陰陽師の風馬くん

杉里文香

第1話 幽霊を見てしまった

幽霊を見てしまった。

それはカラフルな光の集合体であった。アニメのようでもあり、その光の集合体はパチッパチッと弾いた。

見た瞬間に辺りには冷気が走り、まるでナルニア王国のような寒色の世界に染まった。

 私は二次元のことは解らないが、もしかして二次元と四次元は近い所にあるのかもしれないと思った。

 そう分析したのは大分後のことで、幽霊を見てしまったその時は、ただ怖くて息が止まりそうになって隣の部屋に寝ている母の所へ行った。

「お母さん、お母さん!」

私は必死で母を起こした。

「どうしたが?いい大人がお母さん、お母さんって。」

80歳を過ぎて少し認知症の入った母は怪訝そうな顔で言った。

私は母の顔を見て、冷静さを取り戻し幽霊がいた廊下に目をやった。

幽霊の姿は消えていた。

 私はお盆に娘達を連れて飛騨の実家を訪れていたが、一泊だけして早々にに帰ることにした。

なるべく早く、陰陽師の風馬(ふうま)くんに相談したかった。

 私は行きつけのスーパーの駐車場に風馬くんを呼び出した。

「何か妖怪?」

風馬君は、20代前半なのに熟年の私に合わせて緊張を解す為にオヤジギャグを言ってくれる。

「幽霊を見たの。それが訳ありだってことが私にでも解る。」

私は単刀直入に言った。

「奥さんの顔見た瞬間に解ったよ。」

風馬くんは五感とシックスセンスで解ったようであった。

「調べてみるよ。少し時間をくれないか。」

と言い残し風馬くんは去って行った。

 私は風馬くんにそんな課題を押しつけて、すっかり幽霊のことは忘れていた。

何せ私は個人事業主、亡くなった旦那が遺した借金に右往左往する毎日、

耳に入る全てのことが全く他人事になっていた。

 風馬くんに相談した一週間後、彼から連絡があった。

「何か分からないけど、あちらの言葉で「死ね、死ね、」って言ってる人がいるよ。」と風馬くんは言った。「もう、誰も信じられない。とも言ってるよ。」

とありのままを報告してくれた。

実は私には心あたりがあった。

幽霊の顔に少し見覚えがあった。

 母の元気な頃は、毎年、毎年行っていた墓参り、自営業で忙しい家だったがお盆の墓参りだけは欠かさなかった。

飛騨から富山県の高岡市への墓参り、海水浴も兼ねているから、子供の私には毎年の楽しみでもあった。

墓参りの後に必ず寄る家があった。墓掃除や墓守をしてくれている遠縁の高田さんというお宅であった。

そこに母より歳上な感じの女性がいた。

母は毎回その人に向かって話しかけていた。

「佳ちゃん、お盆に退院許可もらって来たがけ?」

無口そうな女性は母の質問に黙って頷くだけであった。

「あの人は誰?」と母に聞くと、

「あの人はうちの藤村家の遠縁の娘さんで、昔お手伝いさんに来てもらってたけど、病気になって途中で実家に帰ったみたいなが。」と母は言った。

 私の心あたりに風馬くん情報はピタリとハマった。

風馬くんは陰陽師の仲間を集め、立山の秘密の秘境に注連縄を燃やして、何かを呼び出した。

予想どうり一人の女性が浮かび上がって来た。

女性は言った。

「おじさんと一緒になりたかっった。一緒になりたかった。一緒なりたかった。

だけど今は誰も信じられない。」

と繰り返すばかりで、陰陽師仲間の話には全く耳を貸そうとはしなかった。

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