第20話 退役軍人は警備室に火を放つ

 スピード達と別れた後、私は一人で警備室へと向かって行きました。


 ファイターが暴れているお陰でこちらにいる私兵はほとんどいませんでした。


 仮にいても私の能力を使えば相手に反撃される前に殺す事が出来ました。


 狭い室内なら一気に近づいて相手に触れるだけで確実に動けなくする事ができるので、その後にトドメを刺せばいいので私にとっては有利な環境でした。


 私の能力をスピードは手足や口から火を出せる能力とアンバーに説明していましたが実際は違います。


 口から炎を出せるのは正しいですが、手や足から炎を出す事はできません。


 その代わり手や足は鉄を簡単に溶かすほど高温にすることができます。


 普段は手を高温にして鉄を溶かしたり、扉を溶断することや人と戦う時はその手で相手を溶断したり、触れて溶かすという様な使い方をしています。


 足に関しては一々靴を脱ぐのを待ってもらえないことや戦うたびに靴を燃やしてしまうのは勿体無いので使わない様にしています。


 一応、頭以外の部分を高温化して戦うということも出来るのですがそれをしてしまうと裸に服も燃えてしまうので本当に最後の手段です。


 能力を駆使して問題なく警備室の前にたどり着く事が出来ました。


 警備室の扉はセキュリティーの問題からか他の部屋の扉と比較して分厚いものでした。


 しかし、そんな分厚い扉も私の能力の前では問題にはなりませんでした。


 私は手の温度を上げて、真っ赤に染まった頃、扉に手を当てました。


 手を当てると扉がバターの様に溶けていき、他にも何ヶ所か触れ、自分が入れる様なサイズの大きな穴を作り出しました。


 警備室の中には二人の私兵がいましたがドアを溶かして入って来た私を見て固まっていました。


 まあ、誰だって分厚い扉を道具も何も持っていない女が壊して入って来たら、それは驚いて固まってしまいます。


 私はその隙に高温で真っ赤に染まっている手を敬礼をするかの様にピンと伸ばし、その手で彼らを切り付けました。


 実際は切るというよりは溶断するという方が正しく二人はおぞましい悲鳴を上げて絶命しました。


 私以外誰もいなくなった警備室内では、たくさんのモニターがあり監視カメラの映像が流れていました。


 一部はエラーや砂嵐が映っており、私達が破壊したものだと思われます。


 この部屋を使えなくするため、私は自分の喉の調子を確かめていました。


 私の口には火を吹くための特殊な器官が内蔵されていました。


 私の身体の中で特殊な薬品を生成する事ができ、その薬品を私の高熱と反応させる事で炎を作る事が出来ます。


 私の炎は通常の炎とは違い水で消す事ができません。


 その上、ある程度の時間を指定して燃やす事が出来ます。


 私はどのくらい燃やせば設備が使えなくなるか考えながら喉調子と身体で生成する薬品の調整をモニターを見ながら行いました。

 

 モニターを見ているとやつれた男性が部屋にいる画面がありました。


 その映像の場所は調べてみると地下室だという事がわかりした。


 そのやつれた男性はおそらく執事のバトラーだと思われます。


 必要な情報を集め終わった後、私は思いっきり息を吸い込んで炎を吐き出しました。


 二十分ほど燃える様に設定したのでおそらく、警備室の機械は使い物にならないでしょう。


 これで監視カメラを壊して進む必要がなくなりました。


 物を投げたり、刀で斬れる他のメンバーとは違い、私は一々口から炎を吐く必要があったのでとても面倒でした。


 そんな面倒事を今後はしなくていいと思うととてもいい気分でした。


 そんないい気分のまま、私は執事のバトラーがいる地下室へと向かいました。


 地下室に向かう途中の道にも私兵達はいましたが、私は距離がありすぎる場合は口から放つ炎で、近い場合は熱した手で殺して行きました。


 やはりこうして戦うと私にも相手との距離をつめる事ができる方法が必要ではないかと考えます。


 スピードはその能力で簡単にでき、ファイターは頑丈な肉体を利用して根性で近づいていく事ができる。


 それに引き換え私は、改造手術のお陰で多少身体が丈夫にはなりましたが、銃で撃たれれば普通に怪我をしますし、銃を持とうにも能力を使った場合、その熱が原因で銃が壊れる場合や銃弾が暴発する危険性もありました。


 バトラーが囚われている地下室には騒ぎのせいか警備の私兵はいませんでした。


 地下室の鍵は別に壊せばいいかと考え、持って来ていなかったので手を熱してドアノブを溶かして扉を開けました。


 部屋の中に入ると汗やアンモニアなど様々なものが混じった様な匂いがしました。


 その部屋は半分を檻がわけており、檻の中には私が探していたバトラーがベットで横になっていました。


 彼は失踪してからずっとここに入れられたままだったのか、髭が伸びていました。


 彼は私をみると怯えながら話しかけて来ました。


「アンタもアレックスの仲間なのか、俺は何をされても何も吐かないぞ。私の主人を殺したあのろくでなしにそう伝えとけ」


「あの……。覚悟を決めている所申し訳ありません。私はフレイムと言います。アンバーさんの依頼であなたを助けに来たものです。ここで話すのもなんですから外に出て話しませんか?」


「アンバー様の依頼?そうとは知らず、失礼な言い方をして申し訳ありませんでした。ところで外に出ようとのことでしたが、どうやって外に出るのですか?鍵を持っていない様ですが?」


「それは簡単ですよ。こうします」


 そう言って私は、柵を数本溶断して、即席の出入り口を作りました。


「どうぞ」


「は……はい。ありがとうございます」


 私が柵を溶断した後手を差し出したのを見て、まだ熱いのではないかとおそるおそる手を掴もうとしていました。


 私の手を掴む時、痛みを堪える様な顔をしていたので、まだ熱いのかと思い手を見てみるとバトラーの爪は一本もありませんでした。


「あのバトラーさんこれは?」


「ああ。これですか。アレックスの野郎にアトラス重工の機密について吐けと脅されましたね。断ったらやられたんですよ。まあ、お陰でこれだけやっても吐かないなら拷問しても無駄だと思われたのか、放っておかれる様になりましたがね」


「バトラーさんは強いですね」


「そんな事はありませんよ。私は私を拾ってくれた主人への恩を裏切ってしまうのが恐ろしかっただけです」


「じゃあ。これからバトラーさんを見つけたのでアンバーさんの所へ向かいましょう」


「アンバー様も来られているのですか?」


「ええ。他のメンバーと一緒にアレックスの所にいるはずです」


 私はバトラーと共にアンバーがいるであろうアレックスの部屋へと向かいました。

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退役軍人の大変な日々 @tama07

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