第4話「おじさまのためにできることはありますか~奈湖視点~」

「俺たちの会話、援助交際みたいだよな……」

「おじさまって呼び方が宜しくないですよね……」


 ほんの少し、テンションが下がる。

 でも、二人で笑い合うと、落ち込んだテンションが再び勢いを取り戻し始めるから不思議だった。


「ですが、年齢が近いって得ですよね」


 私が希望した和喫茶に入ると、多少は人目を気にしなくて良くなったかもしれない。

 テーブルに突っ伏すような態勢で、私はおじさまの前で安堵の溜め息を零す。


「さっきの援助交際云々か?」

「はいっ!」


 食にたいして関心のないおじさまは、メニュー選びを任せてくれた。

 けれど、テーブルから顔を上げたくない。

 顔を上げたら、おじさまと目が合ってしまう。


「お母さんに、おじさまが通報されるようなことだけは気をつけなさいと言われていて……」

「たいして身長伸びなかった上に、幼く見られがちだもんな」


 姪の額を、軽く指で弾くおじさま。


「くぅっ」

「大袈裟」


 額を、軽く指で弾いただけ。

 軽く弾いただけのはずなのに、激痛が走ったかのごとく私は悲鳴を上げる。

 そして、痛みを帯びた額を両手で覆う。


「さっきまでの甘々なおじさまは、どこに行ってしまったんですか……」

「奈湖の声は好きだけど、姪を甘やかしまくるつもりはない」

「うぅ」


 こんなことを言っていても、おじさまは私に対して激甘に接してくれる。

 こんなにかっこよすぎるおじさまが、姪を溺愛しないわけがない。

 どこかのラノベタイトルにありそうなフレーズが頭を過っていく。

 けれど、これは確信。

 おじさまは、私のことをとても大切に扱ってくれる。


「奈湖?」

「あ、いえ、三年間というのは……とても貴重な時間だと思っただけです」


 大きく伸びをして、体を解すフリをする。

 体を解すほどのことはやっていないのに、おじさまに置いていかれるかもしれないって恐怖を拭っていく。

 おじさまの顔すら見えなくなっていくのは、多分気のせい。


「おじさま、これから三年間は家事をお任せくださいね」


 嘘を、始めよう。

 嘘を、ここから始めよう。

 白雪奈湖しらゆきなこは、おじさまの姪。

 それ以上でも、それ以下でもないって。


「仕事に支障が出ない程度に頼む」

「はいっ!」


 控えめでおとなしくて、小さい頃はおじさまの後を付いていくのが精いっぱいだった。

 それなのに、おじさまは後れを取りがちな私に必ず手を差し伸べてくれた。


「あ、おじさま! せっかくの和喫茶なので、資料用に写真を撮りましょう」

「あ……ああ、そういう案もあるな」

「すみません!」


 困り果てている私に、真っ先に声をかけてくれた。

 何を困っているのか、一緒になって考えてくれた。

 それをお節介だって揶揄する人もいたけれど、そんな人たちをも自分の内側に入れてしまう魅力をおじさまは持っていた。


「あの、写真を撮っても大丈夫でしょうか」


 両親だけではなく、親戚でさえも、おじさまを慕う人で溢れ返っていた。

 それに加えて、高校生のうちに大ヒットマンガの作画を担当するという快挙を成し遂げた。

 人気マンガ家と人気イラストレーターとしてのポジションに辿り着くまで、そう時間はかからなかった。


「ありがとう、奈湖」

「今度の創作活動に役立ててくださいね!」

「ああ」


 おじさまの隣を歩くためには、なんの誇りも持っていない自分では駄目だと思った。

 おじさまの品格を落としてしまうんじゃないかって怖くなった。


「写真に、ポーズモデルは必要ですか?」

「できれば欲しいけど、奈湖は芸能人だからなー……」

「…………」


 だから、おじさまが関わっている作品に出演ができるような実力ある声優を目指そうと思った。

 おじと姪。

 クリエーターと声優。

 両方の関係を手に入れて、私はおじさまの傍にい続けようと誓った。

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