教会の真相
そして、案の定呼び出された、しとかは、つかさと一対一の対面を果たした。
「・・・えっと、話があると聞いて来たのですが?」
「ボクと、初めて会ったとき、駅とは反対の方角から来ましたよね。それはどうしてですか?」
「・・・〈白い教会〉を、見ておきたくて」
しとかはつかさを正面から見て、答えた。
「それで?」
「結局、中には入れさせて貰えませんでした。なので、昨日、〈白い教会〉に行きました」
「それで、中に入る事は出来ましたか?」
「それが。また、入れてくれなかったンです。パスコードは教えられないとかで。それで、その・・・」
しとかはそこで、息を整えると言った。
「いけないとは、分かっていました。でも、気になると放って置けないンです、私。だから、その」
「・・・分かりました。お話は、それだけです。外までお送りします」
「あ、あの、何か罰を受けるのでしょうか?」
「・・・どうして、そう思うのですか?」
「・・・あそこには、他の建物と違って、警備員が多く配置されています。それだけ、機密性が高い事は容易に想像が出来ます。それに」
そこまで聞いたつかさは、しとかの口に人差し指を当てた。
「それ以上は、いけません。アナタは、とても聡明で、理解が早い事はとても、ありがたい事です。ですが、その理解の早さ故に、危険をさらしてはいけません。何より、ボクが哀しいです」
「・・・どういう事ですか?どうして、私がこの事を知ってはいけないのですか?今治さん!」
しとかは初めて、つかさの事を今治、と呼んだ。
「・・・ボクから、これ以上の事を教える事は出来ません。すみません」
「・・・それじゃあ、〈白い教会〉は」
何かを悟ったしとかは、俯くと呟いた。
「貴方達は、何をしているか自覚を持っているンですか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・答えて下さい、今治さん!」
「・・・ボク達、いえ、我々は」
「そこまでだ、今治」
二人がその声がした方を見ると、椋田が立っていた。
「・・・椋田」
「・・・椋田さん」
椋田はつかさに目で合図をすると、しとかに令状を差し出した。
「上からの命令だ、津雲しとか。1ヶ月の謹慎処分を下す。今すぐ、荷物を纏めて、仮設住宅に戻れ、との事だ」
「彼女の事情を聞いてからの判断じゃあなかったのか!」
「・・・今治。今は、記録をしていないが、上の連中は、このやり取りを見ていた。それを見た上での判断だ」
そう言いながら、椋田は壁の隅に取り付けられていたカメラを指した。
「あれは、記録用だって」
「上の連中が見たいって、直前に記録室に雪崩れ込んで来たンだ」
「・・・」
つかさは苦々しく唇を噛んだ。
「そういう訳で、津雲さん。良いですか?」
「・・・はい、承諾しました」
それを聞いたつかさは、しとかの両肩を揺すぶった。
「どうして・・・」
「理由はありません。辞令が出たのなら、それに従うまでです。以後、行動には気を付ける、とお伝え下さい」
「・・・椋田、謀ったな?」
しとかが出て行った後の尋問室。
今度は、椋田を席に着かせると、つかさは問いただした。
「・・・やっぱ。バレる?」
「当たり前だ。それで、何がしたい?」
「・・・津雲さん、彼女はどう思う?」
「・・・そうだな。ボク達の事に協力して貰えるなら、とても優秀な人材になりそうだけど、もし、反対をするなら、厄介な相手になりそうだと思う」
「だけれど」
「ああ」
「「欲しい」」
「簡単な話だ。しとかの研究分野は大いに役に立つ」
「あぁ、遺伝子解析学。それがあれば、遺伝子の構造を解明したり、応用したり。この学園都市にはピッタリの人材」
つかさと椋田の意見は一致していた。後は、理想的な〈素体〉と、〈人材〉。
〈人材〉は、メドが立ったが、本人が承諾してくれるかどうかは、別問題。
「・・・あーあ、いっそのこと、全部話してみるか?」
「それも、手だとは思うけれど。もし、反対した場合は?」
「追い出せば良い。簡単な話、サ」
「・・・追い出す、か」
「不満か?」
「・・・追い出すなら、屋敷に囲うのも」
そこまで聞いて、椋田は止めた。
「止めろ、止めろ。そんな事をして、誰が喜ぶンだ?」
「・・・そうだね。でもさ、椋田。君は、ボクの性格を知っているよね?」
「共犯になれって?イヤだね、そうまでして、津雲さんを引き留めたい理由はないし」
「まぁ、良いよ。謹慎は1ヶ月で解ける。それまでに、説得する方法を探しておくよ」
部屋を出ようとしたつかさの背後に向かって、椋田は言った。
「おい、無理はさせないし、するなよ。オレだって、少しは考えているンだからな」
つかさは一瞥すると、部屋を出て行った。
「まぁ、忠告を無視するのも、あいつだからなぁ。・・・っと、ここ、禁煙か」
取り出しかけた煙草を仕舞うと、椋田も部屋を出て行った。
白の王国(マイナーチェンジ) 路傍土 @robo-do
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