第5話「この恋心に蓋をして~奈湖視点~」

「確かに私は声優ですけど……」


 おじさまは年齢を重ねても、私との関係を保ってくれていたから。

 だから私も、精いっぱい姪という立場を努めていこうって。

 おじさまが好きな私の声で、おじさまの仕事の役に立ちたいって。


「おじさまの家族でもあるんですよ」


 物心がつくのときから、姪の私と仲良くしてくれていたおじさま。

 おじと姪は結婚できないと知ってしまったからこそ、おじさまの隣を並んで歩いていきたかった。

 家族として、仕事仲間としての権利を得られるのだったら、自分の中に秘めている想いに一生鍵をかけたっていいと思っている。


(思っていた……嘘じゃない……嘘じゃない……)


 自分に言い聞かせながら、おじさまに最高の笑顔を見せる。


「家族として写真に写ることは、いけないことですか?」


 おじさまと三年間限定で一緒に暮らすことになった際に、お母さんが私の気持ちに気づいていたのかは分からない。でも、おじさまと私が恋人関係になることはない。


「おじさ……」

「そういえば、俺たち写真を一緒に撮ったことないよな?」

「…………小さい頃なら、あるんじゃないでしょうか?」

「覚えていないくらい昔ってことだろ」

「そうですね……」


 ある意味では、信頼されている。

 ある意味では、これを最後にしなさいという警告なのかなと思っていた。


「ちゃんとしたところで撮った方がいいのかもしれないな……」

「え? あの、私は普通に家族写真を撮ることができたら、それだけで……」

「普通の家族写真だとしても、俺たちにとっては記念撮影だろ?」


 受け取りたい。

 おじさまの好意と厚意を、全部私が独占したい。

 けれど、そんなことを口にしたら、私の気持ちがばれてしまう。


「……これから、私がお邪魔させていただく部屋で撮りましょう!」

「部屋なんて味気な……」

「三年間過ごす、思い出の場所です!」


 繰り返し。

 繰り返す。

 だから、二人は今も恋人同士じゃないのかもしれない。

 だから、私たちは今日もおじと姪という関係が続いているのかもしれない。


「まあ、奈湖がいいなら……」

「よろしくお願いいたします、おじさま」


 おじさまと目が合って、逃げるように視線を避けてしまった。

 けど、恥ずかしさに怯えてばかりいたら、せっかくの三年間が色のないものになってしまう。


「今日の奈湖は、照れ屋だな」

「おじさまが格好良すぎるんです……」


 事実を口にしながら、ゆっくりとおじさまへと視線を戻す。

 すると、おじさまはもう私の方を見てはいなかった。

 おじさまが夢中になっているものは、いいマンガの資料写真を撮るための機能に何があるかということについて。


「おじさま、注文の品が届きましたよ」

「ああ、ちょっと待ってろ」

「食べ物は鮮度が大事ですよ」

「分かってる……えーっと……」


 憂鬱な気持ちで、三年間を送ることのないように。

 青春謳歌という言葉からは縁遠い場所にいるけれど、後悔しないように。

 自分から招いた結末なのに、なんだかしっくりこないところが少し苦しい。


「いただきまーす……」

「待った! 位置枚も撮影してない……」


 抹茶アイスとバニラアイスが添えてある和パフェに向けていた視線を、窓の向こうに移そうとしたそのときだった。


「って、待った!」

「もう……アイスが溶けちゃいます……」

「人気声優が、そんなに甘い物を過剰摂取して大丈夫……」

「おじさま、過保護すぎです」


 変化が訪れそうになったら、元の日常に帰ろうと焦りだす心。

 おじさまへの想いが甦ってきそうになったら自分の心に蓋をして、姪という立場を今日も演じていく。


「今度こそ、いただきますね」


 いつまでも、おじさまに影響される日々を続けていたい。

 恋に恋を重ねていく日々が、一番好き。

 これからだって、それでいい。

 それなのに、いつまでもおじさまに恋していく自分ではいられない。

 

「奈湖! こっちのも食べていいから、もう少し時間を……」

「……おじさまの頼みなら、仕方がないですね」


 当たり前。

 これから三年間かけて、私は当たり前という言葉を身体に刻み込んでいく。

 おじと姪の関係を続けていく。

 それ以下でも、それ以上にもならない。


「ありがとう、奈湖」


 一緒に暮らすということは、おじさまとの思い出が増えていくということ。


「これからよろしくお願いいたします、おじさま」


 一緒に暮らすということは……おじさまとの最後の日々が始まるということ。






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おじと姪が結婚することは認められませんが 海坂依里 @erimisaka_re

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