第98話 終わりの始まり
*・*・*
時は経ち。
巡り巡って、
「局長! 生地の仕込み上がりました!」
「
「ありがとう。次の作業に移って!」
背には大きくなった子を背負い、
崔廉もまだ在籍はしているが、ほとんど恋花の後方支援のようなものばかりで雑務だ。若いうちに新しい技術を取り入れた方がいいとの提案で退いたのである。
「局長ー! ここも終わりっす!」
それともうひとつ変わったのは、皇妃となった
恋花は最初驚いたが、決意の固さに頷くしかなかった。今では大事な右腕的存在とまで信頼している。それくらい、無くてはならない相手となったのだ。
「林杏、奥と手前の発酵進めて欲しいの。あとは」
「活気がすごいな?」
「あ、
婚姻を結び、子を成したことで呼び名は変わったがますます美男子となっている紅狼が顔を出してきた。
以前は、従姉妹の緑玲の護衛としてだったが……今では点心局長となった恋花の夫として、後宮を行き来出来る立場となっている。
「
「首が座ってから、ずっとここで生活していましたから……慣れたと思います」
背負い紐を外して、我が子を夫に預けてまた指示を飛ばしていく。この流れも慣れたものだ。九十九の
どのような絆を育てられるのか非常に楽しみだ。この子は、恋花が長い間疎まれたあの頃と同じにはならない。
そして、これから先の世を繋いでくれる大事な存在でもあるのだ。大人になったら、恋花と紅狼の口からきちんと九十九の危機に繋がる未来を伝えるつもりでいる。
可能であれば、繋がりに関係のある麺麭作りも覚えて欲しい。先読みがこの子へと宿替えをするかはまだわからないけれど。
数年前に旅に出た
油断は出来ないが、今は精一杯愛情を注いでこの子を育てたいと思っている。愛する人と、尊敬するこの場所で……大好きな麺麭をたくさん作っていきたいのだ。
「お、おい、真蘭? 髪を引っ張るな」
父親になれたか怪しいと、紅狼は時々つぶやくが興味を持たれている様子を見ると心配ないように思えた。
あやすのを任せたら、恋花は窯から焼きたての麺麭を取り出した。小ぶりだが、膨らみと焦げ目が美しい仕上がりの……紅狼が一番好きなあんぱんだ。
匂いで彼もわかったのか、顔を上げて笑みを浮かべていた。
「お待たせしました。焼きたてのあんぱんです」
未来と未来を繋げる食べ物は、人だけではなく寄り添う存在である九十九も喜んでくれる。
恋花の声を聞くと、あちこちから九十九が顕現し笑顔を浮かべていたのだから。
【終】
後宮見習いパン職人は、新風を起こす〜九十九(つくも)たちと作る未来のパンを〜 櫛田こころ @kushida
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