貰おう。
そうして逃げて来た先が、ここ、日本だったという…。そして。その〈侵略者〉たちもついてきてしまった、のだ、という。
「何よ、その後先考えない他力本願は…」ルナは呆れて、頭を抱えた。
さっきはつい、人助けをしてしまったが…。
「じゃ、何?アンタたちがいる限り、あの〈侵略者〉? だかは出てくるの?」
「はい」
ルナはリクの頭をはたいた。
「痛いっ!」
「『はい』じゃないの!はた迷惑!他人の迷惑を考えない馬鹿たれどもが!」
ついつい熱がこもり、たっぷり三時間(!)説教してしまった…。
次の日から、ルナとリクのコンビは戦いに身を投じた。
と言っても、ほぼルナの圧勝だったが。
最後の平穏をぶち壊されてたまるもんですか!
世界平和や人民の為よりも〈自身の平穏〉の為に、敵をしばき倒す…。
倒し続けて、ついにラスボス格が現れた。
瞬☆殺。
ルナは確かに笑っていた、という。
リクたちの代表者(やはり、紫色のもじゃもじゃ)が、やって来て、
「これで安心して、元の世界に帰れます。ありがとうございました」
と深々と頭をさげた。
「あっそ。今度は逃げてこないでよ?迷惑だから」
冷たくあしらってもなお、礼を言いながら、いなくなった。
―やれやれ、これでのんびり…
〈ある事〉に気付き、ルナは絶叫した。「あいつら!ただ単に礼言っただけで、何にも〈願い事〉は?とかなかった!」地団駄を踏んでいると、ルナのいる部屋の床に、見覚えのある魔法陣が…。
ルナは「また〈召喚〉なの!?」と叫んだ。
〈聖女〉に平穏は訪れそうにない…。
転生聖女、魔法少女にスカウトされる?! 桐原まどか @madoka-k10
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