アフターエピソード3 賭け事の結末/異世界といえばこれでしょ

「ねぇリヴィス!このポップコーン?ってお菓子。超美味しいわよ!現代ではこんなお菓子が生まれていたのね!ホットドックも相変わらず美味しいわ!」

 冒険者ギルドの仕事で得たお金をふんだんに使って屋台の料理を買い込んだエパは、とても美味しそうにそれらを口の中へとほうむっていく。

 故郷の地下街から出たばかりの俺なら同じ様な反応をしていたかもしれない。確か、昔読んだ本には、1000年前くらいに現われた勇者様がこの奇妙な菓子達の知識を広めたと書いていた。ポップコーン、アイスクリーム。電気といったものはそこから誕生した。最も、電気などあまり使われなかったものは今衰退してしまっているようだがな。

 そういえば今、この学園には“魔法科学部”なる部活があって、そこが電気を積極的に使おうとしているとかいう噂を聞いたな。


 そんなことを思いながらこの闘技場から見える空を見上げた。この場所は学園施設のうちの一つ。教師達の目の下で生徒達が公平に決闘や競技を行うことが出来る施設のようだ。

 空に小さく花火が咲き、歓声が沸き上がる。今日の主役共が入場してきたようだ。


 まだ名前も決まっていない、学園をエンジョイする為に集まった俺達三人組は今、“どこぞの馬鹿な田舎者と天才貴族様との勝負は見えている決闘”を観戦しに来ていた。

 まあつまり、俺の全財産がつぎ込まれてしまった賭けの結末を皆で見に来ていたのだ。そうでもなければ、こんなものの観戦に来たりしない。見ているだけは暇そうだからな。そんなことをしている暇があったらギルドで依頼を受けたい。

 今の俺は戦えない身ではあるが、“とっとと兎”などの初心者向けの雑魚敵にならリハビリ程度に戦える。たいした稼ぎにはならないが、ないよりかは増し程度には貰える。ペルフィを名乗る謎のギルド嬢の行方についても情報が欲しいし、意外と冒険者ギルドに用事はあるんだよな。

 まあ何にせよ、自分の生活の為にも早くこの力の出ない状況を何とかしたいものだ。


「勝てー!リヴィスの全財さーん!ほら、ティアちゃんも、リヴィスの為にも応援するのよ!声出して!」

「もぐ。が、がんばれー!」

 食べていたクリームから一度口を離して楽しそうにティアが声をあげる。それを見てエパがうんうんと頷いていた。

「ちょっとリヴィス!あんたのお金なのよ?あんたが1番声張らなくてどうするのよ!」

「いや別に。色々あったし、ちょっとどうでもよくなってる。たしか、勝てば元金の765,346.7倍だったよな。どうなったらそんな数になるのやら。」

「む。ぶっちゃけ、勝負の勝ち負けなんて私だってどうでもいいわ!」

 おい。俺の金だぞ?それはそれでどうなんだ。

「でもね。こーゆーのは楽しむことが大事なの!皆で学園をエンジョイするのが私達なのよ?あなたもそれなりに楽しみなさい。」

 それは……。まあそうかもしれない。でもなんか今一盛り上がれないんだよな。この椅子に肘置きでも付いてあれば、頬杖でも付きながら見るくらいには興味が無い。それでもまあ、形だけは楽しんでみるか。そういうのが案外本当に楽しく思えるようになるきっかけになったりするからな。


「まあ、だったら声を出してやりますか。」

 そうして腕を捲ったところで、試合前の男と目が合った。この距離だ。俺を見たかどうかなど分からないはずなのに、それでもはっきりと俺を見たという感覚が起きた。それは、俺の金が賭けられている方の男で、やつは俺を一瞥だけして直ぐに目の前の相手へと向き直る。

「ちょっと。どうしたのよ。」

「ひひひ。やっぱり、俺は声を出すのは止めとくよ。」

「なんでよ!」

「まあまあ、そうカッカするなよ。エパ。ちゃんと楽しんではいるよ。この戦い、なんだか一波乱ありそうだぞ。」

「何よ。どうして急にいつも試合になると観客席にいて意味深に笑う解説役の近所のおじさんごっこをはじめるの?」

「馬鹿。誰がそんな変なごっこ遊びなんてするかよ。ん?ちょっとそれ見せて貰ってもいいか?」

「これ?いいわよ。別に。」

 エパから今回の対決用に作られた簡易的なパンフレットを借りる。考えてみれば、俺は自分の金が掛けられているというのに、その対象がどこの誰かなんてことは知らない。折角だし、試合が始まるまでに見ておくか。俺がパンフレットを開くと、隣に来たエパが一緒になって覗き込んで来る。


 天才貴族様に喧嘩を売った田舎者に制裁を!パンフレットの見出しはそんな感じだった。

 なになに、辺境の村の田舎領主タウジット家の息子リュート・タウジットが。ておいおい、領主の息子って、こいつもそれなりにいい身分の人間じゃないか。愚かな田舎者って書かれていたから、村の農民や俺みたいな山賊の出の人間だと思っていたのに。

 領主の息子ってことはそれなりの教育は受けられているだろうし、もしかするともしかするのかもしれないんじゃないか。

 そんなことを考えながら説明文の男の方を見て見る。男は黒髪黒目でたっぱはは普通。見た目は特に語ることのないくらい平凡で、あいつから感じる魔力マナ自体の反応も普通だった。総評すると、どこにでもいそうな平凡な男子学生というところか。


 対する相手側は、侯爵こうしゃく家の息子か。確かに地位だけで言えば高いな。英才教育も受けて育つような口だろう。魔法の才には努力では覆せない差があると聞くが、さて奴は天才か凡庸か。

 パンフレットから目を外し、今度は侯爵家の息子さんとやらを見る。名前はディルバ・クランドラ。身長は少し高いくらいで、髪色はローズグレイで整っており、目は糸目の男。偏見でしかないが、見た目だけでも性格が悪そうであり、怪しい感じがプンプンと匂い出ている。

 感じる魔力マナの質は悪くない。才はある。おそらく、貴族連中の中でも割と上位に位置取れる存在であることは間違いないだろう。パンフレットに載った経歴も中々なものだ。俺がこいつの相手をするのなら、ある程度の劣戦は覚悟するだろう。

 この情報だけで判断するのなら、あの領主の息子に勝ち目などないだろう。しかし、先程彼と目が合った時の違和感を考えれば。

 俺はやっぱりこの試合に期待しているようだ。


 この決闘が行われることになったことの発端は、彼らAクラスでの出来事らしい。あのクラスは基本優秀な貴族連中だけで固められているのらしいのだが、その中で数名だけ平民が混じっていたらしい。まあ、貴族がAクラスというよりも、優秀な連中に貴族が多いってだけの話しだからな。一応は実力主義を語る校風上、平民がAクラスになることもあり得た訳だ。そこに、平民と同じクラスで授業を受けたくはないという貴族がいた。貴族が平民を馬鹿にするのなんて常のこと。今回のいざこざも、その延長線上に過ぎないことだった。

 優しい領主の息子が平民側の肩を持って。大方そんな感じだと賭けを受け付けていた生徒が言っていた。少しふわっとしているのは、皆原因とかどうでもいいからだ。このお祭りごとを楽しめるのならなんでもいいのだろう。


 会場内中央、壇上の決闘場に二人が登っていく。

「逃げずに来たことは褒めて上げるよ。」

「逃げる?私がですか。そんなことはしませんよ。はぁ。面倒なことになりましたね。」

 集中力がないのか、領主の息子は相手に視線を合わせずに周囲を見ている。緊張でもしているのだろうか。いや、教師席を見ているのか。何か気になることでもあるのだろうか。

 男の視線を追うと、そこには笑顔でこの試合を観戦する獣人族、狼型の女がいた。あれは確か教頭先生か何かじゃなかったか。1000年前、最強の賢者に仕えていたとかなんとか。そんな文面を入学前に王立ティラ騎士養成学園のパンフレットで見た気がする。

「チッ。いつまでもムカつく態度を取りやがって。君、分かって居るのかい。一応僕は、侯爵家の跡取りなんだよ。」

「ええ。そうですね。存じ上げております。ですが、それがなんだって言うのです。親の努力を誇ってもみっともないだけですよ。マウントを取るなら、せめて貴方自身の功績でないと。それに、この学園は実力主義なのでしょう。行動で分からせてくださいよ。」

「ああ。それは勿論だとも。今にぶっ殺してあげるから、覚悟しておくといいよ。」

「おお。それは楽しみです。こういっては何ですが、私は私より強い相手と戦いたくてこの学園に来ました。せいぜい楽しませてくださいね。」

 そんな口論が続く中、いよいよ審判によって開戦の狼煙が打ち上げられた。


「召喚魔法。火竜サラマンダ。」

 先行を取ったのは侯爵家の息子。ほう。召喚魔法と来たか、あれは結構仕える人間が限られる。魔法に関する殆どのものは、火、水、地、雷を基礎としたものが多い。大体の人間はこの5つの中のどれかか、癒やし系の魔法が一つだけ発現するものだ。基礎として身体能力を強化する系の魔法は全員まんべんなく使えるが、それ意外の魔法は殆ど希少といっても過言ではない。

 召喚魔法に関しても、使用者は少ないだろう。それが引けている時点で、やつは既に優秀枠だ。おそらく家の中でもチヤホヤされて来たことだろう。


 頭の中にジュンザの顔が浮かぶ。こと、魔術師に関してはその限りではなかった。奴らは魔法を術式として解剖し、新しい原理を発見する研究者。自らの体ですら弄り、自然の道理から自ら外れるような頭のおかしい連中が多いのだ。だが奴らの目標は“強さ”ではない為、よく分からない方向へとずば抜けている者が多い印象だ。問題があるとすれば、彼らの研究を悪用しようとする連中だろう。


 侯爵家の息子が召喚した火竜サラマンダに会場から高い歓声があがる。あれは成熟した火竜ではないものの、シルバー級の冒険者が10パーティ以上は編成してやっと倒すような相手だ。もしあの男が魔法の腕を上げようものなら、国家転覆など容易に熟してしまいかねないだろう。あの男が道を外そうものなら、まず間違い無くブェルザレンの山賊ウチか暗殺貴族に依頼が来るだろう。


 侯爵家の男は、そのまま数匹の魔物を召喚する。それらは火竜サラマンダには遠く及ばないモノだらけだったが、火竜それが居る状態では厄介極まりないモノだらけだった。


「さて。どうする?リュート・タウジット」

 奴の布陣を前に、誰もがリュートの絶望顔を期待しただろう。だが、その顔はこの場にいる誰もが想像もしていなかった嫌そうな顔をしていた。

「召喚魔法。それは確かに珍しくて素晴らしい魔法ですけれど、やはり魔物と戯れているというところに嫌悪感が。やつらは人類の敵ですよ。正気ですか。」

「敵だろうがなんだろうが、使えるものは使うまでさ。それよりいいの?魔法の詠唱とか始めないで。そのままだと死ぬよ。君。」

 いいながら侯爵家の男、ディルバが突撃の指示を出す。それを見て会場にいる全員がエグいなぁと思った。

「はっはっは。いきなりギガントファイアを撃つとは。悪いね。僕の火竜サラマンダがやんちゃっこで。」

 まだ成長途中でありながらあの火竜、炎系魔法の中でも高位なギガントファイアを使用するのか。それをあのリュートとかいう奴。逃げも隠れもせずに真正面から受けやがった。これは流石に勝負あったか。

 会場では、「マジかwww死んだわ、あいつ。」「おいおい。もう終わりかよ。つまんねー。」なんて声が上がっていた。だが、次の一声で全員が押し黙ることになる。


「ケホッ。コホッ。全く、煙たいですね。」

 煙の中からピンピンの状態でリュートが出て来る。彼はまるでたき火の煙でも煙たがるように手を振りながら顔を出す。そして彼は自分の体を見て。

「ふむ。やはりこの程度ではなんともないですね。まあ、今のはまだ手合わせ程度なのでしょう。じゃあまあ、私も手合わせ程度に。」

 その瞬間、空気が変わった。先程までただ凡庸だった筈のリュートの魔力マナが、この辺り一体を多い尽くしてしまうほどの巨大なものに変わる。まさか、実力を隠していたのか。こいつ。

 俺の手が彼を警戒して、禄に剣も握れないくせに剣塚に手を伸ばして震えていた。会場の人間の顔色も蒼白に変わる。

 この魔力マナには、ノネキストダンジョンから伸びた光と全く同質の影響があったのだ。


「まさか。火竜サラマンダのギガントファイアを生身で受けるとは。」

「は?ギガントファイア?」

「ふふ。嬉しいね。これを耐える相手なんて初めてだ。久方ぶりに、僕も本気が出せるというものだ。」

「はぁ。そのように格好をつけても滑稽なだけですよ。お気持ちは理解出来なくもないですがね。」

「なに?」

「低級魔法に恥ずかしい名前をつけたり、もったいぶって発動してみたり。そういうお年頃なのは理解出来ますが、やめておいた方がいいですよ。そういうのは、得てして大人になって後悔することになるものなのです。」

「君は、一々癇にさわることを言うね。そこまで言うのなら見せて上げるよ。僕の召喚獣達の力を。」

 彼の召喚獣達が一斉にリュートに対して魔法を放つ。だがリュートはそれに対しても一切手を加えるようなことはせず。生身で受けて見せた。無傷の彼を見て、ディルバは目を見開いた。

「なん、だと。」

「ふむ。この程度ですか。貴方の本気とやらわ。」

 リュートは開戦の狼煙が上がってからその場を一歩も動いていない。ディルバの召喚獣達からの総攻撃を食らった後なのにも彼はまるで何事もなかったかのように制服についた埃をパッパと払ってみせた。


「それでは、次は私の番といかせて貰いましょう。そういえば、聞き捨てならない言葉がありましたね。先程の火竜サラマンダが放った魔法がギガントファイアとかなんとか。そんな訳がないでしょう。ですよ。」

 全身から鳥肌が立った。つい最近、俺は同じような言葉を聞いたのだ。


「どうやら皆さんご存知ないようですし。このまま魔法の創造主を侮辱されるのは少し頭に来てしまいます。折角ですし、見せて差し上げましょう。を。」

 瞬間、体が動いた。嫌な予感がする。この流れで出て来るものは、ディルバを殺しかねない。あんな無茶苦茶。ジュンザくらいしか出来ないものだと思っていたのに。


「待って!リヴィス君!」

 しかし、この体が闘技場へと飛び出す前にティアによって引き止められた。

「今の貴方は無茶しちゃ駄目!前の時とは違うんだよ!そんな体じゃ……。今度こそ、本当に死んじゃうよ!」

「っ。そうだが、だからって何も出来ないのは」

 背後で暴風が巻き上がり、灼熱の温度が会場を熱する。観客席で観戦する生徒の何人かはびびって思わず失禁した。目の前の光景は世界の終焉に隕石が落ちて来ているような光景となんら変わり無いものになっている。

 巨大な火球が、この闘技場から見える空を多い尽くした。

 振り返れば、そこにはノネキストダンジョン最下層で見た絶望が出来上がっていた。空を多い尽くすような巨大な火球。どうみてもオーバーキルの理不尽大技がディルバの身に降りかかろうとしていた。

 いや、ディルバだけの犠牲に留まらない。あの大火は、この学園ごと吹き飛ばし兼ねない。


 ここで動かなければ、確実に死ぬ。だが、俺が剣を握られれば或いは。


「悪いティア。やっぱりこれは、見過ごせない。」

「っ。」

 真剣な顔で彼女を見る。俺の意志は揺るがない。

「……。どうしても、駄目なんですか。」

「ああ。すまない。」

 視線を落したティアの手が服から離れる。途端に俺の足は駆け出した。剣を握った手が、一撃凌ぐ程度ならなんとかなると訴えているような気がしていた。

 見えやすいように斜めに建てられた客席を下り、試合会場と客席とを隔てる塀の上、観客が落ちないように注意書きの貼られた手すりの上に足が乗る。

 巨大魔法の発動主が俺を見るが、特に此方の妨害をするような様子はない。ならば、真っ正面から向かうのみ。

 見据えるは、空に佇む巨大火球。俺はコイツをもう一度斬る!


 剣に手を掛け、空へと跳び出す瞬間に接近する影を捉えた。

「はははっ。今良い所なんだ。あいつの邪魔をするな。山賊。」

 教頭先生!?早い。一瞬で距離を詰められた。だが攻撃の動作は問題なく見えている。これなら避け切れ……っ。


 体が悲鳴を上げて眉が歪む。いつもなら躱せるはずのそうの蹴りを、俺は無防備なまま横っ面に受けた。そのまま蹴飛ばされた俺は闘技場上部に付けられた掲示板へと打ち付けられた。普段は魔道具によって会場全体に試合風景が見えるように映像が映し出されるそこで、俺は口から血を吐き出す。

 俺の衝突によって試合映像が乱れる。右頬が晴れていたい。右目も少し開け辛くなってしまっている。チクショウ。あの獣人、まあまあ本気で蹴りやがった。

「あんた、ウチの団員に何してくれてるのよ。」

 エパが俺の仇を取るように教頭を蹴り飛ばそうとして、そこでの戦闘が始まっていた。俺も直ぐに加勢に出たかったが、体は言うことを聞かない。頭上の熱に当てられて顔を上げる。俺はただここで、ことの顛末を見守ることしか出来ない。そんな自分に腹が立って舌打ちを打つ。


 次の瞬間、この会場にあの火球は落ちて来た。


 試合は、リュートの圧勝によって終わりを迎える。

 粉々に消し飛ばされたディルバは、リュートの魔法によって蘇生された。蘇生魔法自体、失われた古代魔法で現代では失われた秘法だ。やつの力は度を超えている。

 この辺り一帯は、普通なら先の一撃で粉塵と貸す筈だった。だが、それもリュート自身が学園に貼った防御魔法のおかげで現実になることはなかった。彼はただ、ディルバだけをあの大技で他に被害も出さずに仕留めて見せたのだ。


 その異常さを前に。規格外の男を前にして、俺は思わず笑ってしまうしかなかった。

 なんだよ。それ。……クソが。


「なぜお前が、失われた古代魔法を使える。それにおかしいな。あれがギガントファイアと呼ばれたのは、1000年も昔の話しだぞ。」

「さ、さあ。なんででしょうね。」

 試合が終わった後、勝者となったリュートという男は、何故か教頭に詰め寄られていた。


「大丈夫?リヴィス。」

「エパ……。お前、強かったんだな。」

 軽々と俺が埋まった掲示板までジャンプして来たエパは、俺に手を差し出してくれる。

 一時とはいえ、あの教頭と互角にやり合っていたのだ。パンフレットに書いてあったことが本当なら、あの教頭も相当な手練れであることは間違いないだろう。俺が普段通りならどこまでやれたんだろうな……。

「そんなの当然じゃない。私はこれから貴方達を纏める団長なのよ。それなりには強くなければ示しが付かないじゃない。」

 目が丸くなった。なんだ、その騎士団か賊の集団のような考え方は。俺達は、そんな堅苦しい集団ではない筈で。

「はは。ばかか、お前。俺達は学園生活をエンジョイする為の集団だぞ。リーダーに強さなんか求めてねぇよ。」

「んー。言われてみればそうかもね。でもまあ、強いに超したことはないじゃない。」

「そうかもな。」

 俺は彼女の手を取って立ち上がる。降りる為に下をみれば、そこではティアが居心地悪そうにもじもじとしていた。

 俺はエパと一緒に壊れた掲示板の中から飛び降りる。


「あの、リヴィス君。」

「心配してくれてありがとな。エパ。止めてくれて嬉しかったよ。」

「だったら、止まってよ。」

「悪い悪い。そういう性格でな。」

「ばか。取り敢えず、傷を見せて。」

 ティアが赤く腫れた頬に触れると、ほのかな温かさと共に痛みが引いていく。

「やっぱり、ヒーラーは入れておいて正解だったわね。」

 その様子を見ながらエパはうんと頷いた。


 こうして、俺の勝手にエパに有り金全部賭けられた事件は完結した。


 手に入れた大金は、貧民街で大宴会を行い、残りを全額寄付したことによって盛大に使いきった。それは、ミミレと貧民街の人達とお腹を満腹にさせながら笑いあう幸せな時間になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コラプスティラアカデミア厶 十六夜 つくし @menkouhugainotama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ