第5話 グタグタパーティー


 昨日は大変だった。まだ疲れが残ってる。

 今日はのんびり過ごせるようにと祈り、俺は冒険者組合ギルドに入った。


「おお!来てくれたな!ヒナト!頼みがある!」


 レイチェルに目を付けられてしまった。

 どうやら、平和な一日は訪れないようだ。


「それで、頼みって?内容と報酬によっては手を貸すけど。」

「え、いや…その…」


 レイチェルが答えたくなさそうに言い澱む。

 言い澱むってことは、それだけ面倒なことなのか?

 

「そのことなら、ウチが説明する。

 ヒナト、お前にはウチ等とパーティーを組んで、とあるクエストを一緒に受けてほしい。」


 ブカブカの白衣を羽織った、白と黒が交互に入り交じったような髪色の少女が、レイチェルの背後から顔を出し、レイチェルの代わりに俺の問いかけに返答してきた。

…誰?


「初めまして、だな。

 ウチはノア。流離いの天才科学者だ。

 お前のことはレイから聞いた。先日は、レイが迷惑をかけたな。」


 自称天才、痛いな。彼女の低身長も相まって、中二病の少女っぽさが際立つ。


「…それで、なんで俺なんかに声をかけた?

 Aランク冒険者のレイチェルなら、俺なんかに頼らず、だいだいのクエストを一人で完遂出来るだろ?」


 レイチェルに出来なくて俺が出来ることといえば、味方も危険に巻き込むような魔法くらい―たかが知れてる。


「それがな、こいつ心霊系が滅法ダメで、今回受けることになったクエストじゃあ使い物にならないんだよな。

 ウチみたいな後衛職一人じゃ流石に厳しいし、レイの知り合いな上で前衛が出来る奴に、片っ端から声をかけてたんだよ。」


 つまり、俺じゃなくても良かったと。


「…報酬は山分け。それで乗った。」




 住宅街から少し離れた所に位置する、かなり大きめの洋館―跡地。

 かつて、ここら一帯を統治していた貴族が暮らしていた屋敷らしいが、世継関係で血族間での争いが勃発したことで、ここの主は亡き者となり、屋敷も大半が燃えて消し炭となった。


―が、地下室はそのままの形で残っていたらしく、屋敷で死した人々の魂が地縛霊となってそこに残留。

 このままでは何が起こるかわからないため、ここに住まう全ての不死者アンデッドを浄化するか、地縛霊共をこの世に縛り付ける何かを消失させてこい、という内容の依頼だ。


「…俺、こういうの苦手なんだけど。」

「ウチもだ。まぁ、こいつに比べたら余裕だがな。」


 恐怖で震え、ノアが手を繋がないと一人で歩けすら出来ないレイチェル。戦力にならなそうだ。

 そんな姿に呆れつつ、屋敷の地下室へと繋がる階段を下っていると魔物が出た。小幽霊ホロゥだ。


「ひっ!!」


 レイチェルは叫び声を上げ、逃げだした。


「そんなんなら、何故律儀についてきたんだ…」


 醜態を晒し続けるレイチェルに呆れ、俺はため息をつく。森ではあんなにかっこ良かったのに、ここじゃあまるで頼りにならねぇな。


「あいつは戦力にならないし、ウチがやる。

 丁度、新作兵器―【魔法拳銃マジックマニューバー】の試運転もしたかったしな。」


 ノアはそう言って、腰のベルトに掛けていた銃?らしき武器を両手に構えた。


「試作品第一号の実験台となれた事、光栄に思うがいいんだぜ!」


 ノアは笑みを浮かべ、小幽霊エモノを睨み付ける。狩人の目、背筋が凍り付くぜ。


「【火炎銃フレア・リボルバー】!」


 ノアの持つ銃が火を噴き、銃から放たれた炎の弾丸が、ホロゥを貫いた。ホロゥが断末魔を上げる。


「終わったことだし、早く進もうぜ。」


 自作の銃の出来映えに満足げな表情で、彼女は先へ進むことを催促した。





「本当に、ここに怨霊を縛り付ける何かがあるんだよな?」


「だ、大丈夫だと思うぜ…なんてったってウチの見立てだからな!」


 そう言って何回も外し、やけに広い屋敷の地下室を駆け巡らされたのだが…

 部屋に入ると、中は書斎だった。古い本特有の独特な臭いがする。


「あれだ!あの本から物凄い魔力を感じるぜ!」


 机の上に乗った、おぞましい雰囲気を醸し出す分厚い本。確かに、あれはアタリだな。これでやっと仕事が終わる…


「――――ッ!!」


 途端、魔物―大きな鎧に取り憑いた亡霊―が本棚の影から飛び出て来た。


「あれは【亡霊武者】―B+ランクの魔物か。面倒くさいな。」


 B+ランクの亡霊武者―似たような見た目の動鎧リビングアーマーとは違うのか?


「お前の二丁拳銃マニューバーを使えば太刀打ち出来ないのか?」

「あの鎧、魔法に耐性があるっぽいしな。試してみるけど、足止めくらいにしかならねぇと思う。」


 魔法耐性のある不死者アンデッド―物理攻撃無効って反則じゃね?流石B+ランクの魔物の強さだ。

 そんなことを考えていると、俺に向かって、鎧が構えた太刀を振り下ろした。

 すんでの所で、俺は体を捻り斬撃を回避する。


「くらいな!【魔法爆弾マジカ・ボム】!」


 ノアが手榴弾らしき物を懐から取り出し、鎧に向かって投げつけた。

 手榴弾が爆発し、鎧が爆風に飲まれる。


「――ッ?」

「うわ、ピンピンしてやがる。あれ、今のウチが出せる最高火力なんだけど。」


 鎧の反応を見て、ノアが愚痴をこぼしつつ、近くの物陰に隠れた。

―ノアに有効打がない。レイチェルは、幽霊恐怖症によって初っぱから戦闘不能。戦えるのは俺だけ―


「こいつに勝ったら追加報酬貰うからな!」


 俺は軽口を叩いて自分に喝をいれる。

 これで少しは風向きが変わっただろう。博打ギャンブルの始まりだ。


「ノア!時間を稼いでくれ!【天恵ギフト】!」


 一度目の博打。これがダメなら、マジで逃げるしか手がなくなる。

 ノアにかかったのは―【魔力増強】―ノアの使う魔法の威力が上がった。アタリだ。


「ノア、頼んだ!」

「言われなくてもわかってるって!」


 ノアはそう言い、銃口を鎧に向ける。


「【氷結散弾銃アイシクル・ショットガン】!」


 ノアが銃のトリガーを引くと、銃口から氷の礫が無数に飛び散った。当たった礫が霜を張り、鎧の動きを鈍くさせる。

 これで少し時間が稼げた。残りは俺が賭けに勝つだけ


「【天裁ジャッジメント】!」


 光の柱が鎧を包み込む。今回は聖属性魔法の何かが選ばれたらしい。

―聖属性はアンデッドに強い。この場に最も適した魔法が選ばれたのだ。つくづく俺は運の良いやつだな。


「せ、聖魔法?―それが使えるなら最初から使えっ!」


 ノアからの激励。戦いには勝ったんだからいいだろ!


「―とにかく、早いところこの本を処分してここから出ようぜ。」

「ウチもその意見には大賛成だ。その本を貸せ、燃やしてやるぜ。」


 ノアが本を手に取り、銃口を突きつけた。


「あ、でも火力は調整しろよ?価値のある物がまだここにあるかもしれないし。」

「やっていることが火事場泥棒じゃねえか。

…ウチが処理している間に探しとけ。」


 俺の意見に共感してくれるような同類がいて良かった。俺はレイチェルを呼んで、書斎にある金目の物を探す。


「…探せど探せど、横領や裏金の証拠しか出てこないな。

 結局、見つけられたのははした金になる程度の歴史書が数冊くらいか。」


「終わったか?それなら帰ろうぜ。」


 結局、大した成果も得られずに、俺達は屋敷から立ち去った。







「危ない、危ない。私が貯めたヘソクリが無に帰るところだったな。」


 燃え盛る屋敷の中、仮面を付けた黒髪の女性はそう言って笑った。

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