第1話 鬼ごっこじゃ済まされない

 新学期の朝は欠伸が多い。家、道路、電車、学校。そこら中に欠伸が溢れてる。本山 かけるの新学期の朝もそうなるはずだった。

 朝は目覚ましではなくサイレンで起こされた。欠伸も掻き消えいきなり慌ただしい。

「何かあったの?」

翔はすかさず聞いた。

弁当を詰めながら母は答えた。 

「どうやら、お向かいの家の屋根に電柱が倒れてたみたいよ。」

「え…?」

「それに電柱の根元に人が死んでんだって。死体は原型をとどめてない位ぐちゃぐちゃで痕跡からバイクで衝突したらしいね。」

マジかよ…欠伸どうのこうの言ってる場合じゃない!

駆はどこかモヤっとした気持ちで学校へ行く。

 こういう新学期っていうのはもっと、心新たに爽やかな感じで行くべきなんじゃないの?

こういうモヤモヤを吹き飛ばすにはしかない!

 「今日のホームルーム、鬼ごっこしない?」駆は学校に来て早速、ホームルーム委員に意見した。

「別にいいけど…急にどうした?」

「どうしたって?」

「いやお前ホームルームに意見した事ないじゃん。どうしたのかなーって。」

「いやいや特に何も無いよ〜まぁ久々の学校で体も動かしてないからさ」

「それお前が帰宅部だからだろ…」

そんなやりとりの間に朝STショートタイムのチャイムが鳴った。

「今日からこの組に転校生が来てる。入っていいよ。」

は、?転校生?

担任がそう告げながら、新しい生徒を招く。 入ってきたのは男子でなんか妙にニコニコしてしながら自己紹介を始めた

「逃山真司です。なんかまぁみんなと仲良くできればなーと思ってます」

黒板にはの文字を見て駆は内心

いやいや逃山って何だよ!どっかのアニメキャラかよ朝の事件といい変な名前の転校生といいなんか色々起こりすぎでしょ!

「あっ逃山の席本山の隣な。色々頼んだぞ」

えっ隣かよ!

翔の隣の席に座った真司はよろしくとだけ告げた瞬間寝た。

いやこっち自己紹介終わってないんだけど!仲良くなりたいとかいってたのに寝るの!

なんなんコイツ〜〜。

心のモヤモヤが増えた駆は鬼ごっこを本気でやろうとより決心した。

 駆は昔から鬼ごっこの鬼が得意だった。というか鬼しかして来なかった。でも本人はそれで満足だった。特段走るのが早いというわけではないのに誰も逃げきれない。昔からそうだったし今回もそうだった。

「駆早すぎだろ〜」

「そういや小学生の頃から強かったよな。」

クラスメイトが口々に言う。

うんうんやっぱこれだよね〜

バッタバッタと相手を捕まえる感覚が駆は好きだったのだ。

「あれ?これもしかして残り俺だけ?」

真司がそう呟いた。 

よりによってあの転校生が残ったのかよ……絶対捕まえる…!

せっかくフラストレーションを解消したのにまた溜まっていく感覚を感じた駆は真司を指差して言った。

「ここからは本気の本気で行くからね。」

そう言った瞬間の駆は速かった。

「あぁ、いいよ。」と言いながら逃げる真司。残り時間はあと20分。駆かどこでもいいから体にタッチしたら駆の勝ち。20分に逃げ切れたら真司の勝ちだ。駆は右手を真司の肩に伸ばすと見せかけて、左手で脇腹を狙うがかわされてしまう。次は左手で太腿を狙う。真司は駆の右手にも視線を移したが、その隙に左手のの動きを速める。これも間一髪で避けられた。フェイントを織り交ぜながらも駆は手足の動きを止まない。真司も間合いに相手を入れないよう警戒しながら逃げ続ける。

息もつかせぬ攻防に周りの人間は息を呑むしかなった。

コイツ、できる!ここまで捕まらなかったやつは初めてだ。だからこそ、諦められない!駆は少しづつ真司を認めていた。

一方真司は内心ダルかった。

一般人にしちゃあやるけど全然面白くねーなーこれいつまで舐めプすりゃいいんだ?ここいらで捕まるか?だか遊びとはいえ捕まるのは俺のプライドが…でもやっぱ退屈だ〜どうすりゃいいんだ〜そんな事を考えながらも逃げ続ける。

残り時間5分。駆の体力も限界だった。でも頭の中は真司を捕まえることしかなかった。汗が体育館の至る所に滴っていた。真司が左脇にくる左手を右にかわそうとした瞬間、汗で靴が滑って、前に倒れそうになった。すると左手が背中に迫ってきたので咄嗟に身体を回転させて避ける。床に仰向けなった真司は転がりながら逃げるが駆は真司の体を飛び越えて待ち伏せてタッチしようとする。真司はエビのような体制でジャンプし距離を取る。駆はタッチし損ねて床に手を叩きつけたまま倒れ込んでしまった。

危ねぇ…俺が床の汗に気づかなかったなんて…それだけアイツのことを考えてたってことか?もしかしてアイツ…強い?

残り時間4分。駆は倒れたまま動かない。担任が「時間もないしこれで終了な」と言ったがそれを遮る声があった。駆だった。

「まだやらせて…ください…。まだ時間…あるから。」激しい息切れの中、駆は言う。

まだやるのかよコイツ!?明らかに一般人の根気じゃねぇ…。どうしてそこまで追いかけられるんだよ…。

「どうしてそこまで鬼であり続けられるんだよ!!」

思わず心の声が出たと思った瞬間間合いに駆がいた。

「君が逃げるからダァ!」

駆の気合いに押されて身体が動かなかった。

ダメだ、避けられない…!

駆の右手か真司の胸に触れようとした瞬間

「逃山真司ぃ!今日という今日は逃さんぞぉ!」

突如戦闘機が体育館の壁を突き破って何者かが真司を連れ去り一瞬で空へ飛び立っていった。

「と、逃山くーん!!」

駆の叫び声は真司には届かなかった。

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