幸せは暗闇の上 ~デスペラード ショートストーリー ~

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第1話 下は暗闇

 ライル・クァンは、疲れていた。

 仲間のステファンが改造してくれたバーンズライダー3号を屋根の上に置いて、横に座る。

 ここは、丘の上に建つ居住区で、崖下にはライル・クァン達が生きる場所があるが真っ暗で見えない。



 ライル・クァンが器用に使用するバーンズライダー3号がどういう仕組みかは知らない。

 ただ、スイッチを入れれば、少し重いが腰に装着したベルト部分の小型エンジンが作動し、ゴーグルに内蔵されたなんたらシステムと連動して動く。

 頭の動きや言葉で、浮遊、ブレーキ、左右上下思いのまま飛べる。


 何しろ凄いスピードで飛び、生身で飛ぶものなので、おっさん達はそんなもんは嫌だと、使いたがらない。

 自分だけが、器用にこいつを動かせたので、使っている。


 ステファンが、1号と2号を改良中だ。

 システムや機械いじりが好きで、色々な道具を俺達に与えてくれる物知りで、静かで優しい男だ。

 


 生きるために、働いている。



 ゴトっと音がして、ライル・クァンはびっくりして銃を向ける。


 ドーマーと呼ばれる屋根に突出した扉を開けて、少女が顔を出した。


 綺麗な透き通るような金髪が、風に揺れた。


 透き通るような白い肌、薄いピンク色の唇。


 ライル・クァンは、見惚れた。


「高い所、怖くないの?」

 少女の優しい声がささやいた。


 銃を向けられているのに、怖がりもせずに問いかける少女に唖然としながら、ライル・クァンは、銃をしまった。


「怖くない。落ち着く。」

 ライル・クァンは、ポツリと呟いた。


 ライル・クァンは、話すのが苦手だ。


「危ないから、中に入る?」

 少女がまた、無警戒なことを言ってくる。


「入らない。」

 ライル・クァンは、そっぽを向いた。


「そう。じゃあ、私がそっちに行こうかな。」

 窓枠を跨ごうとしている彼女に、ライル・クァンはぎょっとした。


「来るな!」

 ライル・クァンは、思わず立ち上がったが、彼女が、綺麗な人差し指を口にあて大きな目を見開いている。

 ライル・クァンは、シマったと慌てて口を押さえ、窓枠の近くまで行った。


「良かった。これで顔を見ながら話せるわね。私は、セーラ。あなたの名前は?」


「…ライル・クァン。」

 呟くと、彼女に窓枠へ腰かけるように言われ、仕方なく座った。


「何をしているの?」

 彼女の白く薄い布地で出来た夜着が、気になりながら、ライル・クァンはまた呟いた。


「見回りの仕事が終わったので、帰るところだよ。窓開けちゃダメじゃないのか?君は…」


「セーラ!」


「あぁ、セーラは……」

 慌てて名前言った。


「寝るところ。最近寝る前に、この屋根裏部屋から外を見るの。本当は、開けてはダメなんだけど、内緒ね。屋根裏部屋以外は下を見れないの。夜しか屋根裏部屋に上がれないから来るけど、何も見えなくて残念。でも星が見えるわ。」

 セーラは、はにかむように笑った。


「星はいいね。下なんか見ないほうがいいよ。」

 ライル・クァンは、夜空を見上げながら呟いた。


「下を知っているの?」

 セーラの言葉に、ライル・クァンはなんと答えようか考えた。

 上の住人は、皆、下を知らない。

 知らない訳ではないか。大人達が子供に話さないだけ。

 セーラも知らないのだろう。



「汚いところさ。街も人も。セーラは見なくていいよ。下なんか知らなくていい。」

 ライル・クァンは呟いた。


「ライルは、どこに住んでいるの?なぜ下を知っているの?お父様は下には人なんていないって言っていたわ。人が住むような所じゃないって。」

 セーラは、不思議そうに顔をかしげた。


「住んでいる人はいるよ!ただ、区分けされているんだよ。下の住人は上には行けない。ただ、それだけさ!」

 人扱いされなかったような気がして、ライル・クァンは、少し拗ねた言い方をした。


「ごめんなさい。……知らなくて。」

 セーラが、悲しげな顔をした。


 自分で、下のことは、知らなくていいと言っておきながら、怒った自分を反省した。


「やっぱりセーラには、下のことを知ってほしくない。絶対調べたり、聞いたりしないで。約束だよ。」

 ライル・クァンは、バーンズライダー3号のところに向かった。


「明日も来る?」

 セーラが寂しそうに問う。


「来ない。」

 ライル・クァンは、意地悪な返事をした。



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2024年11月30日 22:00

幸せは暗闇の上 ~デスペラード ショートストーリー ~ のの @nono-1

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