「復讐者」

@Ichiroe

第1話「偽りの名」

 ①《おにのどうくつ》


 神聖教国・クライモント。この国のどこにでもある貧民街の路頭で、痩せたかりの死体を三匹の飢餓の野犬が骨すら残すことなく噛み砕き、分食している。本来なら、かの身にはせめて、衣服ならずとも被る“布”があった。それを通りすがりの何者かが猶予も与えず、動けない彼の目の前から、最後の尊厳をするっと取り上げた。


 くすくすと、そこの死骸をざらついた声で嘲笑しながら、ふたり組のうち。小柄の少年の生気のなさと言えば、まるで絵本に描かれた鬼のようであった……


 人目がつかない路地裏で、服がボロボロのアルランは背を壁にもたせかけたまま倒れ込んだ。そんな彼を見下ろすひとりの女がいた。


「ダメじゃない、アルラン・ウイークくん」


 いかにも高価そうな服を身につけたその女は、言い放つ度、少年の頭をひと蹴りする。


 ——このテリー領で!


 ——あなたのかわいいわいい妹に!


 ——治療費をお貸ししたのは!


 ——バードン様だけだったのよ?!


 ——それで借金を返さず!


 ——こっそり抜け出すなんて!


 ——あなた人間失格ね!


 壁に、アルランの血が飛び散る。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「復讐者」 @Ichiroe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ