第7話 薬草採取のお手伝い
「あ、ノモサさん!」
「エヌさん、どうだった?登録出来た?」
冒険者ギルドを出ようとしたところで、後ろから声をかけられた。エヌだ。
「は、はい、登録できました。そういえば、さっき強そうな人と一緒に二階に上がっていましたよね?依頼、だったんですか?」
あ、依頼に関しては秘密って言われてるんだっけ。
「いや、えっと、依頼じゃなかった。銅級に上がったから、色々と話を聞いていただけだよ」
「えっと、採取の依頼で、今から森に行くところなんですけど……」
「そっか。頑張ってね」
「……」
採取の依頼か。俺が初めて受けた依頼も、そうだったな。
エヌさんは何か言いたげな表情をしている。
「……えっと、植物の採取の依頼だよね。種類がわからないなら、ギルドの二階の書庫で調べると良いよ」
「……」
「森に入るだけならその格好でも大丈夫だと思うよ。あそこは滅多に魔物なんて出ないし」
「……」
「……ついて行こうか?」
「……いいんですか?」
「うん。今日は、依頼を受けられない……あ、いや、受けないつもりだし」
「少し、不安だったんです。薬草なんて、本物は見たこと無かったから」
薬草を見たことが無い?俺は村で、薬師のサーラばあさんの手伝いとかしていたからよく知っているだけで、これが普通なのかもしれない。
「わかった。準備はいい?」
「は、はい、お願いします……」
そういう訳で、付き添いとして、森に向かうことになった。今日は依頼を受けられないし、休息がてら手助けすることにしよう。
明日の為の用意は、夕方でいいか。
森にて。
「それが、切り傷に効く薬草だね。葉がギザギザしているのが特徴だよ」
「へえ、こんな風に生えているんですね……こちらの植物は、メッサ草、ですよね?」
「うん。眠気覚ましに使われることもあるけど、いろんなところで生えてるから、採取してもあまりお金にはならないかな」
「なるほど。ノモサさん、詳しいんですね」
ノモサは、エヌに薬草について教えていた。
「まあ、村に薬師のおばあさんがいて、その人に、色々教えてもらったんだ」
「そうだったのですね」
「と言うか、薬草の種類とか名前とかはわかるんだね。親が学者だったとか?」
「えっと……教会で、教わりました」
「教会?」
教会で?他の町では、学校と教会が一体になっているらしいって言うのは聞いたことがあった。
「私、教会の孤児院で育てられたんです。そこで、学びました」
「……そうだったんだ。ごめん、変なこと聞いちゃって」
「いえ、気にしてません。物心ついた頃から、ずっとそこで暮らしてましたし。それに、一人じゃなくてお姉ちゃん……えっと、姉のように慕っていた人もいましたから」
「そっか」
「あ」
エヌは、薬草を採取するのをやめ、こちらに向き合った。
「えっと、どうしたの?」
「そういえば、ノモサさんにはまだ聞いてませんでしたね。ノモサさん、ディーナ、という人」
ディーナ?うーん、知らない。と言うか、名前を知っているのは村の人を除けばルイミーさん、白兎の宿のシャオ君とエリスちゃん、冒険者ギルドのアネッサさん、冒険者のヤベッツさん位だ。名前も知らない人が多い。
「ごめん、知らない。えっと、そのディーナさんは、知り合い?」
「えっと……まあ、誰にも話してないんですが……ノモサさんなら話してもいいです。少し長い話になるんですけど……」
「え?あー…………うん、聞くよ」
誰にも話していない……あんまり深入りするつもりは無いんだけど。まあ、話したいというならば、良いか。
「ディー姉……ディーナと言うのは、先ほど話した、私の姉替わりの人です。血のつながりはもちろんありませんが、私より二つ年上で、みんなからも慕われていました。
丁度二月ほど前になりますね。聖教会の最高司祭様が孤児院を訪ねられて、翌日にディーナは修道女見習いとして他の町に行くことになりました。
あ、元々、孤児院は、修道女や修道士見習いを育てる為の施設でもあって、幼いころから回復魔術や勉強を教わるんです。ディー姉はとても優秀でしたし、孤児院を卒業して修道女見習いになるのはみんなの憧れだったんです」
二月前……ルイミーさんが村に来るよりも前か。
それにしても、教会とか孤児院とか、村には無かったし、別の町にはそんな施設があるのか。
「とても優秀な人だったんだね」
「はい。ディー姉は何でもできて、私にとってはかけがえのない存在でした。
でも、出発が急すぎて心の準備が出来ていなかったのもあって……前の晩、喧嘩……いえ、その、悪口と言うか…ま、まあ、少し言い合いをしてしまったんです。今では後悔しているんですけど。そのまま、ディー姉は出て行ってしまって。
……その後、色々あって、孤児院から逃げ出してきたんです……ディー姉に会うために」
「そっか」
俺も、姉が居るけど……喧嘩してばっかりだったな。
「逃げ出すって……閉じ込められてたってこと?……いや、答えたくないならいいんだけど」
「……えっと……すいません」
「あ、じゃあ、そのディーナさんは、どこにいるかわかってるの?」
エヌは、首を横に振る。
「いえ、それがわからないんです。孤児院に来た最高司祭様は、どの町に行くのかは守秘義務?があって教えてくれませんでしたが、ディー姉は『ここから東の方の大きな町』に行くとは教えてくれました」
「東の方の大きな町?えっと……」
「私が住んでいたのは、王国の西、教会都市セストの外れにある孤児院です。手がかりが無いので、ひとまず王都に向かってみようと思いました」
東って……王都ってこと?まあ、ほとんど王国全域じゃん。
と言うか、王都って、確か国の中央あたりにあるんだったよね?方向違くない?
「あんまりこの国のことは知らないんだけど……この、オスターの町って、王国の北の方にあるんだよね。遠回りじゃない?」
「乗合馬車を間違えてしまって……気づいたときには、この町に着いていました。この町の教会に行って司祭様にそれとなく尋ねてみたんですが、知らないようでしたし、お金を貯めて、王都に向かおうと思っています」
「ディーナさん、早く見つかるといいね」
「はい」
「じゃあ、今日の宿代の為にも、王都に向かうためにも、早く採取しないとね」
「はい!そうします」
その後も、採取をしながら歩いて行く。その間、薬草について聞かれたり、雑談しながら採取を続けた。
今日の成果
切り傷に効く薬草……23本
メッサ草……3本
ソールの花……5本
間違えて採取した雑草……5本
買取金額 銀貨10枚
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