第2話 光りの中の暗闇

 ライル・クァンは暗闇の中をバーンズライダー3号で疾走していた。


 別に、昨日、来る?って聞かれたから行く訳では無い。

 ただ、……日課だ、そうだ、会いに行く訳では無い、屋根でひと休みする日課だ。


 ライル・クァンが、屋根に降り立つとすぐに扉が開いた。


 ライル・クァンは、銃を構えた。


「ライル、来てくれたのね。」

 セーラは、小さな声に合わないとびきりの笑顔を見せた。

 銃を向けられているというのに。


「……少しは、警戒したらどうなんだ、知らない奴ばかりか、下の人間だぞ、銃持ってるし。」男だしとは言わなかった。

 たぶん、自分と年齢は変わらないだろうと思う。

 ライルは、13才になったばかりだ。

 下では、男、女、年齢など関係なく、油断していれば襲われるのが普通だ。


 ライルは、危険を感じれば殺せと言われている。

 その為の銃だ。


「……それは、何をするものなの?」

 セーラが、銃を見ている。


 ライル・クァンは、あんぐりと口を開けて、間抜けな顔を見せた。


「しっ、知らないのか?」

 ライル・クァンは、びっくりした、本当にびっくりした。

 いくら、上が平和だとしてもだ。

 ライル・クァンは、生まれてから一度も上に入ったことがない。

 どんな生活をしているんだ!


「とっ、とにかく、これで撃たれたら死んじまうんだ。絶対、触るな、それと……、危険だって思え。いいな。」

 ライル・クァンは、一応注意をした。

 空飛ぶマシーンが、バーンズライダー3号しか見たことが無いにしても、他に無いとは言い切れない。


「そう、危ないのね。……でも、体をアンドロイド化してしまえば、大丈夫なんじゃないかしら?」


「アンドロイド?」

 ライル・クァンは、怪訝な顔をした。


「詳しくは知らないけれど、アンドロイド化して、永遠を生きるんですって。コマーシャルで見たわ。お父さまも、お母さまもアンドロイド化しているのよ。」

 セーラは、普通に話している。


「セーラは……。」

 ライル・クァンは、嫌だなと思った。


「私は、まだよ。お母さまが、子供を産んでからが良いだろうって。」

 セーラが微笑んだ。


 ライル・クァンは、急に彼女が遠くに感じた。


「……もう、行くよ。」


「待って!もっと話したい!」


「ダメだ。まだ仕事がある。」

 ライル・クァンは、嘘をついた。


「明日は?」

 セーラは、必至な顔をしている。


「来ない。」

 ライル・クァンは、意地悪く答える。何だかとても腹立たしかった。


「待ってる!来るまで、絶対待ってる!」

 セーラの言葉を無視して、ライル・クァンは、バーンズライダー3号で飛び立った。




 あれから、5日が過ぎた。

「おい、みんな、ダンになるなよ!」

 無線から、ステファンの声がする。

 ダンとは、昔、同じ仕事をしていた仲間らしく、無茶をして死んだ男の名前だ。

 みんな、無茶をするなと言う意味で、良く使う。


 だが、仲間内の無線で、ダンになるな!は、ステファンの見つけた無線の周波に切り替えろと言う事だ。

 どうしても、上層部に聞かせたくない会話の時に使うチャンネル。

 ライル・クァンは、バーンズライダー3号で飛ばしながら、無線の周波を合わせた。

「みんな、気をつけろ!様子が変だ。その場をすぐに離れろ!……」


「どういう事だ!」

 仲間の怒号が、無線を通して響き渡る。

仲間はみんな、事件現場に向かっていた。ライル・クァン達の仕事は、警備兵だ。

警備兵と言っても、相手はエリアG7から這い上がる失敗作のアンドロイド野郎達だ。


「罠だ!引き返せ!」

 ステファンの声の後、ライル・クァンは、爆風で飛ばされた。




 セーラは、あれから5日、毎日夜になると、屋根裏でライル・クァンが来るのを待っていた。

「仕事が忙しいに決まっている。」

 セーラは、そう思うことにしていた。

「人が住んでるなら、私から会いに行ってもいいんじゃないかしら。」

 セーラは、暗い夜空を見ながら呟いた。



「何かしら、あの光は?……何だか綺麗ね。こんな時に、ライルが居たら良かったのに……。」

 セーラは、遠くに見える半円のような光りを見て微笑んだ。


ライルが、必ず来ますように……。


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幸せは暗闇の上 ~デスペラード ショートストーリー ~ のの @nono-1

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