第3話・死人に口無し……異世界転生者は人でなし

 シュラと公園で別れたオレは、ブラブラと住宅街の登り坂を歩きながら考えた。

「ぜんぜん、笑える死に方が思いつかないろ……だいたい、あの鬼女神が笑う基準も分からないし。笑える死に方なんて偶発的要素が多い死に方だし」

 そんなコトを考えながら坂道を登っていると、前方に銀色をした子供のような身長の生物がオレの方を向いて立っているのが見えた。

 アーモンド形の黒目をした、小型グレイ宇宙人の手には、オモチャのような銃が、握られているのが確認できた。

(宇宙人に仮装した子供か? ヒマだから少し、からかってやるか)

 オレは、宇宙人の仮装をした子供に向かって尻を向けると、ペンペン尻を叩きながら、小馬鹿にしてやった。

「パーカ、パーカ、お尻ペンペン」

 次の瞬間、オレの頭を光線銃から発射された、殺人光線が貫通した。

(ぎゃぁぁ、本物だった!)

 眼の前が真暗になふって、倒れたオレの耳にどこからかシュラの笑い声が聞こえてきた。

「きゃはははっ、宇宙人に頭撃ち抜かれて死ぬなんて……最高に笑える、アタイを笑わせてくれたから、お望み通りに異世界転生させてやるよ。きゃはははっ」


【初めての異世界転生】


 オレが自我を意識したのは、乳飲み子で産着に包まれて女性に抱かれている時だった。

 建物の外から爆発音が響いていた。

 チラッと見える天井の宗教画の雰囲気から、北欧風の世界のようだった。


(ここは……オレは異世界転生したのか? なぜ、赤ん坊の姿で? あぁ、そうか異世界転移じゃなくて。異世界転生だから赤ん坊から異世界人生スタートか……面倒くさいな)

 赤ん坊のオレを抱いているのは、どうやらオレの母親らしい。

 爆発音が激しくなってきた。爆発の振動が聖堂の中にまで伝わってくる。

(この世界は戦乱の世界なのか? 内戦とか戦火の真っただ中⁉ とんでもない異世界に転生しちまった)


 オレが、そう思った次の瞬間──天井に亀裂が走るのが見えた。

(ヤバい、早くオレを抱えて逃げろ! 崩落した天井の下敷きになるぞ!)

 オレは叫んだつもりだったが、オレの口から出た言葉は「ばぶぅぅ」だった。

 大きな爆発音が響いて聖堂が揺れて、崩れてきた天井の下敷きになって。

 オレを含めて、戦火を逃れて聖堂に避難していた人たちは……全員死んだ。

「ぐぇっ」


  ◇◇◇◇◇◇


 最初の異世界転生を赤ん坊で終了したオレは、現世の時の姿で異世界転生の狭間はざまの空間に立っていた。

 黄金のリンゴが実る樹の下に、鬼姫 シュラが胡座あぐらをして、枝からもぎ取った黄金のリンゴを食べていた。

 シュラが言った。

「どうだ、願い通りに異世界転生した気分は」

「赤ん坊で、何もできない異世界人生で死んだ」

「それは不運だったな……一回、異世界転生したら。笑うような死に方しなくても、次からは普通に異世界転生できるぞ」


「どうせ異世界転生させるなら。もっと、まともなファンタジー異世界にしてくれ」

「あぁん? ボケがぁ、おまえのようなクズの異世界転生希望者が、まともな異世界転生できるワケがないだろう! 身の程をわきまえろ。おまえは悲惨な異世界人生をこれからも繰り返すんだよ! ボケがぁ」

 立ちあがったシュラが、金棒で狭間空間の地面を突く。

「先に言っておく、異世界転生を繰り返すたびにスキルが上昇して最強の無双者になるなんて、おまえの場合は一ミリも無いからな……ミミズは一生、ミミズのままのように……わかったら、さっさと二巡目の異世界転生をしやがれ!」

 周囲が暗闇に包まれて、一点の光りが見えたかと思うと急速に広がってきた光りに包まれて、オレは二巡目の異世界転生を果たした。


【二巡目の異世界転生】


「困ったな……あたし、この恋愛ゲーム知らない」

 オレ……いや、今回は女性の、あたしが異世界転生した世界は中世ヨーロッパ貴族社会のような世界だった。

 その世界で、あたしは貴族の娘でヒロインの人生を邪魔する悪役令嬢として転生していた。


「このままだと、悪役令嬢がバットエンディングを迎えるゲームルートから逃れられないですわ……どうしたら、いいのかしら?」

 考えている間にも、物語は進行してヒロインは貴族の御子息と婚約してハッピーエンドな展開に。


 あたしの方はというと、脇役の嫌な女キャラとして悲惨なバットエンディングを迎えようとしていた。

 貴族の親が破産して、屋敷を追い出され冬の雪が降る街の隅で一人、ボロボロの布をまとって寒さに震えている。

 あたしの耳に、ヒロインと貴族の結婚を告げる教会の鐘の音が聞こえてきた。

「結局、悪役令嬢ルートの回避はできなかった……今回の転生は、このまま雪に埋もれて凍死……寒い」

 こうして、あたし……いや、オレ葛道 海星は寒さに震えながら死んだ。


  ◇◇◇◇◇◇


 その後もオレは、悲惨な最後の異世界転生を繰り返した。

 三国志的な中華異世界では、雑兵になったオレは戦場で槍数本の串刺しになって亡くなり。

「無念でござる」


 後宮な世界では、皇帝から目もかけられず、最下層で存在が埋もれたまま、女同士の抗争の犠牲者となって目立たない侍女のまま死んだ。

「あぁ、涸れ井戸に突き落とされて。暗い井戸の底には、転がる白骨死体が……ガクッ」


 海洋世界では、海賊に憧れる漁師の人生で、海に落ちてサメに食われて死んだり。

「いやだぁ、オラこんな海洋生物のエサになる異世界人生のラスト、いやだぁ」


 とにかく、なん回異世界転生しても悲惨な最後を迎えるだけの、ロクでもない異世界人生ばかりだった。

「こんなの、オレが望んでいた異世界転生と違う……あっ、また魔王討伐の勇者パーティーが田舎の村を通り過ぎていく。モブキャラの村人Aじゃ、勇者のパーティーに加えてもらってパーティーから追放されるなんて、夢また夢か」


  ◇◇◇◇◇◇


 なん巡目の異世界転生かの記憶も定かでないオレは、山中の畑で倒れて老衰の寂しい独り身の最後を迎えようとしていた。

 木の幹に背もたれで、最後の時を迎えようとしていたオレの眼の前に、会った時と変わらない姿のシュラが現れて言った。


「よっ、ジジイの葛道 海星……久しぶりだな、今回の異世界人生はどうだった?」

「何も無い……平々凡々な、つまらない人生だった」

「贅沢な、波風立て無い平凡な無病息災な人生だったら、最高な人生じゃないか……おまえが満足する異世界人生なんて永遠に来やしねぇよ……クズの異世界転生希望者の、安易で安泰な異世界転生など認めねぇ!」


 オレは涙ながらに鬼の転生女神に哀願する。

「現世に逆転生させてくれ……異世界はコリゴリだ」

「ふざけるな! 身勝手なコトを。神仏の輪廻転生から外れようとするから、神と仏の怒りを買って、お前自身が〝ざまぁ〟されているんだよ……まぁ、逆転生もできないコトはないけれどな。逆転生しても現世の地球は時間の流れが進んでいて、人類のほとんどが火星に移住していて、地球には人間はほとんど残っていない……それでも現世転生したいのか?」

「それでもいい」

「それじゃあ、次から死ぬ時に……」


 シュラが、楽しそうな笑みを浮かべたのをオレは見た。

「歴史に名を刻むくらいのバカバカしい、笑える死に方ができたら、現世に逆転生させてやる」

「はぁぁ?」

 そんな死に方、どうやったらできるんだ。

 

 シュラが自分の肩を金棒で、トントン叩きながら言った。

「まあ、せいぜい頑張って。アタイが大笑いするほどの歴史に残る死に方をして、現世逆転生を目指せ……きゃはははっ」

「頑張ります……とりあえず今回は、人生なにもかも懐かしい……ガクッ」

 老体のオレは、樹の幹に背もたれた格好で老衰で死んだ。


 転生地獄道~安易で安泰な異世界転生希望など認めねぇ~おわり

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転生地獄道~安易で安泰な異世界転生希望など認めねぇ~ 楠本恵士 @67853-_-

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