第60話「妹とセイなる夜」

「なんか遅くなっちゃったけど、エルマンノは大丈夫なの?」

「大丈夫じゃ、、無いかもしれない」


 その後、ガーデンからの帰路についた一同の中、フレデリカの呟きにエルマンノは冷や汗を流した。遅くに帰って怒られるのが兄の方なのは何だかあれだが、妹の代わりに怒られると思えば耐えられる。これが、長男だから我慢できたけど、次男だったら我慢できなかったってやつか。


「それよかさ、オリーブちゃんとソフィはどしたん?」


 と、そんな中、ネラはふと口を開いた。


「オリーブは魔力がないからな、、それに、あまり遅い時間に外出させるのは良くないし、それと、」

「どしたん、?」

「...まあ、危ないからな、」


 エルマンノは目を逸らす。オリーブの母親の話を読んだ時に知った、オリーブの神の力が広まっている事実。やはり、安易に夜、オリーブを村の外に出すのは危険だろう、と。エルマンノは考え口を噤んだ。


「あ〜ね〜、、ま、それはそうかもね〜」

「それと、ソフィは外に出る事自体厳しいだろ?だから、ソナーも送ってない。きっと、この話を聞いたら捜しに来るだろうからな」

「そか、、ソフィだもんね。それもそうだわ」


 エルマンノの答えに、納得した様子でネラは頷くと共に、僅かに表情を曇らせた。すると、改めてエルマンノは放つ。


「それにしても、ヒルデ」

「はっ、はいっ!?俺ですか!?」

「ああ。どうしてあの時、ミラナの家が分かったんだ?」

「あっ、ほんまや!確かにそやなぁ、あんちゃんについて来たわけちゃうのに」

「なっ!?も、もしやっ、もうお家デートをする仲なのかっ!おうふっ!?」


 血の涙を流すエルマンノに、チェスタは強く足を踏みつけた。


「黙ってくださいっ!つっ、通報しますよ!?」

「わ、悪かった、、あ、あまり大きな声で言う事じゃ無かったな、」

「はぁ、別に、家に呼んだ事は無いです。でも、姉ちゃんが忙しい時、ヒルデと一緒に帰った事が、一度、あったので」

「っ!?も、もう、手を繋いで下校だと!?おうふっ!?」

「だから黙っててくださいっ!つつつっ、繋いで無いですっ!」


 チェスタは声を上げ、怒りを見せてはいたものの、耳が真っ赤であった。

 その満更でもない様子に、エルマンノは兄として死にそうになりながらもそうか、と微笑む。


「すみません。子供一人で帰るのは禁止されているので、俺と俺の親と三人で帰った事があったんですよ」

「お、親公認だとっ!?」

「エルマンノ、流石に兄馬鹿過ぎるよ、」


 エルマンノが歯嚙みする中、アリアが呆れた様子で放つと、対するチェスタはヒルデに、恥ずかしさから耳を赤くし小さく口にした。


「ご、ごめんね、ほんと、」

「ううん、大丈夫だよ。それよりほんと、素敵なお兄さんだよね」

「ど、どこが、?」


 ヒルデが優しく微笑むと、それに頰を赤らめながらも、困惑するチェスタだった。

 その様子に、エルマンノは涙を浮かべる。ああ、人肌恋しい季節だな。きっと、この二人は、セイなる夜を過ごすに違いない。悲しみの表情を浮かべながら、ふと。「それ」が二日後である事を思い出し、エルマンノはハッとすると、少し表情を曇らせたのち、目つきを変えてよし、と。覚悟を決めた。


          ☆


「だーれだっ」

「おお、こ、これはっ!」


 チェスタとミラナが本音を語り合った日から二日が経った朝。エルマンノは珍しく朝早くから王国の公園前に来ていた。と、いうのも。


「い、妹の手っ、この温度っ!目の周りが妹空気で溢れているっ!そしてこの吐息っ、息遣いっ!肌触りと背中に当たる胸の感触っ!あと二分間、こうしててくれ」

「キ、キッモ、、ごめん、耐えきれなかったわ」

「えぇ、もう少ししててくれてもいいだろ」


 そう。本日はクリスマス。ネラと出かける約束をしていた当日である。エルマンノは未だ前を向いたままネラに期待する。


「えぇ、もっかいする?」

「ああ。まだ誰だか分かってない」

「ま、まあ、、いいけど、」


 エルマンノの反応に、ネラは口を尖らせながらも、顔を赤らめ頷く。すると、改めて。


「だーれだっ」

「おおっ」

「隙ありっ!」

「がっ!」


 ネラはそう口にした瞬間、エルマンノの膝を膝で折り曲げた。それによって崩れ落ちたエルマンノ。だが、それ故に。


「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!いでぇぇぇぇっ!」

「えっ、あ、ごめん!」


 なんとネラのクソ長ネイルが頭に突き刺さった。


「ご、ごめん」

「いや、いいんだ。妹の引っ掻き傷は痛くない」

「それ猫とかに言うやつじゃないん?」

「その感覚と同じだな。目に入れても痛くないってやつだ。今回は頭だったが」

「目に入れよか?」

「さらっと失明を促さないでくれ」

「失言失礼〜」

「それより、、おおっ」

「え?どしたん?」

「髪、伸ばして来たんだな」

「伸ばしたんじゃなくて結んでないだけ、、ど、どう、?」

「凄く良いよ。食べたいくらいだ」

「え、?な、何を?髪を?」

「ああ。麺みたいにな」


 振り向いたのち、エルマンノは謎の発言をしながらも、珍しくストレートヘアなネラに複雑な表情をしたのち、嬉しそうに微笑む。その反応に、ネラもまた気づくと共に顔を赤らめていると。エルマンノは改める。


「それより、大丈夫だったか?遅かったから、心配してたぞ」

「あ、あーねっ、いや、逆に兄ちゃんが早いんじゃん!兄ちゃん遅いイメージあったけど」

「お兄ちゃんは早いです。満足させられるかどうかは不安だが」

「なんそれ、そっちの話してるわけじゃないんけど、」

「言っておくが俺が早いんじゃないぞ」


 エルマンノはそう放つと、公園の時計に目をやる。集合時間は九時半。だった筈だが、おかしい。その時計は十時半を指していた。


「あっ、あははっ、おっかしいなぁ、ご、ごめんね?」

「...」

「え、、っと、なんつーか、」

「つーか?」

「なんてーか、」

「てーか?」

「う、す、すみません、」

「俺は大丈夫か聞いただけだぞ?」

「えーっと、、服に迷ってた、、的な、?」

「それは前日にやって興奮するやつだ」

「っ、こ、興奮すんの、?」

「女の子の一番可愛いところだ」

「でも前日は妄想大会っしょ、?」

「おお、もっと興奮するやつだ。許そう」

「ありがとう!兄ちゃんチョロ!」

「分からせる必要があるな」

「ごめんって、、それは事実だから許して、」


 ネラは冷や汗混じりに手を合わす。今まで遅刻する側だったのだが、待つ側はソワソワするものだな。ラディアとチェスタには後で謝らなくては。


「て〜か帰ってっと思った、」

「何でだ?」

「遅れた、から、」

「ソナー送れば良かっただろ?」

「それ以上に、、急いでて、」

「社会に出たら、連絡が先だぞ?」

「は、、はーい、、すみませんでした、」

「でも俺は社会に出てないからな。気にするな。妹との待ち合わせなら何時間でも待つよ」

「っ」


ーなななっ、なんその感じ!?やっぱマジ好きっ!やっば、、今日一日二人きりとか超緊張する〜っ!ー


 ネラはエルマンノから顔を背けて真っ赤にした顔を押さえると、そののち。改めてエルマンノを見据え、浅い息を吐く。


ーでも、兄ちゃんは妹として見てるんだもんね、、ちょっと寂しいけど、、でもマジ優しいっ、好き!ー


 そんな感情を心中で爆発させたのち。改めて涼しい顔を作り放つ。


「な、なんか変な詐欺に引っかからんといてね?」

「妹詐欺か、、それもまた、」

「引っかからんといてね!?」


 エルマンノは悶々と考えながらニヤリと微笑む。すると、対するネラは元気に前に出て振り返る。


「で!今日は何しよっか!」

「イルミネーション見るんじゃ無かったのか?王国の東側だったか」

「え、、お、覚えててくれたの、?」


ーえぇっ!?そ、そマ!?ー


「いや覚えてなかったら来てないだろ今日、」

「いやいやっ、そーじゃなくてさっ、その、めっちゃ細かく覚えてるな〜って、」

「妹の発言は忘れない。それが兄だ」

「そ、そうなんだ、」


 ネラは、どこか寂しそうにそう口にしたのち、改めて放つ。


「イルミネーションは夜だからさっ、それまでなんかしようよ!」

「なるほど。そうか、、そうだな。何かしたい事あるか?」

「兄ちゃんが無ければ、買い物したいんだけど」

「じゃあまずは買い物だな。折角だし、大通りにでも出てーー」


 ネラが提案したそれに、エルマンノがそう付け足す。と、それに目を見開き、どこか辛そうな表情をするネラに、エルマンノは目を細める。と、彼はミラナとのクエスト後に話していたネラとソフィとの会話を思い返し、改めた。


「いや、なんか掘り出し物があるかもしれないし、裏路地の店にでも行ってみるか」

「おっ、いいじゃんいいじゃん!でも裏路地怖そうくね?」

「安心しろ。お兄ちゃんが守る」

「っ、、じ、じゃっあ、ま、守られよっかな!」

「おうふっ!?」


 ネラはそう笑うと、突如エルマンノの腕を組んできた。これは、刺激が強い。


「ネ、ネラ、?随分と積極的だな」

「今日はクリスマスデートっしょ?こんぐらいしてもいいっしょ!」

「まあ、そうだな。ふふ、やはりクリスマスは家族と過ごすのがベスト。妹とデートが理想だ。今度は是非とも妹オールスターで来たいところだ」

「...」


 エルマンノは目を見開いたのち、そう取り繕って微笑みながら放つと、それにネラは表情を曇らせた。


「それで、何を買いたいんだ?」


 数分後。二人は路地裏の店が集まる通りまで到達し、エルマンノはそう口にする。それに対し、ネラは周りを見渡し悩んだのち、口を開く。


「兄ちゃんはどれがいい?」

「買い物を提案したのはネラじゃないか、?」

「まあ、、そうだけど、、買い物したいってだけで、買うものは、無いかも、」

「無いのかよ、」


 ネラの言葉にエルマンノは息を吐くと、ふと目に入った店を指差す。


「なら、あそこのお店にするか」

「え?どこどこ?っ、あれって、、洋服屋、?」


 エルマンノが足を踏み出した先は衣服店。それも、何だか露出が多く、セクシーな感じだ。獣族の村に負けていない。また向こうとは違ったベクトルのセクシー衣装だ。


「兄ちゃん下心丸見えなんだけど〜」

「そう言いながらノリノリで探してるが?」


 二人で入店すると、エルマンノより先に服に寄ってまじまじと見つめるネラ。


「ちょっとこういうの、実は興味あったりして、」

「おお。ギャルはコスプレが気になるもんなのか?」

「なんそれ。別に人によるっしょ」


 どこぞの大きい妹が居る作品を思い浮かべながらエルマンノは放つ。すると。


「あっ、これとかどうよ!」


 ネラは、セクシーなゴブリン衣装を持って来た。


「これ誰得だよ、」

「えぇ〜これ駄目なん?」

「俺はこんな着色料たっぷりの肌を見て喜びはしないぞ」

「それ今の時代言わん方が良くね?」

「クッ、嵌められた、、ゴブリンも多様性だよな、」

「うわっ、これめっちゃエロいじゃんどうこれっ!」


 エルマンノが遠い目をしていると、対するネラは新たな衣装を差し出した。


「ん、?控えめなサキュバスコス、、サキュバスに控えめなんてあるのか、?」

「分かんないけど、布少なくて、、兄ちゃんに、、気に入って、もらえるかな、って、」

「俺がただ布が少ない服が好きだと思ったら大間違いだぞ」

「えぇっ!?そうなん!?」

「俺を何だと思ってるんだ、」

「シスコン馬鹿だと思ってるけど」

「分かってるじゃないか」


 エルマンノがニヤニヤと答えると、ネラはじゃあ待っててと告げ試着室に入る。この一枚の布の向こう側に妹が着替えていると考えるととても心が躍る。と同時に、ここを守らなくてはと。兄として真剣にその前に立つエルマンノ。が、しかし。


「にしても、、気まずいな、」


 なんとここは女性用衣装店であった。きっと白い目で見られるに違いない。そう思ったのだが、案外皆普通にしている。優しい店なのだろうか。エルマンノがそう考えていると。


「どのような服をお探しですか?」


 突如店員に話しかけられた。


「あ、いえ、俺は付き添いです」

「あ、そうだったのですね。失礼いたしました。最近は男性も、この様な衣装を買う方が多いんですよ」


ーなるほど、女装コスをする人だと思われたのかー


 エルマンノは納得した様子で周りを見渡すと、その店員は続ける。


「何か試しに着てみたいものはございますか?色々ございますよ?お姉さん系や精霊系、妹系やーー」

「なっ!?妹系だと!?」

「は、はい!ございますよ?」

「な、お、俺が、、妹、?ま、まさか、、そんな方法が、、いや、待て、それは、違うだろ、、俺は妹が好きであって、、いや、好きなものになりたいと思うのは自然の摂理、、それもまた、だが、、そうなった時、俺には兄が必要となるのか、?そんな趣味はない、、だが、俺が妹となり、妹が姉となるならば、それはっ」


 エルマンノは頭を抱える。だが、それを許してしまったら。そう考えていると同時に、ネラの着替えが終わったらしく、カーテンが開かれる。


「じゃっ、じゃっじゃ〜んっ、どうどう?めっちゃエロくねっ!?って、、ど、どしたん、?兄ちゃん、」

「お、お兄ちゃんはおしまいだ、」

「えっ、何なにっ、どしたん、?」

「とってもお似合いですよお客様!」

「えっ、あっ、でしょでしょ!ねっ、兄ちゃん、、えと、どう?」

「おお、、やはり、いいな」

「兄ちゃん目がエロいんだけど、」

「ああ、そうだな。だが、あまり淫らな服装をみだりに着てはいけないぞ。身なりに気を遣わなければな」

「えーそうかなぁ。こういう身なりを見習って欲しいとこだけど」


 そこには、控えめと言うだけあり布が多めなサキュバス衣装を来たネラが居た。布が多め。とは言いつつも、胸元が大きく開いている。


「それより、胸の上辺りにほくろがあるんだな」

「えっ、ちょ、そそっ、そんなん見んでよ、」

「押してもいいか?」

「なんそれ〜。押してもなんも出ないよ〜?」

「出してくれていいぞ」

「なっ、何を!?」

「声とか」


 エルマンノとネラが話す中、ふと店員の方へと視線を向ける。うーん、何だか気まずくなってきたな。


「い、いかがなさいますか?」

「どうする?」

「に、兄ちゃんが、いいって言うなら、」

「正直、妹にギャルにサキュバス、、なんか渋滞してるな、、ギャルのコスプレとかしてみたらどうだ?」

「コスプレじゃないんだけど!」

「これ、肌に着てるのか?そしたら買わないと駄目じゃないか?」

「ああ、ウチの下着の色肌色だからさ。今その上に着てるんだよね。まあ、人によっては嫌かもしれんけど、へーきへーき」

「こちら試着用ですので、購入の際は新品を用意致します。試着用もきちんと洗いますので問題ないですよ」

「すみませ〜んっ、ありがとうございます!」

「なっ!?それより、そ、それが、下着、だと、?本気で言ってるのか、?」

「そ〜だよ〜?ふふ、残念だったね〜ど〜て〜くん」

「クッ、これはこれでっ、!」


 エルマンノがネラのメスガキっぷりに拳を胸の前で握る。その拳は怒りなのかガッツポーズなのかは不明である。すると、エルマンノは改めて放つ。


「まあそれなら、ネラが欲しいものを買った方がいい。もう少し、見てみるか?」

「う、、に、兄ちゃんが好きなやつにしたいのに、」

「おお、おおぉっ!」

「うぇっ!?ど、どした、?」

「いや、最高の台詞だと、」

「き、聞こえてたんかい、」


ーわっ、忘れてたぁ、、兄ちゃん五感アップ使ってんだったぁ、ー


 ネラは顔を赤らめる。それに微笑む店員に、エルマンノは改めて告げる。


「ちなみにここは免税出来ますか?」

「はい。対象店ですけど、」

「ゴリゴリここの国民が何言ってんの?」

「いや、ワンチャンいけないかなと」

「それは免税じゃなくて脱税だから」

「クッ、払わなきゃ駄目か、」

「さらっと犯罪に手を染めようとしないで?」

「手にタトゥーでも入れたい年頃なんだ」

「うわっ、それめっちゃ痛くね?」

「そうなのか?」

「手の平と足の裏めっちゃ痛いらしいよ」

「流石だな。ネラはどこに入れてるんだ?」

「入れてないから!兄ちゃんも入れんでね!洗っても消えんくなるから!」

「だから洗っても罪は消えないのか、、そうだよな、それ以前に、タトゥー入れたら妹とお風呂に入れなくなるよな、」

「銭湯で一緒に入ろうとしてんの、?」

「混浴だ」

「えぇ、に、兄ちゃん以外には、見せたくないんだけど、」

「お、おおぉぉぉぉぉっ!」

「お、お客様、、い、いかがなさいますか、?」

「買います」

「えぇ!?買うん!?」

「妹系の衣装を」

「え」


 エルマンノは何故か真剣にそう放つと、店員は笑顔でそれを持ってレジまで案内した。


         ☆


「妹系の衣装てどうするん?」

「これで全世界の人間が、、いや、生き物が、妹となれる」

「そんなマジックアイテムみたいに言わんで?」


 エルマンノがニヤニヤとしながら放つ中、ネラは息を吐く。と。


「で、この後はどうする?」

「うーん、、あ!あそこの人形屋さん行かん!?」

「そういえば、ぬいぐるみ好きだったよな。ああ、行こう。マロンの服もあったら今度こそ買いたいからな」

「マ、マロン言わんでよ、、は、恥ずい、」

「マロンは恥ずいのか。じゃあボロンで」

「なっ、もっと恥ずくしないで!てか無いから!あの子女の子!女の子だからねっ!?」

「生えてないのか」


 エルマンノが淡々と放ちながら店へと歩き、到着すると同時、それを目にする。


「っ!?ぎ、銀貨二枚、、や、やはり強敵だなマロンの服はっ」


 やはりぬいぐるみの服は細部まで作られているものは高く、安いものは安い肉の様にペラペラだった。


「これは、キツイな、」

「目逸らさんでよ」


 エルマンノは値段を見据えた目を、そのまま横に移動させ、隣の店を見据える。


「おーなんかスタッフ募集してるみたいだぞ」

「え?何の話、?」

「隣の店だ。えーっと、魔法陣の店、か」

「あー、なんか、最近魔法陣とかに詳しい人少ないらしいね」

「そうなのか?ネラは、どうだ?」

「ウチはね〜、、まあ、知ってても転移魔法陣止まりかなぁ。てか、目だけじゃ無くて話も逸らさないでよ」

「私を見てよお兄ちゃんってやつだな?」

「そっ、そうだよっ!ウチを見てよ兄ちゃん!」

「ごあはっ!?」


 エルマンノは破壊力抜群なネラの上目遣いに殺されながら、ぬいぐるみの服に視線を戻す。そんな中、ネラは顔を赤らめ目を逸らす。


「や、やはり、買ってあげたい、、妹のため、リベンジをしたいところだ、、少し奮発して買うか、」


 エルマンノが顎に手をやり悩む中、ふと。ネラは目を逸らした先で「それ」を見つける。


「えっ、うっわ!ねぇ!見て見て兄ちゃん!」

「おっ、おお!」

「え、どしたん、まだ見てないっしょ?」

「いや、見て見て兄ちゃんって、もう一回言ってもらってもいいか?」

「それよか見てよこれ!ブレイクダンスするトドのぬいぐるみ!めっちゃ可愛くない!?」

「可愛いのベクトルおかしくないか、?」

「え、そう?可愛いっしょ」


 ネラはそう笑ってそのぬいぐるみを手に取り、エルマンノに近づける。


「どうどう?可愛く見えてきたっしょ〜?」

「キリンが逆立ちしたやつなら知ってるが、珍しいなこれ。しかもぬいぐるみ、」

「うわっ!あっちもクソ可愛い!見てこれベンチプレスしてる魚のぬいぐるみっ、めちゃかわなんだけどエモッ!」

「キモの間違いじゃないか?」

「キモかわ!マジでこれデスクに置いたらチルいくね!?」

「ヒレの横から腕が生えてんぞ」

「腕くらい生えるっしょ」

「闇が深い世界だなそれは」


 テンアゲするネラの隣でジト目を向けるエルマンノ。すると。


「あ、こっちも見て兄ちゃん!ゲロ可愛い!」

「可愛いに絶対くっつけちゃいけない単語を付けてるが大丈夫か、?」


 ネラのパワーワードにツッコミながら、はしゃぐネラの元へと向かう。と。


「これこれ!」


 そこにはなんと。青色のオークみたいなやつと、ピンクのオークみたいなやつがブリッジしてる人形があった。


「どういう反応をするのが正解だ、?」

「兄ちゃん漏れ出てる」

「悪かった、漏れが最近酷くてな」

「夜大変っしょ」

「ああ。ネラも夜はビショビショか?」

「っ、ど、どうだろ、」

「もっと、漏らしてくれていいんだぞ。聖水も、愛する液体も、弱音も愚痴も」

「っ、、に、兄ちゃん、」


 エルマンノの小さく放ったそれに、ネラが目を見開くと、彼は恥ずかしいのか、直ぐに改める。


「...にしてもこのオーク、二つとも大きさ違うんだな」

「あ、えっ、ああ!そうそうこれ!青のオークガタイ良くて大きくて、ピンクの方小さくて華奢なんだよ!?これが意味してる事っ、分かる!?」

「それがどうし、、っ!なるほどっ、まさかっ!」


 エルマンノが目を剥くと、ネラは先程のトドのぬいぐるみを持ってぬいぐるみと共に頷く。


「これはっ、妹だというのかっ!?」


 何だ。不思議だ。何だか突然可愛く見えて来たぞ。これこそ魔法だ。エルマンノは気づいた時には既に。


「なっ!?」

「ん?どしたん?」

「何故俺はこのオークを持って歩いてるんだ、?」

「さっき買ったっしょ?」

「心の中で思ったなら、その時スデに行動は終わっているってやつか、、クソッ、」


 エルマンノはその二体のオークを抱きしめる。またもや、服を買ってあげられなかったと。エルマンノは思う中。


「...兄ちゃん、、ありがとね」

「え、」

「兄ちゃん、きっとマロンの服買おうと思ってくれてたんしょ?ウチでも分かるよ」

「ネラは馬鹿じゃないと思うが、」

「それは置いといてさ、、無理に買ってもらおうって、良くないかなって」

「別に、俺が買いたくて買ってるんだぞ?」

「それでも、兄ちゃんには兄ちゃんの欲しいもんあるっしょ?いっつも妹に色々買ってたら、駄目だよ」

「...」


 ネラの言葉に、エルマンノは押し黙る。妹に心配されてしまう。体を張る事に関してもそうだが、心配させてしまう時点で、兄失格だろう。エルマンノはそう歯嚙みすると。その瞬間、対するネラはニッと笑って告げた。


「でさ、ウチぬいぐるみになって分かったんよねっ!ぬいぐるみも、おしゃれしたいし、出来るんだって。ぬいぐるみに感情とかあるんかは分からないけどさ。でも、人みたいに色々は出来ないけど、出来る楽しみは、させてあげたいなって。思ってんだよね。ま、これはウチの自己満ってやつだからさ。だからこそ、ウチのお金で買わせてよ。そして、ウチがマロンにプレゼントするんだっ!」

「っ!...そうか、、そうだな。ああ、それがいい」


 ネラの言葉に、エルマンノは優しく微笑むと、改めて彼女は前に出て放った。


「それよか腹減ったくね?」

「あー、そろそろお昼時だな」

「じゃっ!このままご飯にしよっ!腹減ってたらアガんないっしょ!」

「じゃあ、どうする?何が食べたくない?」

「え?あははっ!なんそれっ、普通何食べたいって聞くくね?」

「何食べたいだと出てこない事あるだろ。何でもいいとかな。だから、逆に食べたくないもの言い合って絞るんだよ」

「なるほどっ、頭いいね」

「だろ?」

「なら、ウチ魚食いたい!」

「話聞いてました?」

「さっきの魚みたら食べたくなったんよねぇ」

「あのベンチプレスのか、?」


 エルマンノはあれを見てどう食欲が湧くのか疑問に思いながらも、ならそうするかと。微笑んで共に歩き出した。


          ☆


 それからというもの、イチャイチャクリスマスデートをゆったりと過ごした。食事では大胆なネラによって"あーん"を受けた。なんと。今回はツッコミが居ないため永遠と妹とのイチャイチャ食事を続ける事が出来た。まあ、妹フォークを食す事は相変わらず出来なかったが。

 その後はクリスマスという事なので、この世界でクリスマスといえばと言われる名物。大きな鐘の塔に行った。

 どうやら、二人で鳴らすタイプのやつらしい。これは、きっと前世でもあった様なあれだろう。ネラは頰を赤らめながらも元気にエルマンノの腕を引っ張り二人で鐘を鳴らす。妹と二人で共同作業。これをした二人は結ばれるんだとか無いんだとか。そんな曖昧なものではあるが。


『わ、私、お兄ちゃんと結婚する!』

『はいはい。そうだな』

『もうっ、お兄ちゃん本気にしてないでしょ!』

『もっと大きくなったらな』

『むーっ!分かった!大きくなったら、絶対結婚するから!』

『おお。待ってるぞ』


 そんな会話をずっと妄想しては、エルマンノはニヤけた。それから、少し薄暗くなり始め、街には灯りがつき、彩りを加え始めた。


「おお、これが、言ってたやつか?」

「これはただ周りのお店がデコレーションしてるだけかな。今日のイベントは東中央公園でドドーンッと大きな木が光るよ!」

「ドドーンか、なるほど、クリスマスツリーみたいなもんだな」

「あ!そうそう!兄ちゃん知ってんじゃん!」

「こっちでも名称は同じなのか」


 エルマンノはそう口にしながら、ネラ曰くまだ時間があるとの事なので。


「...なら、ネラ」

「ん?どしたどした?どっか行きたいとこある?」

「...精霊ショップに行かないか?」

「っ!そ、そうそう!ウチもそういえば見たかった!」


 エルマンノの促しにネラはそう目を見開くと、共に精霊ショップへと足を運んだ。


「ちなあの後さ」

「どの後だ」

「ほら、ミラナちゃんとソフィの四人でクエストやった後。精霊シミュレーションにハマってさ」

「おおっ!そうなのか!」

「そうそうっ!なんか奥深いんよね、あれ。属性とタイプ。配置とチーム編成。それから育成。色々あってさ。ウチ初期メンバー的なやつなんだけど、それでも育成やってったらなんか強くなってきてっ、マジアガるんだよね!あれはハマる理由なんか分かるわぁ。この間なんて育成用のアイテムめちゃくちゃ買っちゃったからね!」

「悪い、、廃人にさせてしまったな」

「いやまだ廃人じゃないから!まだ銀貨二枚くらいしかかけてないから!」

「それはまだ課金じゃない的なやつか、」

「課金、?金かけてる的な話?」

「金かけてる的な話的なやつだ」

「おっ、ここの精霊結構安めで売ってる、、マジブチアゲなんだけど、、買おうかな」

「なっ、銀貨一枚と銅貨五枚っ!?こ、これが、安いのか、?」

「いや安いっしょ!?レジェンドだよレジェンド!」

「レジェンド、、そういえばソフィも言ってたな。レアリティか、」


 エルマンノはそう呟くとその精霊を覗く。するとそこには、緑色のオーラを纏った、妖精の様な姿のキャラが存在していた。


「これってヒーラーか?」

「おっ、兄ちゃん分かってんじゃん!もしかしてやってた?」

「いや、勘だ」

「勘で分かるとかセンスあるよ!ここブースあるから一緒にやろ!」

「それはいいが、俺は精霊持ってな、」


 エルマンノがそこまで放ってネラを見据えると、ニヤニヤと微笑んでいた。それを見て、エルマンノは苦笑を浮かべる。


「買えって事か、」


 エルマンノはそう呟くと、まあ妹と同じ趣味で遊ぶためならばと精霊を選んだ。

 そうする事数分後。


「兄ちゃん精霊一つしか買わんかったん?」

「一つでも一応出来るのかと思ってたんだ」

「チームあるから三つおらんと出来ないんよ」

「そういえばソフィもそう言ってましたねぇ」

「ま、ウチの貸したげる!」

「最初からそうすれば良かったのでは、」

「めんごめんご、ま、ウチを沼に引き摺り込んだんだから、それくらいは払ってもらわないとねぇ」

「根に持ってるな、」

「沼から出るには根を掴まんとね」

「根も埋まってるだろ、、まあ、俺も元々精霊買おうと思ってたとこだ。きっかけをくれて助かる」


 ネラはそうニヤニヤとしながら放つと、エルマンノが淡々としながらも優しく口にする。と、改めてブースの席に対面で座り、精霊を定位置に配置してスタートした。


「おっしゃ!頑張れコロン!」

「ネラのネーミングはいつもそんな感じなのか、?」

「っ!い、いちいち突っ込まなくていいから!ほらっ!集中集中!」


 ネラは顔を赤らめそう放つと、共に精霊シミュレーションに没頭する。


「クッ、そっちじゃないだろっ、あっ、マズいっ!そっちは負けるっ!回れ!」

「お〜?兄ちゃんもノッてきたじゃん!ウチも負けてらんないなぁ」


 エルマンノが真剣に放つ中、ネラはそう微笑んだのち。少し間を開けて小さく呟く。


「...兄ちゃん、、この、精霊シミュレーション勧めてきたのってさ、、ソフィのためなんしょ?」

「っ」

「分かるよ、、だってさ、ソフィがこれ好きなん知ってんもん」

「...悪い、、ネラに、背負わせる様な事、してしまって、」

「ううん、実際楽しかったしねぇ〜。全然、ウチは気にしてないよっ。寧ろ、ありがとうって思ってる」

「え、?」

「ウチ、、ソフィとの距離の縮め方、分かんなかったんだ、、向こうは退学した事によってウチに迷惑かけたと思ってるし、ウチもウチで、ソフィはウチとは違うって、、ウチなんかとって思ってたし、、お互いにどこか距離感じてたんだよね、」

「...」

「あっ、うっは〜っ!ガン萎えなんだけどっ!?何でそっち行くかな馬鹿!」


 それにエルマンノが口を噤んでいると、ネラが精霊に目をやり声を上げる。


「ん?どした、兄ちゃん」

「ん、?ああ、、いや、」


 エルマンノは悩む。過去は過去だ。何を聞こうが言おうが、変わらない。今の二人はもう既に前を向いている。だからこそ、兄はどうするべきかと。そんな事を悩みながら戦闘を見据え、ふと口を開く。


「ネラ、、これって三人プレイ出来るのか?」

「なんか一応出来るっぽいよ。でもステージ買わなきゃいけないらしいわ」

「...そうか、」

「っと見せかけてっ!ほらっ!角待ち!」

「なっ!?そんな事が出来るのか!?」

「あははっ!ま、初めてにしては上手い上手い!」

「初めて相手には手加減するもんじゃないのか、?」

「ウチ勝負事は真剣にする派だからさ」

「初めてなのに積極的なのもまた、」


 ネラが笑うと、エルマンノはニヤニヤと笑った。それにネラがま〜た変なこと考えてると目を細めていると。


「ん?どしたん?」


 エルマンノは突如席を立つ。


「え?また買うん?」

「...まあな、、一応、お金は多めに持ってきたからな」


 エルマンノはそう呟くと。


「っ」


 三人用のステージを持って店員に向かった。


          ☆


「クッ、最後に買うべきだった、」

「あははっ!買う前に言ってくれれば言ったのに!それデカいから最後に買った方がいいって」


 エルマンノはクソデカステージとネラの荷物を持って、そろそろ時間だというツリーの場所で待っていた。


「ウチが持とっか?」

「いや、最悪収納魔法がある」

「あ、そうじゃん何で手で持ってんの?」

「妹の買い物したものを持つのが兄の役目。これもまた醍醐味だ」

「ほとんど兄ちゃんのじゃね?」


 アリアとの買い物を思い出すなと思いながらエルマンノは持っていると。


「お」


 突如、街が綺麗に光り出し、最後にその木がイルミネーションによって彩られた。


「おっ、きたきたきた〜っ!うわっ、超綺麗じゃ〜んっ!めっちゃ見とこ!後で念写魔法で焼ける様に!」

「そうか、写真がない世界のギャルは覚えるしかないんだな、」

「ん?何か言った?」

「いや、こっちの話だ」

「それよか兄ちゃん見えてなくね?」

「そうだな、、仕方ない。そろそろ収納魔法の出番だな」


 エルマンノはそう呟くと、手に持っていた大量の荷物を異空間にしまう。それにより、改めて呟く。


「おお、綺麗だな」

「だよねっ!」

「まあ、ネラには負けるな」

「っ!ちょ、ナチュラルに言うのやめてくんない、?」

「花より妹だなぁ」

「...」


 エルマンノが木からネラに視線を移して放つと、対する彼女は俯く。と、そののち。


「ねぇ、兄ちゃん、」

「ん?どうした?」

「...ウチ、バラバラだったじゃん?マロンと、ウチでさ」

「そうだな」

「だから、なんか色々ごちゃごちゃしてて、難しいんだけどさ、、でも、明確にその、、あってさ、」

「何がだ?」

「に、兄ちゃんを、、好きになった、、瞬間、っての、?」

「おお、ネラもブラコン属性なのかっ、兄は嬉しいぞ」

「っ、そ、そうじゃ、、いや、ううん、何でもない、」

「...」


 エルマンノはその反応に、目を細める。ネラがまだ二人だった時に話した、フレデリカとの会話を思い出す。好きになった。それはそうだ。ぬいぐるみじゃなくて生身の方がいいって思わせる程に、エルマンノはネラと距離を縮めたのだから。だが。


「ネラ、」

「え、」

「俺は、ネラに嘘を言った事はない」

「え、ほんとけ、?」

「まあ、全部かは確信ないが、、でも、ネラが綺麗なのも、大切なのも。全部事実だ。ネラに花火を見せたかったのも、おんぶしたのも、全部俺がしたかったからだ」

「な、、何なに、?と、突然どしたの、?」

「...いや、ただ、それだけは、覚えてて欲しかっただけだ」


 エルマンノはツリーに目をやり、小さく口にした。そうだ。ネラを一人に戻すためにやった事じゃない。あれに、嘘は無かった。それだけは、伝えておきたかった。すると、ネラは少し俯き考えたのち、改める。


「ウチ、、ウチね。マジ嬉しかったんだよね、、ウチの居場所は、そこだけじゃない。他の場所にも、居場所を作っていいって、、言ってくれたの」

「それは半分アリアが言ったやつじゃないか、?」

「だからアリアっちも大好きだよ、、でも、その、そういうんじゃないんだよ、」

「...ネラ、」

「ずっと、、悩んでた。今日、この瞬間まで、伝えるべきかも、、悩んだ」

「...」

「...でもさ、、やっぱ、分かったんだよね、、この間、ミラナちゃんとチェスタちゃんの二人が、その、色々あったっしょ、?」

「ああ、色々で片付けられない程にな」

「うん、、それでさ、、分かった、、フレデリカちゃんの言葉にも、気付かされた」

「フレデリカの、?」

「うん、、兄ちゃんのお陰で、家族を教えてもらったって言葉、、それで、ウチも思った、、兄ちゃんのお陰で、家族と向き合えたし、こんな素敵な家族が出来た」

「...ああ。みんな、家族だ」

「うん、、だからさ。その、、なんてーの、?」


 ネラは俯いて、どこか掠れた声で続けた。


「やっぱさ、、ウチ、妹想いの、家族を作ってくれた、兄ちゃんが好きなんだよ、」

「...ネラ、」

「アリアっちも、フレデリカちゃんも、、オリーブちゃんも、ソフィもラディアちゃんもミラナちゃんもチェスタちゃんも!みんなっ、みんなみんな大好きだからっ、、この家族が、、好きだから、さ、」

「ああ、」


 ネラは苦しそうだがどこか楽しそうにも見えるその苦笑で、胸を押さえながら顔を上げた。


「だから、、兄ちゃん、、ウチの、気持ちだけ、、聞いて」

「っ」


 その瞳には、涙が僅かに見えた。


「答えは、、いいから、、寧ろ、その、なんか、どっちの答えでも辛いってーか、、なんてーか、」

「...」

「あ、はは、、ごめんねっ、なんかっ、クソ卑怯だよねっ、、マジ、やんなるわ、」

「...ネラ」

「っ、ご、ごめん、、そう、その、伝えたいのは、、それじゃなくて、、その、」


 ネラは荒い呼吸を零しながらも、俯いて深呼吸をして。真っ赤に染まった顔でエルマンノに告げた。


「ずっと、、好きでした」


「っ」

「...兄としてとかじゃなくて、、本気で。異性として、」

「...」

「...そ、それだけ、、別に、答えを聞く様な、話でも無いし、、そ、それだけだから」


 ネラはそれだけを告げると、目を逸らす。それに、エルマンノは少し悩んだのち、小さく、ツリーに目をやって、優しくネラの肩に手をやった。


「ありがとう。よく、、頑張ったな、」

「っ!う、うぅっ、、うん、うんっ、」


 ネラは俯き、嗚咽を漏らす。これが正解だったとは思えない。だが、ここまでネラは考えたのだ。それを褒める以外に、言葉は無かった。何を言っても、間違いな気がしたから。


「それと、ネラ」

「え、?」

「これ」

「っ、、こ、これって、」

「マフラーだ。手作りでは無いが、、この間、ミラナとマフラーしてた時、物欲しそうに見てただろ?」

「そ、、それはっ、、その、そっちじゃなくて、」

「要らなかったか?」

「いやっ、要るっ!超要るっ!」


 エルマンノが引こうとすると、ネラはそのマフラーを手に取り、抱き寄せる。それに、優しく微笑む。


「まあ、クリスマスは贈り物をする日だからな」


ーこっちの世界では分からんがー


 エルマンノは内心思いながら告げる。すると。


「ん、、ありがとう、、ほんと、、あ、あと、これ、ウチからも、」

「っ!な、なんとっ、、く、くれるのか!?」

「えっ、あ、まあ、、その、ウチお金ないから、、こっちは手作りだけど、」


 差し出されたのは、手作りのクマのぬいぐるみだった。


「これは、」

「ま、まあ?前、なんか、欲しそうにしてたっしょ?」

「それはネラが入ってたからだ」

「うっへ!?そそそ、そうなん!?」

「だが、妹の手作りぬいぐるみ、、この歳で、貰えるとは思わなかった、、家宝にします」

「う、この歳言わんでよ、、恥ずい、」

「俺の話だぞ?」

「あ、に、兄ちゃんの歳の話か、」

「名前はネラにするかぁ」

「はぁっ!?ちょ、変な事しないでよ!?」

「俺は何かすると思われてるのか、?」


 ラディアの時といい、信用がない。エルマンノはかなしみに息を吐きながらも、ネラ(ぬいぐるみ)を優しく抱きしめた。すると、対するネラ(本物)は「まあ、別にしてもいいけど」と呟いたのち、改めて放つ。


「ねねっ、それよかどう?似合うかなっ!」


 先程のマフラーを巻き、ニッと微笑む。それに、エルマンノはぶっ倒れる。


「ごはっ!」

「えぇっ!?大丈夫!?」

「こ、これは、、似合いすぎて体の一部かと思ったぞ、」

「褒め方下手くね、?」

「凄く似合ってる。やはり、俺の目に狂いは無かったな」

「マロンの服の時もそうだったもんね」


 ネラがそう微笑んでエルマンノに寄ると、優しく彼女を見据える。すると、対するネラはふと。腕を組んできた。


「うおっふ!?ち、近いな、ネラ、」

「今日は、今日はさ、、今日だけでも、、許して、」

「っ」

「お願い、、今日だけはさ、、妹から、一歩だけ、進ませて欲しい、」

「...ああ、分かった。今日は、魔法がかかる日だからな」


 エルマンノは耳まで真っ赤にするネラを見据えたのち、少し寂しげに彩られたツリーと、その後ろに広がる夜空を眺めたのだった。


          ☆


「はぁ〜あっ、あっという間だなぁ」

「本当だな、、妹とは、もう少し長く居たいものだが、」

「でも今日はまだ大丈夫なんだよね?」

「何故それを、」

「バーベキューの時お母さんに直接許可もらったから!クリスマスは遅くなってもいいよって!」

「何を想像してるんだ、」


 エルマンノは母も母だなと。ネラと共に歩く帰り道で息を吐いた。


「じゃあ、夜ご飯も食べて行くか」

「アゲ〜!」

「揚げ物でも食べたいのか?」

「ちゃ〜って!てか、夜に食べたら浮腫むっしょ」

「ムチムチの方が俺は好きだが」

「そうなん、?」

「やっぱクリスマス妹デート、、ディナー的な優雅なものに行くべきか、それとも家族的にワイワイとした場所で食べるか、、ケーキはやはり外せないな、」

「おおっ、なんか頑張ってんね」


 エルマンノが悶々と悩む中、ネラは微笑んで呟く。すると、そんな時。二人で歩く道の壁にポスターが貼ってあり、それに目をやる。ポスターといってもギルドハウスにある様な、まるで海賊の指名手配の様な紙だ。


「うっは〜、もう年末のチラシ出てるわ〜、まだもう少しクリスマスの夜過ごしたいよね〜。ちょっとバッド入るわ〜」

「...年末か、」


 ネラの言葉に、エルマンノがそう呟いた。

 と、その時。


「っ」


 エルマンノは、「年末」。それが意味する事を思い出し、目の色を変えたのだった。

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シスコン馬鹿が人生どん底の中異世界転生したので、向こうで妹ハーレムを作って青春やり直します。 加藤裕也 @yuuyakato

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