第19話 退役軍人は私兵を蹴散らす
スピード達との話し合いが終わった後、私はまず私兵の一人を強化された拳で殴り殺した後、そいつが持っていたナイフをもらってその死体を他の私兵達にもわかる様に庭の中央に投げた。
スピードは刀で斬っていたのを見ていたはずなのでそれ以外の殺し方をする事でスピード以外にも警戒するべき相手がいると私兵達に分からせる為だった。
私兵達もそれを理解した様で私を囲う様にして進み始めた。
それを確認した後、私は物陰に隠れながら、私兵達に向かって石や建物の壁を毟って投げやすいサイズにしてから全力で投げていった。
私が投げていった石は当たれば人体を貫通して壁に穴が開くほどの威力だった。
頭などの人体の急所に当たることもあったが、大体は大きく外れてしまうか、他の部位に当たって相手がうずくまるだけで命を奪うには至らないようなものが多かった。
このまま石を投げて庭にいる私兵達を全滅させても良かったがそこまで時間をかけると今度はスピード達が動けなくなってしまう危険があった。
私の流れ弾が仲間に合ってしまうことを避けたかったからだ。
スピードなら避けるのは簡単だが、流石にフレイムとアンバー、バレットを抱えて移動するのは不可能だと思うので石を投げるのでは無く、今度は接近戦で仕留めようと考えた。
私の強化された身体なら、機関銃の様な大口径でなければ目や口の中に当たらない限り耐えれる自信があった。
流石に一斉に当てられたら、衝撃で動けなくなってしまうかもしれないが、庭にいる私兵を全滅させるまで動き回る自信が私にはあった。
接近戦をする覚悟を決めた後、1番近くにいた私兵の元へ走って接近していった。
私兵は私に気づくと叫びながら銃を乱射して来た。
私は銃弾が目に当たらない様に左腕で目を庇いながら近づき、右腕で強烈な一発をお見舞いした。
喰らった相手は首がありえない方向に曲がっていたので、死んでいたのは確実だった。
相手から銃を奪って、私兵達に向かって撃ってみたが先に乱射されていた分もあってすぐ弾切れになってしまったり
その上私兵達には当たらなかった。
自分に射撃の才能がない事を再確認し、いっそスピードが機関銃を残していてくれたら、それを担いで使う事が出来たのにと理不尽な事を考えていた。
諦めて、一人づつ追い詰めて殺していくことにした。
あらかた片付けた後、建物の中にある私兵達にもこちらに注目してもらう為、建物の中に入っていく事にした。
入り口から入るのでは注目されないと思ったので壁を突き破って侵入した。
建物に侵入すると中には驚いた顔をした私兵達が数名固まったまま私を見ていた。
それを見て数名を殺そうと近づいた時、背後から近付く気配に気付かずに背中をナイフで刺されてしまった。
刺されたと言っても、私の強化された身体には普通のナイフが刺さるはずもなく、私の皮膚を少しへこませるだけで血は一滴も流れなかった。
私は刺そうとした相手を殺そうと相手の方を向いた時、相手が命乞いを始めた。
「嫌だ死にたくない。殺さないで、助けてくれたらここであった事は一切話したりはしねえから。頼むよ死にたくねえんだ」
私兵の命乞いに対して私は思っていた事を全てぶちまけた。
「眠たいこと言ってんじゃねえぞ。テメェらが私達を殺そうとした癖に殺されそうになったからって助けてもらおうなんて通じると思ってんのか。相手を殺そうと思って実行したらなどっちかが死ぬまでやり合うしかないんだよ」
「お前らも逃げるなよ。こいつを殺した後はお前達だからな」
そう言って命乞いをした私兵の頭を肩と同じ高さにまで縮めた後、固まった私兵達の方へと近づいていった。
その時、何処からかペタペタと何かが張り付いているかの様な音が聞こえ始めた。
その音はだんだんとペースが上がり、ペタペタという音も大きく聞こえ始めた。
音の発生源は壁の方だという事はわかったがそこにいる何かをどうするかが問題だった。
壁を砕いて引き摺り出すという方法もあるが、相手が自分を待ち伏せていて罠を仕掛けられていたらと思うと実行するわけにはいかなかった。
こんな妙な方法で移動するのは間違いなく改造をされて能力を手に入れた生き物なのだから、警戒し過ぎても損は無いと考えていた。
基本的に能力者同士の戦いは一見必殺の形になる事が多い。
前の場合は比較的オールマイティーな活躍ができるスピードと組んでいた事と互いに殺す気が無かったから全員生きていたが、基本は相手が能力を使う前に殺すか相手の能力の弱点をついて殺すかという選択肢の二択しか無い。
そのため戦う必要がある際は確実に最初に会った時、殺す必要がある。
もし逃してしまうと自分の能力を知られてしまいその対策をとられてしまうからだ。
どの様にして相手と戦うかを考えていたら、ペタペタという音が止み、通気口のカバーが吹き飛ばされ、中からその音を立てていた生き物が現れた。
そいつは全体的に細長い見た目で顔をガスマスクで隠しており、膝丈まであるコートを着ていた。
そのコートはダクト内部を移動して来たせいかヨレヨレになっていたが、それよりも目を引いたのはそいつの手足だった。
そいつは手足が透き通った色をしており、後ろの壁が見えていた。
その手足を見た時、プルプルと震えていてまるで葛餅みたいだなと思った。
そいつが現れた時、残っていた私兵達はその生き物の方に駆け出して後ろに逃げ込んだ。
「アンタが来てくれて助かったよ。早くアンタの能力であのバケモノ女を殺してくれ」
とりあえずあの葛餅もどきは敵である事はわかった。
あの見た目とダクトに入れる様な能力という事で私は似た様な能力を知っていた。
私がまだ軍人だった頃、私と同じ改造手術を受けた仲間達と生活をしなくてはいけない期間があった。
そこで自分の手足を伸ばせる能力者と話した事があった。
「その能力便利そうだな。遠くの物も取れたり、移動ができたりと。疑問なんだけど銃で撃たれたり、ナイフで斬られても平気なのか?」
「そんな漫画みたいに便利な訳ないだろ。銃で撃たれたら貫通するよ。でも千切れたりしなければそのうち治るらしい。ナイフに関しては君の馬鹿力で切られたら千切れるだろうね。それに僕の改造は手足だけで内臓や頭部は無理だったからね。流石に死ぬかもしれないのに内臓と頭部の改造をする勇気はなかったからね。意外と制約が多いよ。僕も君みたいな身体が頑丈になる様な改造が良かったと思うよ」
「私の方だっていいことばかりじゃないぜ、この改造のおかげで体重が一気に増えて三桁台に突入だ。それに頑丈なのは筋肉と骨だけで中身はそこまで頑丈じゃないからな。でも内臓を金属製に変えられなかったことだけは良かったぜ」
昔の戦友との会話を思い出しながら奴を倒すには胴体か頭に一撃を入れるか、ナイフで切り落とすかのどちらかを実行しなければならないと考えていた。
どう近づこうかと考えていた時、奴は突然私兵達の方を向いて腕を鞭の様にしならせて、私兵を打った。
撃たれた私兵は皮膚が裂けた様で悲鳴をあげていた。
その悲鳴に気を良くしたのか残りの私兵達も手や足を鞭の様にしならせて打ち続けていた。
私はそれを見ながら、鞭って早く打つと裂けるかや私の皮膚に打たれたらどうなってしまうのだろうかという事を考えていた。
私兵達が追い詰められているのを見ても可哀想だし助けようとも思えず、むしろあの手足でできる事を確認しておこうという気持ちで見ていた。
奴は私が見ているのを気にせず打ち続け、最後には飽きたのかその伸びる手足を使って私兵達の首に巻きつけて締め殺していった。
私兵達を殺した後、奴は私に向かって両手をしならせて鞭の様に打ちつけ始めた。
私も初めは避けながら進んでいたが、ここは狭い廊下だったのでそれも難しくなり打たれつつも少しづつ近付くという牛歩戦法をとっていった。
幸い、奴との距離もそこまで離れていないこともあってすぐに近付く事が出来た。
正直、奴の腕を捕まえて庭に放り投げて庭で戦うという方法も考えたが広い場所の方が奴を動きやすくしてしまいこちらが不利になると思い出来なかった。
室内なら奴が手足を伸ばして逃げようとすれば持っているナイフを投げるなり切り付けるなりして切り落とす事が出来た。
奴に打たれた身体は裂けたりはしなかったが多分痣が出来るだろうなと思う様なダメージだったが、そこまでして近づいたのだから一撃で仕留めようと拳を握り締め、全力の一撃を奴の心臓に叩き込んだ。
これは決まったと思ったが感触が妙に柔らかかった。
まさか、内臓も改造したのかと思い至ったところで奴の腕が私の鼻と口を覆う様に巻き付いて来た。
これはまずいと思い直ぐにナイフで奴の腕に刺してみたが伸びるばかりで上手く切れなかった。
話と違うじゃねえか、と思いつつも今度はナイフを持っていない方の手で腕を掴んで伸ばし、足で踏んで固定する事で伸び切った部分を作り、その部分にナイフを突き立てた。
今度は上手く行ったようでナイフが刺さったので、そのまま力を込めて腕を切り落とした。
奴は切り落とされた腕を抑えていたが何故か悲鳴を上げなかった。
痛がっている奴をよそに私は締め付ける力がなくなった腕を外し、息をする事の大切さを噛み締めていた。
腕を外した後、奴に近づき今度はしくじらないようにナイフを頭部に全力で突き立てた。
相手は倒れた後、痙攣していたが少し経つと動かなくなった。
最後に奴の顔でも見てやろうと思い、ガスマスクを剥がした。
そこには、葛餅の様な透明感のある顔と私に刺された脳だけがあった。
ガスマスクも私がガスマスクだと思っていただけで、実際は生命維持装置だった様でいくつもの注射針とそこから薬品らしき液体がポタポタと垂れていた。
おそらくこれが口や消化器官がない奴の食事なのだと思われた。
「ヒデェ改造しやがる」
私はそう呟きながら、アレックスがいる部屋へと向かっていった。
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