アフターエピソード2 エンジョイ学園三人!
「リヴィス君!」
俺へと課された、心理かカウンセリングという退屈。ノネキストダンジョンの件以降、俺は定期的に学園にいるカウンセリングの先生と話しをすることを余儀なくされてしまっていた。本当はフライア先生自身が自分でやりたかったようだが、彼女は彼女で忙しいらしい。だったらやらなくてもいいと思うのだが、それは駄目みたいだ。
サボったら後で大変な目に合うだろうなので素直に受けてはいるが、カウンセリングによる効果は特に見られなかった。ただただ面倒臭いだけ。
まあ、今の俺に必要なものではないのだろう。
今日も退屈な応答を数通り熟し、職員室から出たところで珍しくティアに話掛けられた。
「ティア。」
振り返る。両手をもじもじとさせながら俯いた彼女がそこにいた。思えば、こうして二人で話すのは久し振りかもしれない。
ノネキストダンジョンの一件があって以降、フライア先生にミミレ、エパと何かと俺に絡んでくる奴が多かったからな。個人的にやっている
思えば、ノネキストダンジョンはほぼ二人で生き残ったのに近いのにその後に一度も会話をしていないのは不自然過ぎた。
「どうかしたか?」
少し手をにぎにぎと握ってみる。心の治療よりもして欲しいことがあるのだが、こっちの治療には協力してくれないのか。
そんなことを思っていたのだが、その手は自分よりも小さな手によって包み込まれる。
「あの、怪我。大丈夫かなって。思って……。」
少しだけたじたじになりながら心配そうに彼女が俺の手を触る。そういえば、エパを助けた後に一度こいつの目の前でぶっ倒れていたっけな。
「すまんな。ティア。後は、頼んだ。」
……。⁉
そうだよ。そうだったよ!俺はこいつの前で格好付けたし、めっちゃ死にそうな感じを出していたんだったよ。何が後は頼んだだ馬鹿!その後起き上がってこいつらを崖上まで運び上げてんじゃねぇかよ。死ねよ!
急に恥ずかしくなって来て顔が熱くなってきた。
「あ。ああ。怪我、ね。大丈夫だよ。一応。あの、なんかすまんな。あんなに死にそうな感じ出しておいて……。」
「な、何を言ってるの。生きていてくれて本当に嬉しかったんだよ。私。ねぇ、知ってる?リヴィス君。私だってあの日、桜木の下でエパリヴちゃんと一緒に君を待っていたんだよ。」
あの日って、俺がエパとこの学園生活を楽しく過ごす為の同盟を組んだ日か?んー。ティアがいたような気配は特になかった気がするのだが。
「でも時間になったらフライア先生に怒られちゃって。聞いてよ!エパリヴちゃんったら酷いんだよ!自分だけとっととどっかに行っちゃって。私だけ……。」
ティアがぷりぷりと悔しそうに怒っている。そうか、よく考えて見ればフライア先生がそう簡単に遅刻を許してくれる訳ないもんな。寧ろエパの方はよくとんずらこけたものだ。
「それからだって何度も声をかけようと思ったんだよ?なんたって私達は“ともだち”、だしね!」
少し照れ臭そうに腰をもじもじとさせながらティアが“友達”という言葉を自分で言って嬉しがる。なんだこいつ。
「でもなんかリヴィス君はエパリヴちゃんと楽しそうにしてて……。」
「話しがしたかったのなら、ティアも入ってくればよかったじゃないか。エパも別にティアが入って来たところで何も思わないと思うぞ?」
「そんなこと出来る訳ないじゃん!リヴィス君には分からないかもだけど、私みたいなのはね?2人以上の人間が会話をしている輪にはそう簡単に入っていけないの。ハードルが高すぎるんだよ!」
ティアは、手をぶんぶんと振りながら口を尖らせて抗議してくる。
お、おう。なんか、溜まっているんだな。
「あー!いたー!あんた!こんな所で何をしているのよ!」
俺がティアに若干引いていると、廊下の向こうから聞き覚えのある鬱陶しい声がした。その声が出て来た途端、ティアは彼女から隠れるように俺の背中へとささっと潜む。その素早さは凄く、心の中で「こいつ、プロだ。」と思ったほど。
廊下の先に現われたのはエパだった。彼女は俺を見つけるとずかずかと近づいてくる。
「あんた、こんなところで何をやっているのよ。」
「何って、いつもの心理カウンセリングを受けた後だけど。」
「ふーん。ならラッキーね。あんた、いつもカウンセリングが終わると私を待たずに帰っちゃうんだもの。」
「俺にだって、偶には一人になりたい時もあるんだよ。お前とは毎日ほぼ一緒にいるんだから別にいいだろうが。」
そう言えば、エパは少しだけ不服そうな顔をしたものの、特に言い返してくることもなかった。
「おっと。こんなことをしている場合じゃないわ!リヴィス!あんた、私と一緒に来なさい!」
エパは嬉しそうに笑顔を咲かせると、直ぐに俺の手を取って何処かに連れて行こうとする。これは、面倒なことに巻き込まれそうな予感。
「待て待て待て。今はちょっとティアと話しをしていたんだ。急に来いって言われても難しいぞ。」
「え?なんでよ。」
「先着がいるからだ。」
「なら、そっちからちゃちゃっと終わらせちゃいましょ。」
エパは俺の手を離すと、手を組んでむっふりとした。どうやら俺達の会話をそこで聞いているようだ。そうやって構えて聞いているやつがいると思うと話し辛いな。
ティアの方を見れば、彼女は案の定困惑していた。
「え、えっと。リヴィス君。私の事は気にしなくていいから。怪我の具合が分かれば充分で、あば、あばばばばばば」
目を回して慌てふためいた彼女が早口で言葉をまとめる。そして逃げ出そうとしたのでその手を掴んで引き止めた。なんだか、このままではいけないような気がしたのだ。
このままだと結局、俺はエパやフライア先生、その他の事柄達に振り回されて彼女を独りぼっちにしてしまう。
ある桜舞い散る春の日。最初に出会った少女と俺は友達になったのだ。
「なあお前、うちのチームに入らないか?」
「ふぇ?」
エパはその言葉に、素っ頓狂な声を上げる。
「別に無理強いをする気はないんだ。でもティアさえよければ、俺とエパとの学園エンジョイチームに入らないかなって。そうすれば、もっと気楽に話せるようになるだろ。このままティアを一人にするのも気が引けるし、そっちさえよければ俺はそうなりたい。」
「ふぇ?え?ええっと……。」
「なによ。そういうこと。それなら早く言っておきなさいよね。」
後ろで腕を組んでいたエパは、それを降ろして隣に並んでくる。
「知らなかったわね。リヴィス。あんたも勧誘とかやってたの?」
「いや、やってないが。別にやっても問題はないだろ?お前の方の成果はないみたいだしな。」
「むむ。言ったわね。今に見ておきなさいよ。団員の一人や二人、私だって直ぐに見つけてやるんだから。」
そういって彼女はティアの前へと歩を進めた。そして何かを品定めするようにじっと彼女を視線で舐める。
「うーん。ヒーラーは気の強いツンデレお姉さん系の人が良かったんだけど。」
なんて、とんでもなく馬鹿なことを呟き始めた。本当にこいつの中には理想のチーム構成でもあったのだろうか。というか、こいつさっき“団員”って言ったよな。もしかして俺が所属するだろう集団の名前も既にエパの中にはあって、〇〇〇団とかいう名称になるのだろうか。まあ、名前なんてどうでもいいが。
「でもやっぱり、萌ヒロインっていうのも捨てがたいわよね。その点、ティアは満点なのよね。可愛いし、おっぱいも申し分ない。」
「ひゃ!きゅ、急につつかないでください!」
「……。いい揺れね。」
こいつの頭は大丈夫なのか。本当にエパと同じ組織にティアを置いていて大丈夫なのか心配になってきた。もしエパが男なら今のでこいつを殺していたかもしれない。
「私の方は問題ないわ。後は彼女の返答を待つだけね。」
どうやらエパの方はティアを入れることに特に問題はないらしい。俺の方はこいつの審査基準に異議申し立てをしたいところだったが、今余計なことを言えば話しが有耶無耶になりそうだったので止めておいた。
俺達は、静かにティアの返答を待つ。彼女は突かれた胸を押さえて口をむにむにと動かし、何かを思案しているようだ。
「嫌なら断ってもいいんだぞ。ティア。」
「そうよ。私の誘いなんて断った人の方が多いんだから。」
……。やっぱり失敗してんじゃねぇか。勧誘。
「いえ。いえ。嫌なんかじゃありません。それどころか、少し嬉しいくらいで。」
「「だったら!む。被んな」いでよ。」
「クス。はい!これから、よろしくお願いします!」
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