第6話 魔王軍


 幽霊屋敷での戦いの翌日、俺、ノア、レイチェルの三人は冒険者組合ギルドで報酬の分配をしていた。


 そんな時、ギルドの受付嬢が声をかけてきた。


「緊急クエストです。今すぐ現場に迎えますか?」






 俺達は街から離れた所にある小さな村に来ている。理由は、俺達がとある依頼を受注した―もとい押し付けられたからだ。


「なんでウチたちが依頼クエストに…」


「仕方ないだろ。私達には責務があるのだ。

 まあ、文句がないと言ったら嘘になるがな。」


 ノアの愚痴にレイチェルが答える。


「しかも、なんでウチ等が『魔王軍の対処』なんて依頼を受けないといけないのさ。そういうのは騎士様の仕事だろ?」


 ノアがさらに愚痴をこぼす。

―ていうかさ、疑問なんだけどさ―


「魔王軍って、何?」


「「は?」」





―魔王、この世界を狂気へと落とそうとする者。

 人族の調和や規定を壊そうと、たびたび進行し、毎回甚大な被害を及ぼす、人類の敵。

 そんな魔王に忠誠を誓う者達は魔王軍と呼ばれ、冒険者の討伐対象となっている―らしい。


 冒険者の常識みたいで、二人にみっちり教えられた。


「ここが奴等の隠れ家とされている場所だ。」


 悪の組織感溢れる建物を、レイチェルは指さす。


「隠す気ねぇのかよ」

「あれが美徳だとでも思ってんじゃね?」

「にしても酷くね?俺達に見つけてください、って言っているみたいだろ。」


 薄暗い森の中に、ネオン(?)煌めく建物があったら誰だって怪しいと思うって。


「まあ、私達にとっては好都合、正面突破といこうじゃないか。」






 レイチェルが、建物の扉を蹴り飛ばす。


「侵入者だ!出会え!」


 魔王軍の手厚い歓迎。仮面を着けた男共がレイチェルに向かって斬りかかってきた。

 しかし、その攻撃は空を斬る。軽い身のこなしでレイチェルは斬撃を躱し続けた。


「多分だけど、あいつら【下級悪魔レッサーデーモン】だ。

 実体がないから、斬撃は効かないぞ。」


 ノアが助言をする。

…何で種族が見極められるんだ?俺には仮面をつけた黒装束のおっさん達にしか見えないのだが…


「わかった。得意ではないのだが、あれを使おう。ヒナト、時間を稼いでくれ。」


 レイチェルの掛け声に合わせ、俺とレイチェルは立ち位置を帰る。

 そして、俺の後ろに下がったレイチェルは心頭滅却を始めた。


「精霊達よ、私に恵みを、力を、勇気を―」


 赤、青、黄―淡い光が、レイチェルの周りを漂い、力をレイチェルに貸し与える。


「【虹幻之蒼穹レイン・アロゥ】!」


 レイチェルの掛け声に合わせ、彼女の周囲を廻る光の粒が敵に向けて突っ込んでいった。光線が悪魔達を貫き、致命傷を与える。


「流石は元聖騎士団団長。最上位クラスの精霊魔法―虹を使えるなんてな。」


―元聖騎士団団長―最上位クラスの精霊魔法―レイチェルが相当な実力を持つことはわかっていたが、まさかそこまでの強さを秘めていたとは。


―聖騎士団―王国の盾。自然の力に溢れる精霊と契約し、更なる力と、精霊魔法を手に入れた、この国の誇る最高戦力だ。

 その中でも、団長クラスの猛者しか使うことの出来ない魔法が、虹の魔法。火、水、雷―多種多様な属性の精霊に協力してもらい、全てを貫く虹の光を作りだすのだ。


「二人共、ボスが来るぞ。

 受肉した、【上位悪魔グレーターデーモン】だ。」


 施設の奥から、黒仮面の悪魔が一人現れた。ノアの推察によると、受肉して上位の存在へと登った個体のようだ。


「お前は暴れすぎた!これでも受けて静かにしてな!」


 ボス格と思わしき悪魔が、レイチェルに向けて魔法弾を放つ。

 レイチェルは、放たれた魔法弾を、精霊の力を宿した剣で斬り打ち消そうとする。

 しかし、その魔法弾はスライムのような材質に変わり、逆に手足を拘束されてしまった。


「レイは戦えないだろうし、ウチがやる。二人は下がっていてくれ」


 俺はノアの指示に従い、動けないレイチェルを抱えて戦場から離れる。


「俺の相手はお前か、自称天才。」

「自称じゃねぇってところを見せてやる!【氷結散弾銃アイシクル・ショットガン】!」


 ノアが左手で構えた銃の口から、氷の弾丸が飛び散る。

 しかし、どこからか現れた鋼の盾が、悪魔の身を守った。

 武器や防具をその場に応じて召還し、余多の手段で敵を追い詰める。強い戦法だ。


「それなら、【火炎銃フレア・リボルバー】!」


 続けて、ノアは右手で構えた銃の引き金を引いた。銃の口から炎の弾丸が放たれる。急激な温度変化による物質の軟化―弾丸は盾を貫き、悪魔の腹部を抉った。


「―クソ野郎が!これでも喰らえ!」


 悪魔は苛立ちの表情を見せ、鋼鉄の剣を呼び出し、ノアへ斬りかかろうとする。


「―【火炎防護壁フレア・フィルター】!」


 ノアは懐から装置を取り出し、前方に投擲した。装置は火を吹き、炎の壁が二人を別つ。

 ノアは近距離戦が得意ではない―と思う―ので、一旦距離を取ろうとしたのだろう。


 しかし、悪魔は何も躊躇せず、炎の壁を突き進んだ。肉の焼ける臭いがする。


「マジかよ、頭沸いてんじゃねえの?はぁ―」


 ノアは悪態を吐き、虚空に手を伸ばす。


「光栄に思え、これを拝めるんだからな!

 抜刀、【ナギ】!」


 虚空から抜かれた、翡翠色に輝く一本の刀。

 あの刀が放つ気配は別物だ。多分、幾千の戦いを乗り越えて来た業物なのだろう。


 悪魔の振るう剣に、ノアは刀を当てる。

 すると、悪魔の持つ剣は真っ二つに割れた。


「―な!?」


 予想だにしない出来事に、悪魔は割れた剣を落として困惑する。

 その隙を、ノアは逃さない。素早く懐に忍び込んで、刀を一振。


「そんなナマクラじゃ、ウチの刀にゃ傷一つつけられねぇ。次は勇者の剣とか持ってきな。」


 真っ二つに割けた悪魔に向かってそう言って、ノアは刀を虚空に納める。


「…クソ…野郎…」


 負け惜しみの言葉を残し、悪魔の体は塵となり霧散していく。

 ノアは、なんとも言えない表情を浮かべ、悪魔が消えていくのを眺めていた。


「んじゃ、帰ろうぜ。仕事も終わったわけだしさ。」


―どこからあの刀を呼び出したのか、どこであそこまでの技術を身に付けたのか、聞きたいことは沢山あるが―無関係であるはずの俺が、彼女の秘密に深入りしないほうが良いだろう。


「そうだな。戦利品でも拾って帰るか。」

「―何故、今回何もしていないはずのヒナトが仕切っているんだ?まぁ、私も対して何もしてないが…」

「適材適所、今日は俺達の出番が無かっただけだ。今度は活躍してやるよ。」


 お互いに軽口を叩きながら、俺等は魔王軍のアジトの中を探索し、戦利品を物色する。




 こんな依頼を、仲間達と協力して解決するのも、悪くないのかも知れないな。

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ギャンブル勇者の下克上 ゆずれもん @Natu-Mikan126

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