夜間海岸

ノーネーム

第1話 灯台下暗し

夜の海岸。私は一人、彷徨っている。

おそらく、ここは夢の中なのだろう。明晰夢、というやつだ。

真っ暗な海。さざめく波音。靴底にまとわりつく砂。

それらを感じながら、果てのない海岸線を歩く。

歩き続ける。すると遠くに、何人か、人の姿が見える。

私は人がいる、という喜びから、駆け足で人々の元へと走った。

近付くと、皆、何も言わずに佇んでいる。

人々の顔をよく見ると、その顔は私がよく知る人々のものだった。

「彼女」と「あの男」の二人だった。

眠りにつく前、俺は「彼女」と「あの男」が寝ているのを見た。

激昂した私は、二人を…刺した。

かつて、「あの男」は友人だった。

思い起こせば、この海は私たち三人でよく来た海岸に似ていた。

彼女は、この海の向こうに見える島にいつか行きたい、と言っていた。

かつての友人は、今年の夏は、三人でその島に行こう、と語っていた。

ついに、その島に行くことは叶わなかったが。

月光が、海面を照らしている。島の影が微かに、浮かび上がっている。

否、今から行けばいいではないか。私は、砂浜に打ち上げられた舟を見つけた。

オールもある。私は二人を一人ずつ抱き抱えると、船へと運んだ。

私は船を海へと押し、乗り込んだ。重い感触の、オールを漕ぐ。

海を渡る。しかしなぜ、二人とも黙りこくっているのであろうか。

オールを漕ぎ続けると、島は徐々に近づいてきた。よく見ると、

島の下部には赤い鳥居がある。

島に舟を寄せて、二人を下ろす。鳥居をくぐり、私も島に上陸した。

島の内部には頂上への参道のようなものが続いており、私はその道を登り始めた。

生い茂る木々。夢の中だからか、汗はかいていない。暑くもない。

ひたすら登り続ける。

山頂に辿り着く。ここからは、海の全域が見渡せた。

遠くに微かに、私たちの居た砂浜が見える。

ふと下を見ると、二人は舟に乗って島から離れていた。

私はひとり、取り残された。海風だけが、ひたすらに靡いていた。

私は、月の光を道標に、どこに向かえばいい。

私は、島から下り、海を泳いで渡ることにした。ただ、月のある方へ。泳ぎ続けた。

明け方。私は目を覚ました。部屋には、二人分の血の海が広がっている。

私はその中央で、二人と手をつないで天井を見ている。

二人は、もう何も言わない。舟に乗って、どこかに行ってしまった。

耳をつんざくサイレンと赤い光だけが、私を照らしていた。

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