第4話 騎士
「ゴホッ、ゴホッ」
口の中に残っていたスライムの残骸が気管に入り、盛大に咳き込んだ。
「大丈夫か?これを飲むと良い。」
桃色の髪をウルフカットにした、出るところは出て、締まる所は締まった美しい騎士様―レイチェルはそう言い、水の入った水筒を俺に手渡してきた。俺はそれに口をつける。
ちょっと待て、これってもしかしてか、か、か、間接キス…
「君、名前は?」
「ヒナト、ヒナト・アラキです。」
唐突に名前を訪ねられたので、俺は慌ててしまった。返事の声が裏返る。
「ヒナト―良い名前だ。
それじゃあ、健闘を祈る。じゃあな。」
俺に命の危険がないことを確認した彼女は、優雅に立ち上がり、その場を立ち去ろうとした。その所作に思わず息を飲んでしまう。
しかし、礼を言っていないことを思いだし、少し飛んでいた意識が現実に戻った。
「ま、待って、お、お礼を、お礼をさせてください!」
俺はそう言い、彼女を呼び止める。
「そうか、お礼か…
よし、じゃあ飯でもおごってもらおうかな。夜の七の刻、そこの場所に来てくれるか?」
俺の呼び止めで振り返った彼女は、俺に待ち合わせの場所を伝え、その場を去った。
待ち合わせの時刻となった。俺は指定された場所で待つ。
「悪い、待たせたな。」
「大丈夫です。僕も今来た所なので。」
本当は十分程待ったのだが、男が女を待つのは義務だしな。そんなことで一々苛立っていたら、紳士にはなれないだろう。
レイチェルの案内で店にたどり着いた。
店の雰囲気は酒場のようで、彼女の持つ、高貴なイメージとは合っていない。
もっと御上品な店に入ると思っていたので、俺の持ち合わせで払いきれるか不安だったが、この店でなら大丈夫そうだな。
「旦那、いつものを出してくれ」
店に入ったレイチェルは、店主に食事の提供を頼んだ。俺もパンとスープを頼む。
―ちなみに、俺は酒が飲めない。昔に度数の高いやつを飲んで死にかけたことがあり、それがトラウm―それを教訓に酒を飲まない事にしたのだ。
料理と酒瓶が来た。それ等が来ると同時に、レイチェルは酒瓶を開け、凄まじい勢いで酒を飲んだ。しかもまさかのラッパ飲み。一瞬にして酒瓶の中身が半分に減った。
「今日も良い飲みっぷりだな、姉ちゃん。そんなに度数が高い酒を、割らないでそのまま飲むのはお前だけだぞ。」
店主さんが、大きく笑ってそう言った。
―ちょっと待て、度数の高い酒って、値段もそれだけ高いんじゃ…?
不安になった俺は、店主さんにあの酒の値段を訪ねる。
「いや、あの酒は度数が高いだけで値段は対したことねぇぞ。ただ、あいつがあれを何本も開けるとなると話は変わってくるがな。」
不味い。酒を二桁本目まで開け出したら、全額払える自信はないぞ。
「ぷはぁ、どうしたヒナト、食わないのか?ここの飯は美味いぞ。」
酒を飲み、顔を赤らめたレイチェル。口から漏れ出てる吐息がとてもエロい。
服も脱ぎだして、まるで俺のことを誘っているみたい…
「って、店で脱ぎ出すな!
店主も何か注意してくださいよ!」
「まぁ、いつものことだし、止める程のことでもないからな。」
いつもこうなのかよ。レイチェルって酒癖が凄まじく悪いのか?
「おい!レイチェル!また俺らの縄張りに入ってきたのか!?」
突然、山賊っぽい奴らが俺等―主にレイチェル―に絡んできた。
「店主さん、こいつらって…」
「ああ、ここら一体を縄張りにしてるならず者だ。ちょっと前にレイチェルに絡んで返り討ちになったし、もう懲りたと思ったが、まさか人数を増やしてやって来るとはな。」
そんな事があったのか。だったら、俺はこいつらから離れておこう。
こいつらはレイチェルに用があるわけだし、面倒事に俺は巻き込まれたくないしな。
「久しぶりだな、ゴロツキ、喧嘩だったら付き合うぞ。
まあ、私に勝てる訳ないのだがな。」
「ふ、自信ありきじゃないか、やってやる、やってやるよ!」
レイチェルの挑発で、ならず者達が激昂し、酒場の中で喧嘩が始まった。一連の流れを聞いていたのか、早くも野次馬が集まってくる。
「またやってるぜ、あの馬鹿は。」
「レイチェルってAランク冒険者だろ。そんな奴に喧嘩で勝つなんて、王宮の騎士様くらいだよ。そこら辺のならず者を何人呼んだって勝ち目はねえってのにな。」
えっ、レイチェルそんな強いの?
…そう言えば、Aランクの魔物であるスライムに単独で勝利したんだった。それならば、それだけの実力を兼ね備えていても可笑しくないか。
そんな言葉を他所に、ゴロツキの一人がレイチェル向かって殴りかかった。レイチェルはそれを華麗に避け、ゴロツキを掴み、投げ飛ばしす。投げられたゴロツキは酒場の机に向かって飛んでいき、机に勢い良くぶつかった。その反動で机が壊れる。
もう一人、二人とゴロツキ達がレイチェルに向かって行くが、レイチェルに軽くあしらわれて、戦闘不能にされていく。
酒が回っているはずなのに、冷静に攻撃を対処している。流石はAランクの冒険者だ。
レイチェルが、敵のボス格を蹴り飛ばし、戦いは終止符を得た。その衝撃で様々な物が壊れたが、見物人はお構いなし、騒ぎ立てる。
とうの本人は、既に眠ってしまったがな。
「すみません、お騒がせしました。これ、代金です。」
「イイものが見れたぜ、あんがとよ。
後、ここがレイチェルの家だ。よくあることだし、知ってんだよ。」
店主は地図を見せ、彼女の家の場所を指し示した。
俺はレイチェルを担ぎ、その場所へと向かう。
レイチェルの家に着いた。俺はレイチェルの懐から鍵を奪い、彼女の家に入る。
部屋に入った途端、異臭がした。玄関に入っただけでもわかる。この部屋は…
「相当なゴミ屋敷だな。早く出よ。」
ゴミを少しどかし、そこにレイチェルを寝かせて、俺は部屋を出た。
疲れた、今日はなんかめちゃ疲れた。明日からは楽出来ればいいんだけど。
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