第8話 剣士と盗賊団① 依頼開始

「えっと、指定された場所は……ここ、だよな」


 朝。ヤベッツさんに言われた通りの時間に、指定された場所にやってきた。

 依頼内容は、ここから馬車で六時間位の場所にある、盗賊団ラバーロックの根城をヤベッツさん達が襲撃する。その後の事後処理の為の物資を運ぶ馬車の護衛をすること。他の冒険者と合同で依頼をこなすのは、これが初めてだ。昨日のは手助けということで、俺自身は依頼は受けていないので除外。


 指定された場所は、『野菜剣』という名前の酒場。東門の近くにある、見た目は何の変哲もない酒場だ。名前が特徴的なのもあって、宿の女将さんは場所を知っていた。『準備中』の札がかかっていたが、恐る恐る開ける。


「失礼しまーす……」

「あっ、ノモサ君。時間通りだね」

「あれ?アネッサさん?」


 店内は薄暗かったが、既に四人の人影が見えた。

 一人目は、毎度おなじみ、冒険者ギルドの受付嬢、アネッサさん。物資と共に現場に赴くギルド職員は、アネッサさんなのか。

「今日は、よろしくね?」

 二人目は、恐らくこの店の店主。カウンターの中に立っている。

「ようこそ、『野菜剣』へ」

 たれ目が特徴的な、少し小太りなおじさんだ。顔だけ見ると優しそうだが腕にはいくつも古傷が付いているので、昔冒険者だったのかもしれない。


 三人目と、四人目。この二人は、恐らく冒険者だろう。

「わお。また若いのが増えた、選ばれるなんてすごいのね、君」

「おうちに帰りたい……何で僕なんかが……」


 個性的と言うか……強そうに見えない。まあ、傍から見たら俺もそうなんだろうけど。


「えっと……初めまして。俺は、ノモサ、鉄級冒険者です。まあ、一昨日上がったばかりですけど」

「はいはーい、私はね!銀級冒険者の、ニオンでっす。よろしくねー!」


 テーブルに胡坐をかいて、何かを飲んでいる女性。というか酒臭い。杖を隣に置いている所から見て魔術使いだと思うのだが、依頼前に飲んでいて大丈夫なのか?


「ん?これは水だから、大丈夫だよん」

「え?……あ、そうですか」

「昨日から徹夜で飲み歩いていたけど、問題ないわ!」

「……なら、頑張りましょう」

「ええ、頼りにしてるわね!」


 徹夜とかは、聞かなかったことにしようか。と言うか、銀級冒険者って、こんな人でもなれるのか。


 そして、四人目。俺と同じくらいか、少し幼い位の少年だ。店の隅に座っていて、こちらと目を合わせようともしていない。短剣を抱いているのを見るに、近距離戦闘を得意としているのだろうか。


「えっと……君の名前は?俺はノモサって言います」

「……疲れた……眠いよ……早く帰りたい……」


 答えてくれなかった。と言うか、こちらを見ようともせず、何事か呟いている。

 仕方がないので、アネッサさんに聞く。

「えっと、彼は?」

「あ、エラント君ね。彼は……たまにしか依頼を受けないけど、優秀な冒険者だよ。依頼の達成数が少ないからまだ銅級だけどね」

「いつも、あんな感じなんですか?」

「そうね。まあ、いざとなったら頼りになるらしいから、安心して」

「そうですか」


 あの様子を見るに、安心できないけど。

 それにしても、銀級と銅級冒険者なのか。鉄級は俺だけなのかな。と言うか、そもそも冒険者は何人いるんだ?三人でも多い気がするんだけど……


「今日は、何人の冒険者が参加するんですか?」

「後一人よ。彼は実力はあるのだけれど……あ、噂をすれば、来たみたいね」


 店の入り口の扉が開き、最後の一人が姿を見せた。


「……ここで合ってたか」

「ええ。今日はよろしく頼むわね。ラインバルトさん」


 まず特徴的なのは、全身鎧を着ていること、そして、見上げる程大きいことだ。二メートル近くあるのではないだろうか。こうして近くにいるだけでも、威圧感がある。と言うか、こんなに目立つのにどうしてこれまで冒険者ギルドで見かけなかったのだろうか。背には荷物袋と、これまた大きな槍を背負っている。

 頭を含め全身を覆っているので、顔は見えない。

 彼、ラインバルトは、店の中を見渡して、ため息をついた。いや、顔は見えないが、ため息をついたように見えた。


「おいおい、盗賊や魔物に襲われるかもってのに、こんなガキと女しかいなくて大丈夫かよ。護衛対象が増えるのは勘弁だ」

「ええ、大丈夫です。皆さん、優秀な冒険者なので」

「そうかよ。俺は、ラインバルト。冒険者だ。足は引っ張るんじゃねえぞ、雑魚ども」


 初っ端から結構な挨拶である。まあ、一応自己紹介はしておいた方がいいか。


「あ、俺は、ノモサです。えっと、まだ鉄級ですが、よろしくお願いします」

「鉄級?は?おいおい、鉄級に何が出来るってんだよ。馬の方がまだ役に立つっての。それとも、お前が馬車を引くのか?」

「え?いえ……あ、足は引っ張らないように頑張ります」

「まあいい、そもそも、てめえらのような雑魚冒険者共に期待はしてなかったからな」

「……はい、分かりました」


 怖い。ここは、言い返さないで適当に流しておこう。

 というか、これから六時間近く同じ馬車で過ごすのに、大丈夫だろうか。ラインバルトさんは金級冒険者だが口が悪いし、ニオンさんはテーブルの上で呑気にニコニコしてるし、エラント君は、店の隅で縮こまって何事か呟いている。

 アネッサさんが、小声で忠告してくれた。

「ラインバルトさんは、一ヵ月ほど前にこの町に来たんです。もともと王都で活動していたらしくて」

「そうなんですか」

「実力は確かなんですが、何度も問題を起こしているらしいんです。気を付けてくださいね」

 そう言った後、アネッサさんは全員に聞こえるように声を上げる。

「全員揃いましたね。ひとまず、馬車まで移動します……あ、その前に、一応冒険者証を見せてください」


「あ、はい」

「ほらよ」

「……」

「はーい」


 各々、冒険者証を提示する。アネッサさんは、しっかりと確認してから、店の外に向かう。

「さて、詳細は馬車の中で話します。付いてきてくださいね」


 店の外に移動する。さあ、依頼開始だ。

 ……しかし、このメンバーで大丈夫なのかな。連携とかを取れる未来が見えない。やっぱり心配だ。

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辺境の剣士 山目舜 @Yamame3935

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