空気を吸って吐く、ただそれだけ

花恋亡

命なんて機械

 命なんて空気を吸って吐くだけの機械だよ。

それ以上でもそれ以下でも無くてさ。

明滅するデジタルサイネージの様に。

近付けば開いてそして閉じるドアの様に。

そう作られてるだけなのさ。

ああ、確かに「息」とも言うね。

電機式集塵吸引機の事を簡単に掃除機って言うみたいなものと同じさ。


 空気を吸って吐けなくなる事も勿論有るよ。

完全に吸って吐けなくなればそれは使用期限が過ぎたって事だね。

活動限界とか耐用年数なんて言ったりもするね。

その機械の寿命が来たって事さ。

愛着の有る機械であればある程悲しいものだね。


ただ、寿命では無いのに上手く吸って吐けなくなる事も有るんだよね。

それはエラーだよ。

ただのエラーが起きただけだから、専門の機械に診て貰えば大概は解決するよ。

気に病んだり心配する必要は無いさ。

修復プログラムによっては時間が掛かったりもするけどね。


 個体差かい?

味覚、聴覚、嗅覚、視覚、触覚にしろ腕や足、脳でさえもより良く空気を吸って吐く為の付随機能だよ。

環境や状況に適応した形になるのさ。

陸上で使用する事を前提に作られた機械は水中では機能しないだろう?

寒さに強い設計は暑さが駄目だったり、逆も然り。

付随機能にばかり気を取られがちだけどね、本来の目的の空気を吸って吐く事さえ出来れば良いのさ。

機能を充実させるのが美徳だという風潮が有るけど、元来の目的さえこなせれば僕は十分と思うよ。


 苦しくなる事もある?

そうだね、そんな時も有るね。

それはオーバヒートだよ。

どんな機械も熱処理が追い付かないと起こってしまうんだ。

そんな時程無理に動かしてはいけないよ。

ただただ何もせずゆっくり休ませてあげないと。

車だったら冷えるまでエンジンは掛からないし、パソコンだったら起動する素振りすら無いだろう?

それと同じさ。

だからその時は何もしなくて良いんだよ。

上手く空気を吸って吐けるまで休ませてあげないと。


 誰がそれらの機械を作ったかって?

それは、空気を吸って吐く事がしんどくなった誰かさ。

だって全ての機械はそうだろう?

より楽になるために、より便利になるために作られてきた。

空気を吸って吐く事が億劫になった誰かがそれを押し付ける為に作ったのさ。

そうだね、神や高次存在なんて名前かもしれ無いね。

全ての命は空気を吸って吐く事を押し付ける為に作られた機械なんだよ。

試しに思いっ切り空気を吸ってごらん?

堪らなく吐き出したくなるだろう?

次は思いっ切り吐き出してごらん?

堪らなく空気を吸いたくなるだろう?

それはそうさ、そう作られてるから当然さ。


 何が言いたいかって?

そうだね、つまり、明日も変わらず空気を吸って吐いてくれよって事さ。

それだけで十分だからね。

それ以上なんて求めて無いんだよ。


 貴方は誰かって?

そうだね、君に空気を吸って吐く事を押し付けた側の存在さ。

だから君が上手く空気を吸って吐けるか気になるし、空気を吸って吐いてもらわなければ僕が困るんだよ。

難しく考えないで欲しいんだ。

僕にとって君は空気を吸って吐いてくれるだけで十二分に価値が有るんだよ。


だからさ、空気を吸って吐ければ御の字だって知って欲しくてさ。

明日も明後日もその先も。

それが出来るだけで十分さ。

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