エピローグ-2 神様だって……

神様とアーリィはマラソンの折り返し地点に

あたる東の関所にやってきた。


神様たちがやってくるなり

警備をする狼系の男子が水を差し出してくれる。


「今日もお疲れ様です」


「ありがとだも~。

 ここでお水をもらうのは定番になってきたも~ね」


「いつもありがとうございます。

 神様も体力がついてきたので、

 毎回いただけなくても大丈夫ですよ」


差し出された水を受け取りながら、

神様とアーリィは警備員にお礼を伝えた。

だが警備員は恥ずかしそうに鼻をかく。


「そういうわけにはいきません。

 先日の失敗もありますし……」


「さっきオス牛のニューにも言ったけど、

 元はわたしが悪いから気にしなくていいも~よ」


「まあ、結果として大事になりませんでしたので、

 神様の言う通り気にせずいつもどおりにしてほしいです。

 あまり意識しすぎると騒動が広まってしまいます」


神様とアーリィは穏やかな声で警備員に伝えた。

だが警備員は姿勢を正して、ワンワンとした声で言う。


「もちろん罪悪感もありますが、

 あの後、真面目にやってる自分を

 好きになってくれるひとがいいなって思ったんです。

 魅了魔法を受けたとき

『いいじゃん、不真面目でも』なんて言われて、

 引っかかってしまったので」


「なるほどだも~。やっぱり真面目が一番も~ね。

 でも時間外は息抜きするも~よ」


神様は偉そうに言いながら水を飲んだ。

ちらりとアーリィを見ると、

コップに口をつけたアーリィと目が合う。


「……なんですか?」

 アーリィは水をしっかり喉に通してから神様に聞いた。


真面目な男の子はかっこいい。

神様はアーリィを見てこの事実をよく知っていた。

それを改めて確認するために、

アーリィを見つめる。


「なんでもないも~」


いたずらな笑みで神様は笑って見せた。

アーリィは眉をひそめ、

難しい書類を見るような顔で神様を見る。



「量を多くしてほしいも~」


夕飯のとき、神様は食堂のおばちゃんにそう言った。

おばちゃんは特に気にせずに聞き返す。


「おや、いっぱい運動したんですかい?」


「そうなんだも~」

「そうでしょうか?」


神様の返事とアーリィの返事が被った。

それを聞いて、おばちゃんは

どうすればいいか分からず固まってしまう。


「今の神様の体力であれば、日課としてこなせる運動量でしたけど?」


「でもでも、いつもより話したり、

 ニューに大声をあげたりしたも~。

 これって体力を使ったことにならないかも~?」


「まあ、そうと言えなくもないですが」


「そういうことだも~。

 毎日コツコツやってるし、

 むしろ増えた体力分は食べたほうがいいも~。

 おばちゃん頼むも~」


「はいよ」

次の日。


「おばちゃん、朝食も増やしてほしいも~。

 昨日の夜からお腹空いちゃってて……。

 アーリィ、わたしのこと疑ってるも~。

 お夜食なんて食べてないも~よ」


「いえ、夜食なんて食べてたら、

 朝食を増やすなんて言わないでしょう。

 まあ、今日から仕事で街を歩き回ることが多くなるでしょう。

 体力はつけておいたほうがいいか」


「そういうことだも~」


神様は多めに注がれたスープを見て

ウキウキの笑顔を見せた。


アーリィはそれでも言いたいことがあるのに、

いい言葉が思いつかない顔をしている。


今日の仕事は、新しく建てられるフィットネスジムとサウナと、

健康料理レストランの視察や、商談の同行だった。

フィットネスジムの視察では、実際に使われる道具の体験もする。


さらにニューが出場する牛レースの応援、

別の街からやってきた商人との打ち合わせ、

牧場施設の増築相談などなど、

街の発展の兆しとともに仕事も増えていった。


一通りの仕事を終えて、

机仕事のために神様たちは神殿に戻ってきた。

神様は謁見の間の椅子に座り込んでぐてーっとする。


「あのダンベルっていうの重すぎだったもぉ……」


「まあ、神様が鍛えてたのは足でしたし、

 重いものを持つっていうのは難しいでしょう」


「そのせいで疲れたもぉ……。

 今日の運動『も』やめにしたいも~」


「……せめて、準備運動はしません?」

「腕が上がらないも~」


言いながら神様は腕を重そうに動かした。

腕はピクピクしている。

神様自身、思った以上に疲れているのが分かって、腕を下ろす。


「とりあえず、机仕事の前にマッサージしますか」

「よろしく頼むも~」


これを待っていたと、神様は嬉しそうに言った。

アーリィは仕方なく神様の腕を持ち、

二の腕からもみほぐし始める。


するとアーリィは、

書類の不備を見つけたときのようにしかめた顔になってきた。

マッサージの手も止まってしまい、

神様はアーリィの顔を見る。


「どうしたも~?」

「……神様、太りました?」

「もぉ!?」


神様は黒板を爪で引っ掻いたような鳴き声を上げた。

ガタガタっと動き重い椅子がずれる。


言われた。

これは明確に『太った』と言われてしまった。


アーリィの顔を見つめながら、

神様はその理由を思い出す。


思い出すまでもなかった。

その上、今の今まで忘れていた怖い言葉を思い出し、

神様はがっくしと肩を落とす。


「り、リバウンドだもぉ……」


「リバウンドは一度痩せてから太ることを言うので、

 この場合はただ『太った』と言ったほうがいいです」


「その方が残酷に聞こえるもぉ……。

 うう、せっかく太りにくい方法まで教わったのに、

 それも実践できてなかった気がするも~」


心の隅に『またアーリィに嫌われてしまうかもしれない不安』が浮き出て、

神様の涙腺を揺さぶった。

不安を消すために、神様は上目遣いでアーリィを見つめる。


「ちゃんと運動しましょう。

 俺も付き合いますから」


アーリィは仕方ないと肩を落としつつ、

少し口元を緩ませて言った。

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神様だって太るんだ 雨竜三斗 @ryu3to

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