第2話 恨み節

 佳子さんが言うおじさんとは私の祖父のことである。

陰陽師10人がお焚き上げをして呼び出した霊の名前が分かったことに対して、風馬くんは驚いていた。

女の人が浮かび上がって来たことを聞いた瞬間に私には分かった。

実家の事情を全く知らない風馬くん達がどれほど道徳的なことを言って諭しても、佳子さんは聞く耳を持たなかった。

それにお焚き上げをして霊を呼び出すという儀式はとても体力を消耗するらしく若い陰陽師といえども、そんなに長く続けることは出来ない。

「佳子さんは私のこと知っていた?」と風馬くんに聞いた。

「知ってるって。」と彼は短く答えた。

 私からの情報も話しておいた方が少しでも解決に近づけるのではないかと思い、母から聞いたことや昔、佳子さんのお見舞いに行った事等を話した。

 佳子さんはお焚き上げで呼び出されてからずっと、藤村家への恨み言を繰り返し話すだけでらちが明かなかった。

「死ね、死ね。」

「おじさんと一緖になりたかった。」

「誰も信じられなくなった。」

四次元の言葉でそのような内容を繰り返すばかりであった。

 陰陽師の若いお兄様方は昼間は普通に仕事を持っている。

毎晩、毎晩、儀式に参加していると睡眠時間も取れなくて仕事にも支障をきたす。

私が何かお手伝い出来ることはないかと聞いても霊能力を持たない私には何も出来なかった。

 儀式が行われている立山の秘境に行くことは到底出来ないし、麓の道の駅にせっせと差し入れのおにぎりを運んだ。それが私の出来る精一杯のことであった。

おにぎりの米はうちの田んぼで収穫したものであった。

「やっぱ、奥さんのおにぎりは美味しいよ。まず米が違うんだよな〜。仲間もこれが一番喜ぶよ。」

風馬くんは、おにぎりを受け取ると軽く会釈をして山道に向かってエンジンを吹かした。

 日中は建築現場の仕事、夜中は陰陽師の儀式と、睡眠時間を削って働いていた風馬くんは、とうとう建築の仕事の途中に眠気を催して、足場から落下してしまった。

幸い重症にはならずに済んだが、肋骨を骨折してしまった。

儀式が始ってから二週間経過した頃であった。

私は病院に見舞いに行き、

「もう儀式は中断してください。」と懇願した。

「いや、途中で止める訳にはいかない。今止めてしまったら、奥さんの実家の藤村家が大変なことになる。」と彼はきっぱりと言った。

 風馬くんはギブスの上から白装束を着て、儀式を再開することにした。

お焚き上げで呼び出した佳子さんに、自分の身の上話をした。

毒親に育てられて、荒んだ少年時代を送り、少年鑑別所に入っていたこと、バイクの事故で生死を彷徨い、生き返ってから現在の師事している先生との出会いがあった事などを話した。

佳子さんは叙々に風馬くんに心を許し、素直になって話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰陽師の風馬くん 杉里文香 @yumetokibou0808

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ