第6話 ヤベッツの依頼
「盗賊団『ラバーロック』。先日、とある冒険者パーティーがその根城となっている洞窟を見つけた。ここから馬車で6時間程の場所だ。偵察も済んでいる」
「明日の昼過ぎに、奇襲を仕掛ける」
「実際に攻め込むのは僕を中心とした冒険者計12人だ。しかし、奇襲を仕掛ける都合上、大々的には動けないので、最低限の物資を持って向かう」
「恐らく成功するので、事後処理の為の物資を運ぶ冒険者ギルド職員の護衛をお願いしたい」
金級冒険者のヤベッツさんは、こちらの顔を見つつそう説明した。
「頼めるかな?」
「二つ、質問してもいいですか?」
わかりやすい説明だった。しかし、腑に落ちない点がある。
「なんだい?」
「えっと、まず、何で昼に奇襲を仕掛けるんですか?夜の方が闇に紛れたりとか、成功しそうだと思うんですが……」
「ああ、それは簡単。一人も逃さないようにする為さ。彼らが活動するのは、主に夜だからね」
「なるほど、ありがとうございます。あと、もう一つの質問ですが……」
「なんだい?」
「何で、俺なんですか?他にも、銀級とか銅級とかのもっと強い冒険者がいると思うんですが……」
「ああ、確かに、それを説明していなかったね。単純な話さ。冒険者ギルド、オスカー支部の支部長……僕たちは、そのままギルド長って呼んでるけどね……まあ、その人が推薦したんだ」
「はい?」
ヤベッツさんは、さらさらと言葉を紡いでいく。
「ま、ギルド長の思惑は僕にもさっぱりわからないけどね。実際は、将来のある冒険者に経験を積んでもらおうってことじゃないかな。期待されているってこと」
「そうですか。多分会ったことも無いんですけど、本当ですか?」
「ああ、多分ね。それで、受けてくれるかい?」
盗賊なんて、村では出なかったからな。でも、ギルドマスターの推薦もあるし、断るのもな……
「……わかりました。その依頼、受けさせてもらいます」
「ありがとう。じゃあ、集合時間と場所を伝えておくよ。口には出さないでね……」
ヤベッツさんは、口では伝えずに紙に書いて見せてきた。……盗聴対策ってこと?
「覚えたかい?」
「はい、大丈夫です」
「『火よ』」
頷くと、ヤベッツさんは紙を燃やした。魔術も使えるのか、この人。
「よし、じゃあ明日はよろしく頼んだよ。後、今日は、出来れば依頼を受けるのは控えてくれると有難い。魔物から守るだけだから、ノモサ君が何かを用意する必要はない」
「…わかりました。じゃあ、失礼します」
去ろうとしたところで、ヤベッツさんが後ろから声をかけてきた。
「大事なことを言い忘れていた。この依頼のことは、決して誰にも伝えないように。よろしく頼むよ、ノモサ君」
「あ、はい、分かりました」
ノモサが去った後。
「イダン、聞いていたな」
「はい、何」
二階のこの一室。実は、金級以上の冒険者しかその存在を知らないが、隣に隠し部屋がある。そこから、一人の冒険者が出てきた。
彼は、イダン。彼も金級冒険者であり、ヤベッツのパーティーメンバーだ。
「きちんと監視は付けたか?」
「問題ない」
「どう思う?」
「今のところは、白」
ヤベッツは思案する。
(あのノモサという青年は、違和感が多い。この町に来て半月も経たない内に鉄級に上がったが、実力はもう少し上だ。魔物と戦うところを遠目に見たが、剣技だけで言えば、銅級でも上の方、あるいは銀級にも届くかもしれない。これまで無名だったのがおかしい。まあ、盗賊の仲間である可能性は低いだろうが……)
盗賊団『ラバーロック』。これまでは被害も少なく、襲われるのも商人、金品が多かった。しかし、ここ最近になって、何故か活発に活動している上、誘拐が多くなっている。公にはなっていないが、子どもや大人も含め、何人か行方不明になっている。
「そもそも、冒険者内に内通者がいるという噂もデマ?」
「それなら、良いんだけどね。冒険者の誰かが盗賊団を手引きしている可能性もある。使わない手は無いだろう?」
「それで、カマをかけたり、嘘の依頼を出したり?」
「本当は、こんな事したくないんだけどね。ノモサ君が、ただの腕の立つ冒険者なら問題は無い。明日、事情を伝えて謝罪するだけだ」
「……」
「これで、ギルド長の指示通り、内通者の候補四人全員と話し終えた。明日までに、内通者が見つかればいいが……」
もし内通者であれば、何らかの手段で情報を伝えようとするだろう。監視を付け、特定する。盗賊だけでなく、その内通者も逃すつもりは無い。
そもそも、実際に奇襲を仕掛けるのは明日の明け方だ。もし伝わったとしても、「昼」という偽の情報で少しでも混乱が起きれば、逃がすリスクも低くなる。
(さて、どうなるか……)
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